遠い太鼓

早起きをして新宿へ向かいます。両替1ユーロ140円、ヒ〜!私も1万円をおこづかいとして両替しようとしたところ、財布にお金がありません。わ、家に忘れて来た!取りに戻ろうかと左腕をめくると腕時計がありません。わ、忘れて来た!ピアスもネックレスも腕輪も何も身につけていない、あたし。昨日の夜、明け方の3時まで準備していたのに何をやってたんだろう。落ち込んだ顔をしてTPにお金を借りて、普段時計を持っていないTPに腕時計を買わせていざ成田へ。チェックインのカウンターで係の人が「お荷物おあずかり…」と私たちの背中のリュックを見て、お荷物はそれだけ、ですか?…すでにお預けになったとかではなく?国内便の乗り継ぎとかでもなく?本当にそれだけですか、と何度も尋ねられたので吹き出して笑います。貧乏旅行なのでスーツケースは持っていないだけのこと、そこまで驚いてもらえるともう元を取ったように元氣が出ます。


遠い太鼓 (講談社文庫)

遠い太鼓 (講談社文庫)

遠い太鼓。ギリシャとイタリアの滞在記と知って近々読みたいと思っていた文庫が、空港の本屋にありました。喜んで買います。


食べて寝てトイレ行って、寝て食べて寝てトイレ行って食べて寝る。もう永遠に地上へはたどり着かないかと思った頃ようやくイタリアの空港に到着しました。そこからシチリア行きの国内便はわずか1時間。夜中になっています。中心地までの空港バス6.1ユーロ。地元の人や出張の人たちが次々と降りて行きます。街灯が薄暗い街。通り道のヨット置き場では老若男女が何十人もたむろしています。ただ立ってお喋りしているだけ。小さな街をいくつか通って中央駅に着くと、一軒の店も空いておらず、タクシーが数台行き交っている、真っ暗闇から黒人の人が出て来てそのまま通り過ぎるだけ。地図を見て珍しくネット予約した宿のピンポンを押すと、ガチャッと門扉が解錠される音だけが響きます。古くて重たい木の扉を押すと、石畳が波打った広い中庭、何台も停まっている小さなイタリア車、その奥に舞踏会のようなしつらいの階段、たわんだ木を踏みしめてマリーアントワネットの氣分で上がります。入り口の重たいドアを開けると受付の女性はテレビを見ていました。ホテルオリエンターレ43ユーロ。100を出すと小銭はない?とのこと。両替したてでコインは持っていないと言うと、おつりは20セントがたくさん戻って来ました。このあたりで水か何か買えるところはないかと尋ねると、ないない、水ならナチュラルとミネラルどっちがいい?ナチュラルでいいよね?とのこと。ナチュラルでいいと答えると水道水をペットボトルに入れて冷やしたものをくれました。部屋は古いけれど清潔、共同のシャワーを浴びて窓の外を眺めます。今回の旅行を計画してくれたTPは、死んでるのかな?と思うような顔で倒れ込むように眠ってしまいました。店が一軒も空いていないから、歩く人は少ないしお酒も飲んでいない。ただ若者が行き交うだけ。長袖シャツでちょうど良い氣温、ヒンヤリと静かに、車の音だけが響いていました。ビールなしで眠るのは何年振りだろ?