トライアスロン?

夜中に出発した飛行機は早朝にシンガポールチャンギ空港に到着しました。地球の歩き方をよく読むと、まさかの煙草持ち込み制限で、目が飛び出るほどの関税を払ったのに、何の荷物検査もなく出口から出されてシンガポールに入国してしまった、それなら正直に支払う必要なかったじゃないか!と落ち込んだ後で、正直者には福があると自分をなぐさめます。まだようやく日が射し始めた頃。眠たいってもんじゃない、あたしがポニョなら人間から金魚に戻っちゃうほどの眠たさ、もしかするとちょっとお魚に戻っちゃってるかも知れない。地球の歩き方を参考に、初心者には難しい乗車6回割引券を買ってモノレールに乗り込みます。2駅進んだところで、逆方向に戻ってしまったのであわててまた乗り換えて、目的の駅を目指します。乗車している人たちの顔をたっぷり眺めていると、どこからどう見ても日本の人にしか見えないあっさりした顔の人が多くて驚きます。続けて彫りの深いオリエンタルな顔の人、中華圏のような堂々とした顔の人、背丈も日本の満員電車と同じような感じです。到着したリトルインディア近くの駅では、朝の通勤風景が見られました。女の人のほとんどはミニスカートのワンピース、男の人はスーツ姿かポロシャツが多いようです。てくてくと歩いて、ホテル探しだけでも眠たい半魚人には辛い暑さ。安いけどカビ臭い宿、安くないうえにボロボロの宿、激安だけどオシッコの臭いがする宿、安くないけれどカビ臭い宿、高くて窓も無いけれどすぐにチェックインできて清潔な宿、初めての街を歩き回ってウロウロして、途中で道端に座り込んでどこにするかTPと話し合って、9時半。安くないうえに窓無しだけれど清潔感のあるところにチェックインします。お金を払って荷物を置いた瞬間、TPはベッドにうつ伏せて死んだように眠ってしまいました。88シンガポールドルチャンギ空港で両替すると、1万円札が121シンガポールドルになった。1シンガポールドルは83円くらい、今日の宿は7,300円ほど。まだ空港からモノレールに乗って、宿探しをしただけなのに汗まみれ。早速、着ていたTシャツやパンツを洗って干してみます。パジャマとして持ってきたアッパッパーに着替えてみると、私もいつの間にか眠ってしまいました。とっても誰かからモテている夢を見ていい氣持ち、起きるともうお昼になっています。


12時45分。「リトルインディア駅」から地下鉄に乗って「チャイナタウン駅」へ。


13時半。旅の隊長、TPがシンガポールで最初に行くと決めたところは「マックスウェルフードセンター」。どこもかしこも工事中のシンガポール。工事中の脇道を抜けながら、道に迷いながらようやくたどり着きます。地元の人も利用する大人氣フードコートだそう。中華、インド、何ちゃって和食、タイ、インドネシア風、マレーシア風、地元風の食堂が3つのゾーンに並んでいて大盛況。ガイドブックの通りに、ティッシュで座席を確保していたところ、アメリカ人の人たちに勝手にティッシュをどかされて、料理を手に戻ってみると席は無くなっていました。がっかり。シンガポール人家族の席に相席させてもらいます。それにしても、日本以外のアジアの人たちは、いつも料理をたくさん残して食べ終えているのが不思議。以前同僚だったインドネシア出身のAさんも「日本人はホント、料理残さないよねー」と言っていたっけ。日本人だけが、食事は残さず食べましょうと教えられて育っているんだろうか?面白い。私、魚団子スープ4ドル、TP、チキンライス小、5ドル。食いしん坊のTPがあえて小サイズを選んだのは、これから街歩きをしながら色々と食べ足したいからだそう。


14時過ぎ。マックスウェル通りを、マーライオンやマリーナベイサンズという有名なビル(スケボーを頭の上に乗せたような3本あるビル)がある港方面に向かって歩き出します。TPがマリーナベイサンズとは似ても似つかないビルを見て、あった!あれやない?などと言っているけれど、あまりの暑さとあまりの似ても似つかなさに「・・・どう見ても違うやん」としか言葉が出ません。シンガポールの街は、見上げればひっくり返りそうなほどの高層ビル群、吹き出す汗。

暑くてたまらず、生スイカジュースを買って飲みます。1杯5ドル。店先で飲んでこれからどの道を行こうか相談していると、店のお客で小さなコーヒー一杯で長居しているようなお爺さんが、ここに座れと椅子を指し示してくれます。素直に座ると、スカイジュースはおいしいか?と聞くのでおいしいと答えると「ノーシュガー」、それがとても大切なことなような口調で言うので、えーっと驚いた顔をして有り難く飲んでみせます。満足そうなお爺さん。ノーシュガーのスイカジュースを飲むとやっと、本当にシンガポールの街を歩いているんだなぁという実感がやっと沸いて来て、半分金魚だった身体は人間に戻りました。

あら?もしかしてあれがマーライオンじゃね?世界三大ガッカリ観光スポットとはよく聞いていたけれど、想像以上に小さい、そしてその小ささがかえって可愛く見える。マーライオンって単語を連発して喋るのが何だか氣恥ずかしいので、これからはマー君と呼ぼうと汗まみれのTPに言ってみると早速「マー君、かわいい、ぽってりして可愛い」などと言っています。どうやらぽってりしているその姿に親近感を覚えたようです。

マー君の出す水を口で受け止めるTP写真を何枚も撮って、満足の一枚が撮れたのでマリーナベイサンズに移動。

入場料ひとり23ドル!目が飛び出るほどの金額を払って、有名なビルのスケボーの先端辺りをチョロっと歩くことができます。向かって左手には高層ビル、右手には高層住宅と熱帯雨林。ふーんと思って眺めていたけれど、世界中から集まった観光客の人たちが、日陰になるところで座り込んでじーっと景色を眺めているのが氣持ち良さそうなので、真似して座ってみます。

座って目を閉じてみると、何とも知れないいい氣持ち、爽やかで幸せな、天国にいるかのようないい氣分。どんな場所でも、座って、ボーッとしてみることって、ものすごく大事なポイントなんじゃないかしら?と新しい発見。このことは死ぬまで、ずっと覚えておいて何度も思い出そう、そう決めます。


17時10分。千葉の幕張あたりのような大通りを歩いて、ラッフルズホテルへ!村上龍の同名小説の舞台がシンガポールにあるとは知らなかった、旅行の直前に小説を読んでいたからか、とても魅惑的な場所に思えます。そして、有名だというシンガポールスリングを頼もうとバーに入ってみると、メニューの横に「31」の数字。何だろうな?と思っているとそれが値段でした!目が飛び出るほど高い!TPはシンガポールスリング(31ドル)、私は少し躊躇してオールドスリング(28ドル)を注文します。カウンターには食べ放題の落花生、TPは「これ、おいしい!門ちゃんも食べてみ!」と興奮して次々と剥いて食べていますが、試しに食べてみても日本じゃ売り物にならないような小さい豆の落花生、塩味だけが強めの豆の旨味は一切無い味、サービス料がさらに10パーセント加算されるバーでカクテルを飲んでいる高揚感が、へなちょこ落花生すら最高級に感じさせるのでしょうか。


18時半。大通りをあちこちと歩いているうちに、ようやく日が暮れてきました。ファミレスのようなステーキ屋で、肉料理を食べてみます。ふたりで45ドル。初め、お会計のときに62ドルと言われて思ったよりもものすごく高かったのでよく伝票を見ると、お隣りの席の人たちが食べていた食後のデザートが加算されています。これ、頼んでないですと伝えて再計算してもらいます。ホッとしたけれど、この国は案外いい加減なのかも知れない。

19時過ぎ。TPがどうしても行きたいと言う湾岸のライトアップショーに。時間を過ぎても目をこらさねば見えないほどのレーザービームがチョロリ、チョロリ。あまりのしょぼさに、見なかったことにするように、お次の目的地、TPのシンガポール初日行くべき場所リストに従って移動します。夕立に会ったような汗、ぐっしょり。


20時半。大観覧車へ。シンガポールでは夜22時を過ぎるとビールが買えなくなるそうなので、コンビニで事前に買っておいたものが入場口の荷物検査で持ち込み禁止になります。ビールを預けて、カプセルのような観覧車へ、ひとり33ドル!どこもかしこも、お金がかかる!思い返せば、旅行前にTPが何度も「シンガポールではお金つかうことを覚悟せんといかんな」「シンガポールではお金をつかうつもりでおろうね」などと言っていたっけ。このことだったのか!私は観覧車など乗らなくたっていいのだけれど、TPはメジャーどころへの好奇心がたっぷり、全部を見たくてたまらない様子。


大観覧車のカプセルには、アメリカ人夫婦、メキシコ人カップル、韓国人カップル、わたしたち日本人夫婦、アメリカ人老女三人組が乗り込んで、上に進むのをじっと座って待っていましたが、アメリカ人夫婦のご主人が持参の一眼レフカメラを手に席を立ったのを皮切りに、誰もが立ち上がってパシャパシャ、大写真撮影大会になってしまいました。TPもカプセルの中をあちこち動き回りながら、パシャパシャと写真を撮っています。シンガポールはどこまでも都会、どのビルも斬新なデザインで、日本の高層ビル群なんて地味で質素に思えるほど。そしてどこも工事中だった。そして、暑い!誰からも尋ねられることは無いだろうけれど、もしシンガポールを質素に旅行したい人から、どこか一カ所だけ行くとしたらどこですか?と聞かれたとしたら、マリーナベイサンズの展望台だけで十分ですよと答えようなどと妄想します。

観覧車が地上に着く頃にはもう夜の21時過ぎ。TPはもう一カ所、ガーデンバイザベイというところのライトアップショーも見たいと言っていましたが、あたしがまた金魚になっちゃった姿を見てようやく、今日は帰ろうかと言ってくれました。「今日は早く帰ってさ、明日こそガーデンバイザベイと、セント何とか島(忘れた)と、ナイトサファリに行こうね」そう嬉しそうに言うTPに「色々と調べてくれてありがとう。でも今日はトライアスロンみたいな一日やったね。もう頭が動かんくなった。明日のことは明日考えさせて」と宣言して、無言で地下鉄に乗って、今日の宿マヨインまで帰ります。もう汗ぐっしょりを超えて、汗べったり、ベタベタ、べっとり。

シンガポールの地下鉄のエスカレーターは、とにかく速い。倍速で動いているようなスピード感です。スケルトンの歯車も格好良くて、とにかくこのエスカレーターを下って、地下鉄に乗って、宿に戻って、シャワーを浴びて眠れば、今日というトライアスロンな一日が終わる、がんばれ門ちゃん、そう自分に言い聞かせながら、ぬるくなった缶ビールを提げて、倒れるように宿に戻りました。マヨインのホットシャワーは、お湯全開でもまさかの35度程度!震えながらシャンプーを済ませて、ぬるいビールを飲んで、髪を乾かします。それでもこの宿は清潔でいい匂いで、いい宿。まさか今自分が、シンガポールにいるとはね!