無言の10分間

昨日、忠犬門公をした後で、ひとりでコーヒーを飲みたくなってドトールへ入ろうとしたけれど読むものが無いのでコンビニで雑誌「クロワッサン」を買ってじっくり読んでいました。すると、何と!キム・ギドクの新作がもう公開されているではありませんか!思わずコーヒーを吹き出しそうになるほどの喜び、身体の底から生きる活力が沸いてきて、絶対に、日曜日の朝イチで観に行こうと決めます。世界中で、一番、大好きな映画監督。

そして今日、朝の7時に起きて、開館前の映画館の入り口が見えるスタバの席を陣取って待機して、今か今かと待って「The NET 網に囚われた男」を観ました。スタバから探偵のように開館を待っていたのに、氣がつけば入り口のチェーンはそのままに、ひょいっとお客さんが映画館の階段を降りて行くのが見えました。しまった!出遅れた!紙コップ片手にスタバを飛び出して、座席を選ぼうとするとすでに、通路側は全部埋まっています。チクショウ!一緒に見張っていたTPにも軽く八つ当たりしたくなります。でもま、いっか。観られるなら。

「スパイでも英雄でもない〜ある事故により国境を越えた漁師の男にふりかかる理不尽な運命。世界三大映画祭を制し、頂点を極めたキム・ギドク監督が現代社会へ突きつけた渾身の作」との宣伝文句。朝イチの映画館は、キム・ギドクの新作を生きる糧にしていたような人が多いのでしょう、年齢層は少し高め、おじいさん同士の待ち合わせや、中年夫婦、男子大学生、おじさん、おじいさん、おばあさん、おばさん、若者、全部で40人ほどいたでしょうか。今回は集中したいので一番後ろの席を選んだけれど、ちょっと画面まで遠かった。

映画が始まった瞬間から心を奪われて、もしかすると息をしていなかったのかも知れない、日常じゃないどこかの場所へぶっ飛んで、漂って。映画館を出て、無言でTPと10分ほど歩いたところでTPがぽつりと「素晴らしい映画やったね」と言ったのを皮切りに、素晴らしかった、あのシーンが、あの設定、あの台詞!と感情があふれて止まらなくなって、空の色の青さが完璧に見えて。同じくキム・ギドクフリークのRCと感想を言い合いたいから具体的なことはここで書かずに、とにかく自分の淀んでいた価値観を徹底的にぶち壊してもらったこと、その裂け目から愛情をたっぷり、こぼれるほどに注いでもらったこと、自分でも驚くほどの怒りを感じさせてくれたことが、生きていて良かったと思います。



映画を観ていたら韓国料理を食べたくてたまらなくなって。


定位置が無かった「おひつ」の居場所を決めて。畳替えのときに畳屋さんがプレゼントとしてくれた小さな畳の上に決めました。ごはんはある意味、神様のような存在です。

神様、どうかキム・ギドク監督ができるだけ長生きして、これからもコツコツと映画を撮り続けてくれますように。