クアラルンプール行きのバスに乗るためのピックアップバスは、6時半集合、6時45分出発です。集合場所まで歩いて15分ほどなので、朝の5時過ぎに起きて5時50分にホテルをチェックアウトします。昨日泊まったホテルには、ビュッフェ形式の朝食がついていたけれど、8時から開始なので泣く泣くあきらめます。後ろ髪を引かれる思いで宿を出ます。
危ない!まだ日の明けない街は、街灯を頼りに歩いていると歩道に当然のように空いている穴にズボッと落ちそうになります。恐る恐る、集合場所の旅行会社の前に向います。朝6時過ぎに到着、まだ早いのでコーヒーでも飲みたいと開いている店を探します。
昨日、無料バスで街を一周したときに入りたかったカフェが開いていました。コピオコソン、通じたけれど砂糖入りでした。コーヒー1杯1.5リンギット。40円くらいです。作業台の上にはマレーシアの人たちがよく食べている定食用のごはんを包んだ油紙の三角すい型のものが山積みになっています。早朝だと言うのに、お客さんはひっきりなし。これからみんな、お仕事へ行くんだろうか、それとも早起きが習慣になっている人たちなんだろうか。甘いコーヒーを飲みながら、どうぞ無事にクアラルンプールまで到着しますようにと祈ります。
6時20分。集合場所へ行ってみると、若い男性がひとり、待っていました。すぐに、ボロボロの大型バスがやってきました。若い男性は、旅行会社に入って、店内のおばさんにチケットを見せてバスに乗り込みました。私も念のためおばさんにチケットを見せると、大型バスに乗れとのこと。あら?ピックアップバスは、バスじゃなくて、普通の車だと聞いていたけれどどういうことなんでしょう?恐る恐る乗った瞬間、バスは出発します。45分出発までまだ15分もあるのに、どういうことなんだろう?TPが、違うバスに乗ったんじゃないかと言うので恐ろしくなります。すぐに、昨日降りたバスターミナルにバスが到着したので、運転手さんにチケットを見せると、どうやらこのボロボロバスでクアラルンプールまで行くとのこと。店のおじさんは4時間で着くと言っていたから、7時半出発で11時半にはクアラルンプールに到着するはずです。
うとうとして目を開けると、バスターミナルを7時半出発のはずなのに8時を過ぎてもまだ出発していません。でも金縛りにあったように動かない身体、TPも爆睡、ひたすら眠り続けます。いつの間にかバスが発車したかと思ったら、すぐに休憩になってしまいます。まだ8時過ぎ。バスの運転手さんは食堂で朝ごはんを食べています。これは、絶対に、4時間じゃ着かないね。
再びバスは出発してしばらく走ると、またサービスエリアで休憩になってしまいます。何分停車するかもわからないので運転手さんに尋ねると、5分くらいとのこと。それから、交代のドライバーを待っているとジェスチャーで教えてくれます。もう交代!?と思いながら、売店でカットされたマンゴーを買ってみます。カリカリとして美味しい、2リンギット。
どれだけ休憩したでしょうか。やっとバスは動き出しました。朝早く起きたから、眠たくてたまりません。グウグウ、グウグウと眠っては目を覚まし、眠っては起きを繰り返すといつの間にか旅行会社のおじさんが言った到着時刻まであと少し。ふと窓の外を見ると「クアラルンプールまであと173キロ」の標識が見えました。あはっ、あと173キロだって!TPに言うと、全力の苦笑いを返してくれます。あははっ、ノロノロ運転のオンボロバス、これから少なくともあと2時間はかかりそうです。
そこからは窓の外の標識に目を凝らし、あと何キロを確かめながらそこまでかかった時間をメモにつけて、計算して。どうやらこのバスは時速73キロ位で移動しているらしい。すると、到着は13時半だな。TPは、いつ着くともわからない街に到着することを夢見るかのように、ガイドブック片手に昼ごはんに行きたい店、今日泊まりたい宿などをチェックしています。あざす、あざすです。
海外を旅行するときにいつもよくわからないのは、行きたい都市の郊外にバスが到着することです。今回もどこに到着するかわからない。もう何時でもいい、とにかく無事に到着してくれればと思っていた頃、ようやく都会っぽいところでバスが停まったので尋ねると、中心地近くの鉄道駅だそう。あわてて降ります。
ここが、クアラルンプールか。少し埃っぽくて、高層ビルもあるけれど、そこかしこに、ゆるみもあって。明日の夜には日本行きの飛行機に乗らねばならないから、空港までの電車の時間を調べて、切符を買って、トイレへ行きます。マレーシアのトイレはどこもビシャビシャだから、洋式よりも和式の方が良いと今さらながらに氣づきました。洋式はもう、水をぶちまけたようにビシャビシャ、これまで中腰か、運良くペーパーがあれば拭いて用を足していたのです。和式の方がよっぽどマシ!和式なら何の問題もないのです。この発見は、今後また東南アジアを訪れることができたらそのときに活かそう。
クアラルンプールの中央駅は、横浜のような都会、ユニクロやらH&Mやらが入る駅ビル、人も多く、田舎者はただ圧倒されるばかり。それでも駅を出ると、博多駅前みたいな雰囲氣で安心して、TPが調べておいてくれたビリヤニ屋さんへ。賑わうお店、ひとつずつ土鍋で炊き上げるビリヤニ、TPはマトン、私はシーフード。マンゴーラッシーとチャイ、そして地元の人たちが飲んでいるステンレスカップの「水」を私ももらってみると、店の人はちょっと驚いた顔をしています。旅行者は地元の水を飲まないのかな?ひと口飲んでみると、ぬるま湯、どうやら湯冷ましを飲んでいるようです。これなら安心、もう昼の2時を過ぎているのでビリヤニを餓えた子供のようにガツガツと食べて、これから最後の晩までどうするか話し合って、駅に荷物を預けてバトゥ洞窟へ行くことにしました。
駅ビルに戻ってデパートの案内所で、コインロッカーって和製英語なんじゃないだろうかと心配しながら、ロッカーはどこですか?とリュックを見せると、コインロッカーと答えが返ってきて、場所を教えてもらいました。暗証番号式らしい。戸惑って警備員さんにも助けてもらいながら何とか荷物を預けます。荷物を預けるって良いやない!これまで、荷物を預けたいから最初に宿探しをしていたけれど、これからは駅に荷物を預けてから観光したり街を歩いたりして、それから落ち着いて宿を探せばいいかも知れない。嬉しくなって、モノレールに乗って、バトゥ洞窟へ向かいます。
乗り換えて到着した駅を降りると、小雨が降っています。目の前には切り立った崖と巨大な観音様、そしてそびえ立つ階段。雨はだんだんと強くなってきて、屋根のあるところで少し休んでみると、あら?あらあら?私はどうやら、熱中症みたいな症状、身体は冷え冷えとしているのに汗はダラダラと止まらず、目の前が暗くなって意識が遠くなって、全力で倦怠感、もう一歩も動けない感じになってきました。雨宿りを兼ねて参道の食堂に逃げ込みます。とにかく、温かい飲み物を。ノンシュガー、ノーミルクの紅茶を頼むと案の定、砂糖入り、2リンギット。テラス席に座って、TPとスコールのような雨を眺めます。ゴロゴロッ、ピカピカッ!雷まで落ちてきます。観光客の人たちは、スマホで動画を撮り始めます。身体に染み入るような温かい紅茶、砂糖入りがかえって良かったかも知れない。くたびれ果てて口も利けずにいると、雨が小ぶりになってきました。TPがくたびれ果てた私を心配してか、もう戻ろうか?と言ってくれたので、ひとりで登っておいでよと答えます。目を輝かせて、イソイソと洞窟の入り口へ出発したTP。洞窟は大好きだけれど、今登ったらあの階段を転げ落ちて死んでしまうでしょう。ひとりで、紅茶を少しずつ飲んで回復を待ちます。
しばらく休んでいると、インド人の店員さんが遠巻きに、心配そうに近付いてきてくれました。目が合うとニコッと笑って、「あなたは登らないの?」と言うので、くたびれたから、夫がひとりで上がっていると答えます。ふーん、という反応の後で、中国人?と聞かれたので日本人と答えます。30歳くらいだろうか?可愛らしい顔の店員さんは、私の顔をじーっと見た後でプッと吹き出して「あなたの顔は、人形(ドール)みたい」と言います。
ドール。。。お人形。・・・わ、わたしが!?・・・。お人形みたいって言われた、お人形みたいって言われたと心は飛び上がりそうになるけれど、ふふっと笑ってみせて、そこから、その店員さんがこの国に来た経緯のこと、この国のことを聞いたり教わったり、尋ねられたり答えたりします。話の途中で、子供は?と聞かれたのでいないと答えると「それは悪いことを聞いた、でももしあなたの子供だったら、ドールみたいな子だって思ったから」とのこと。・・・ドール、またドールって言った!もうこれは、TPが洞窟から出てきたらすぐに報告しよう、すぐに報告しよう、そう思っていると、何歳?と聞かれたので年齢を言ったところ、みるみると青ざめるように引いて、引き潮は遠くまで、はるか彼方に、私は決して若く見られるタイプじゃないし、むしろ年相応なら良い方で、年上に見られることの方が多いけれど、そこまで?と言うほど引いていって、そこから会話が続かなくなってしまいました。
永遠とも思えるほどの沈黙が続いた後、TPが参道の階段を降りてくる姿が一瞬見えたような氣がしたので、あっ、戻ってきた!と席を立って、手を振って別れます。TPらしき人は階段を降りかけてまた戻って、写真を撮って別の入り口からまたどこかへ消えて、戻ってきてまた写真を撮って、ゆっくりと階段を降りてきました。
ひとりで洞窟探検したTPは、デジカメでたっぷり撮影した写真を見せてくれようとしてくれているけれど「ねえねえ、お人形みたいって言われた!」と話しの後半は置いておいて、真っ先にそのことを伝えます。へ?誰に?良かったやん、それよりさ、みたいに写真を見せてくれるので、写真を眺めてみました。
ひとしきり写真を見せられて、もうひとつ、階段を上らずに入れる洞窟があるとのことで、そちらへ入ってみます。張りぼてのお人形がたくさん、ラテン系とも思える陽氣な涅槃像まで。写真に撮って、有名だという洞窟には入れなかったけれど、こちらの洞窟に入ることができただけでも良かった、心からそう思います。
またモノレールに乗ってセントラル駅で荷物を取り出してまたモノレールに乗って、今晩泊まりたいホテルがある街まで。日も暮れてきました。賑やかな街で降りるて歩いていると、いきなり客引きの人たちに囲まれます。マッサージ、マッサージ!マッサージ、マッサージ!何軒も連なるマッサージ店。首を横に振って断りながら、ゴミだらけの歩道、ベシャベシャした道を歩きながら、地球の歩き方に「清潔極まりない」と書かれていたホテルへ。受付の人たちは何かを言い争っています。もう、どんな部屋でもチェックインするつもりだったから、部屋を見せてもらってすぐにチェックインしたけれど、あらためて部屋に戻ってみるとシャワールームはカビだらけ、変な臭い、傾いたテーブル、ガタガタのベッド。もういいね、ここに決めようって言っとったもんね、TPとそう言い合って、窓からの景色を眺めます。
眺めるも何も、外からの喧騒がまるでほとんど外にいるかのように、鳴り響いています。
夜の9時。どうしてこの国では、夜が遅くなってしまいがちになるんだろう。晩ごはんを食べに外へ出ます。すぐ近くの夜市、大賑わいの露天食堂街で、マレーシア料理をあれこれ注文して。
どうしても一度、食べてみたかったドリアンも食べます。ねっとりして、少しスパイシーな感じもあって、クセのあるチーズのような匂いで。もうこれで思い残すことはない。そう言いつつ、もう明日東京に戻るだなんて考えられない、まだまだ旅行していたい!そう思わずにいられません。客引きまみれのマッサージも受けてみて、お陰でぐっすり眠れそうです。今日はお人形って言われた、どんなお人形だろう。可愛いのだったらいいな。それにしても、あー、まだ全然、全く、全然、旅行し足りない!!!