一喜一憂しすぎ

確か、宿には朝ごはんがついていると聞こえたので一階の食堂に降りると、食堂は別料金だったらしい。受付の少年にひとり4.5ユーロ払ってビュッフェを食べます。パンとハム、チーズ、サラミ、ゆで卵、切ったパプリカ、キュウリ、トマト、コーヒー紅茶。お客は西洋人ばっかりなので、列に並んでパンを焼くのもマゴマゴ。中国からの単身旅行者は、キッチンでお湯だけ沸かして部屋に戻っています。どうやら、日が昇るのが遅いらしい。街は昼前にならないと明るくなりません。明日はザルツブルクへ移動する予定なので、宿に連泊を申し込みます。駅で、ザルツブルク駅行きの電車の前で喋っている女車掌に、切符はどこで買うのか尋ねると、お喋りを遮られたのが嫌そうな顔で、電車の中、とだけ答えてくれました。

さ、今日はどこから観光しましょうか!まずはシェーンブルン宮殿へ。やっぱり広い!マリー・アントワネットが15歳まで暮らしていたお屋敷、6歳のモーツアルトが演奏をしたそう、どれだけなんでしょう!




もうお城は見飽きたので、入場無料の庭だけを散策します。それでもあまりにも広いので、酸欠になります。同じくぐったりとしている中国人のおじさんの近くに座って、ただボーッとして深呼吸。

私にはスケールが大きすぎるんだ、きっと。

この視野に入る巨大さを受け入れるだけでいっぱいいっぱい。そうだ、もっと小さいものを見よう。落ち葉や、道端の草、石ころを見て、ようやく落ち着くことができました。

歩いて歩いて、庭の先にある見晴らしの良いテラスへ。広いよ〜!

あーすごかった。電車に乗って、また街の中心地に戻ります。地球の歩き方にあったレストラン、フート。ウィーンのレストランやカフェに少しだけ慣れてきたでしょうか、指さされた席でじっと良い子で待っていると、恰幅のいい女将が注文を取りにきてくれます。周りはスーツやワンピースを着たビジネスマンばかり、常連客らしき彼らと女将は、すれ違うたびにひっきりなしにお喋りしています。ドイツ語っぽい。ドイツ語がわからない日本人夫婦はテーブルにある、カツレツのレシピなど書いてある小冊子を、じっと見たりしています。

ビールを飲んで待っていると、お料理が出てきました。おいしそう〜!絶対に美味しいでしょう。

どう見ても美味しいしかないでしょう!ひと口食べて、倒れ込みそうになるほど、やっぱり美味しい。芋団子には、真ん中に肉らしきものが入っている。カツレツはガーゼに包んだレモンが添えられて(種が落ちないように)、やさしい味のジャガイモサラダがよく合っている。感激しながら、ひと口ずつゆっくりと噛み締めます。ドキドキのお会計を済ませて、40ユーロくらいだったでしょうか、少し多めにチップを入れてお支払をして帰ろうとすると、女将がレシピの載った小冊子をプレゼントしてくれました。私たちのことを見てないようで見ていてくれたんだと、改めて感激します。

公園でくつろぐ人々、ウィーンの街はどこも紅葉真っ盛り。どこを見ても、いかにもウィーン、想像通り、想像以上の街の景色。さ、次はどこへ?

ザッハトルテで有名な、デーメル(日本ではデメルと呼ぶ?)へ。店に入るとき私たちのすぐ前に、韓国のおそらく田舎の方から来たのでしょう、両親とふたりの娘(少し英語を喋れるよう)、全員がウィーン旅行で張り切ってパーマを当てて髪をチリチリにさせて、昭和40年台のようなデザインの服(新品)を着込んで、お父さんは革のコート、お母さんは見たこと無いような柄のジャケット、娘は毛糸のボンボンがついたワンピース、チリチリ頭4人がそっと店に入って行くところを、西洋人旅行客たちが、ジロジロと頭の先から足元まで見て、ヒソヒソ話をしているので、喉の奥がツンとします。何だよ!いいじゃないか、家族で旅行してるんだ、大騒ぎしているでなし、ほっといてくれ!という心持ちで何も言わない、ザッハトルテも美味しくなくなります。でも店の女の子は感じ良い人が担当してくれました。

中心の広場では、街を歩き回るときに何度も目印になったシュテファン寺院。

観光していると昼ごはんが遅くなりがち、今日もお腹があまりすきません。それでも暗くなったので、宿に戻ることにしましょう。

何度も行ったり来たりしている西駅に戻って、駅ナカのスーパーでビールを買います。TPが、色んな人たちが出入りして注文している店のショーケースでベーコン2枚とハンバーグひとつ注文すると、美人の店員さんが、丸いパンを持ち上げて見せてくれます。どうやら、店先のベーコンやハムはパンに挟んで食べるものらしい。喜んで挟んでもらいます。ケチャップをかけただけのシンプルなサンド。注文の仕方がわからないアジア人に、身振り手振りで色々とわかりやすく教えてくれようとした店の人、親切やったね〜と感激していると、TPが門ちゃん、店の人で一喜一憂しすぎ!と笑っています。本当にそう、オーストリアに来てから親切!冷たい!親切!冷たい!と一喜一憂してばかりいるような氣がします。

はっきりと感じたことは、ヨーロッパに来るのは4回め、ようやくこの国でどう振る舞えば自分が心地良いのか、周りの目を氣にしなくて済むのか、少しだけつかみかけたように思う。とにかくこの街では、ゆっくりと振る舞うこと、アジア人丸出しの顔は脇に置いておいて、悪目立ちしない服と、目が合ったらハローとかハーイとか軽い挨拶をすること、わからないことはわかったフリをせずに聞き返して、おどおどしないこと、街を心から楽しむこと。それがわかっただけでも、こんなに幸せなことはありません。