ジェニファー

ベランダからの眺め。

朝ごはんは地下の食堂。地元のひとり旅行者が多いよう、みんな静かに朝ごはん。ひとりで清潔な厨房を取り仕切っているおばさんが、身振り手振りで、エッグ?とかチャイ?とか何だかよくわからないスープみたいなものをいるか?とか世話してくれます。

コーンスープかなと思ったものは、甘いおかゆでした。まずくはないけれど積極的に食べたいとは思わない味、ひと皿にしておいてヨカッタ、TPとあと何口食べられるか牽制し合いながら、がんばって残さず食べます。

また茶柱も立って。この国でコクチャイ(緑茶)を頼むと、必ずポットででてきます。お店によってはティーバッグひとつ、茶葉のところとバラバラ。それにしてもティーバッグひとつで薄くてもポット一杯のお茶がよくおいしく出るもんだなと感心します。コクチャイを買って帰りそうな予感。

数日ぶりに早起きをせず、朝散歩も無しでぐっすり、遅めの出発です。ベッドマットが硬いのがとてもヨカッタ、日本に戻ったらもう20年くらい使っているベッドマットを買い替えたいと思います。レギストラーツィアももらって、チェックアウトを済ませて、昨日は重たく感じたけれど今日は軽く感じるリュックを背負って、タシケント散策に出発です。

緑道を通って。

落ち葉を踏みしめて歩いて。

古本屋通りを眺めて。

ナヴォイ劇場へ。ピンクと黄色、ベージュのレンガがきれい。

  

それにしてもウズベキスタンの青信号の動きは早い、テレレテレレッとハットを被った男性が、足が流れるようにすべるように歩きます。

歴史博物館。入館料ひとり1万スムくらい(メモしてなくて忘れた)。まさかの、ピテカントロプスからの展示だったので驚きます。そうか、ここはシルクロード、歴史ある街なんだとあらためて思います。ここでも小学生たちから、写真撮って、日本人?韓国人?中にはメモを取り出して、名前、家族構成、年齢などインタビューする子どももいます。小学生は、私が年齢を言っても驚きません。場合によってはおばあちゃんと同じくらいだったりして。

掘り出された食器や装飾品、生活用品など日本の古代とほとんど変わりません。シルクロードの終点からほど近い国だということを意識しました。地下でホジャります。スケルトンだったので珍しくて写真を取ります。地下の売店で、焼き立てのサモサがあまりにもよい匂いだったから、思いっきり吸い込んで吐き出していると、それを見ていた女のひとたちが笑ってくれました。

歩いてタシケントの百貨店、タシケント・ウニヴェルマーグというデパートへ。今日の夜には韓国行きの飛行機に乗るのだから、お土産を買いましょう。まずは食器。旅行中、何度か見かけてたまらなく好きだったザクロ柄の丼を、思い切って2つ買います。最終日なんだから、重たくたっていいんだ。そして、いつから決めていたのかコクチャイ用のポットも買います。(もうくたびれていたからか、値段はメモしていなかったけれどとても安かった)

TPは、ハム味とサラミ味のスナックを買って食べ比べています。サラミよりもハム味の方が、日本人の口に合いそう。そして職場の女性に、ウズベキスタン土産のポーチを買っています。とにかく職場というものは、女性さえ大事にしておけばいいのだとどこかで常々、私もTPも密かに思っている節があります。女性さえ大事にしておけば、その他の男同士の出世争いや足の引っ張り合いなんかバカバカしいだけのこと、そうどこかで思っている感じがします。

本当はウズベキスタンのCDを買いたかったけれど、店のひとがいつまで待っても戻らないから、食器を抱えて外に出ます。つくづく、良い石の多い国、ウズベキスタン。持って帰りたいような丸くて重たい石が、ぜいたくに街路樹の周りに置かれています。

地下鉄の駅まで歩いて。

テレビ塔近くの「プロフセンター」へ。旅行前、TPが地球の歩き方を眺めながら、プロフセンター行こう、プロフセンター行こうねと何度も言っていた場所。そこまで言うならと付き合ったレストランは、まるでタシケント中のひとがここを目当てにやってきているかと錯覚するかのような活氣、誰もがうれしそうに、時にはおもてなしをしているようなスーツの団体も、プロフとナン、飲み物を注文してワイワイと賑やかな場所でした。

チェコのビアホールで学んだ方法で、じーっとウェイトレスさんが声をかけてくれるのを子犬のように待って、注文。

サラダを注文すると、ぬか漬けのようなキャベツとキュウリが出てきます。酸っぱくておいしい。


外の窯にも人だかり、出来上がる様子をみんなが見守っています。


そしてテレビ塔。受付の仕組みが難しく、まずパスポートを預けてからチケットを買う仕組みらしい、誰もが戸惑っています。中でも前髪を斜めに分けたイケメン風の若い男がパスポート係、英語を流暢に喋りながら、上から目線で地元のひとたちを無視したり冷たく司令を出したりしながらイケてる雰囲氣を出しまくっています。ようやく入館のチケットを買って、セキュリティチェックをくぐる時、ポケットのものも全部出すように言われました。私のポケットに入っていたタバコとライターを、受付に預けるように言われてイケメンに渡してバタバタ、今度は入場するのにパスポートがいると言われてロッカーに預けていた荷物を出そうとしていたところ、なぜか受付の男はカウンターの陰で、私が預けたタバコと、箱の上に取り出したらしい一本のタバコを手に、タバコを一本、棚の奥にしまってから、私のタバコの箱を別の棚に置いています。あっと目が合って、私はタバコ一本くらい、何となく氣持ちわかると思ってかあえて明るく「パスポートもいるんだって」みたいな感じで見て見ぬふりでパスポートを持って入館。上りのエレベーターでTPにふと「もしかしたら、タバコ盗まれたかも知れん、えへへ、でも一本だけやったけん、えへへ」とか何とか言うと、えっ!となって、何か嫌やわ、でも一本欲しい氣持ちはわかるね、でもあの男の態度。

テレビ塔からタシケントの景色を眺めていても、TPはどうにも集中できない様子。「俺、ひと言言おうか?」とか珍しくカッとしています。エレベーターを降りると、タバコを盗んだのを見られた罪悪感からか男は速攻で「これ、君のタバコ」と別のひとのタバコまでつけて2箱、戻してきます。「これは私のじゃない」と返して、TPはわざと男のじーっと顔を見ていますが目を合わせようとしません。絶対に最後まで目を合わせようとしないひとに背を向けて、テレビ塔を出ます。

せっかくのテレビ塔・・・何ひとつ景色が目に入らんやったとTPと笑います。確かにこれまで、いいひとたちに出会うことが多かった、他の国よりもぼったくりも少ないし、何より無償の親切、荷物を持っているとバスでは必ず席を譲ってくれたし、道を尋ねると周りのひとたちを巻き込んでまで考えてくれたし、声をかけてくれた。その中でイケてる風の男が少しでも、自分の威圧的な態度、その心に棘となって引っかかってくれたら良いし、そうでなくてもどうでもいいこと、ウズベキスタンの旅行は本当に特別なのだから。

空港に戻る前にTPが「老舗のコーヒーショップがあるってよ」とコーヒー好きの私へのサービスかのように誘ってくれました。テレビ塔を背に、大通りを歩き始めます。今回の旅行で、不機嫌にならないように氣をつけているものの、だんだんと無口になる私。TPは「荷物持っちゃるよ」と明るく私の買ってしまった丼やらティーポットやらが入った袋を持ってくれますが、あら?あるけどもあるけども。道行くひとに尋ねながら、あっち、あっちと言われて進めども進めども、軽く2キロくらい歩いても、ホテルマンにあと2分まっすぐと言われても見つからず、親切な若い女性がスマホで検索してくれてもなお、今きた道を1キロくらい戻ると言われて見つからないまま、喉カラカラで精魂尽き果てて、地下鉄に。ふたりで2,400スム。いよいよ、日本に帰るために空港へ行く時間です。


ガイドブックには、ウズベキスタンの地下鉄は撮影禁止だと書いてありました。それなのに電車を降りると西洋人の男性がスマホを掲げて、ゆっくりとムービーを撮っています。たった1年前のガイドブック情報ですら、違うことがたくさんあったっけ。タシケント以外では日本円が両替できないと書いてあったけれど、どの街でも日本円は両替できました。街を歩くときにパスポート検査があるはずだったのに、一度もパスポートを求められませんでした。何より、闇両替などほとんど声をかけられません。急速に、ウズベキスタンは変化しているのかも知れない。私も地下鉄の写真を一枚だけ撮ってみました。

乗り換えの駅で、まだ買っていない職場へのお土産を探そうとしたものの、目当てのスーパーが見つからず。サモサ屋で私だけ休憩、TPはひとりでスーパーを探しに行ってくれました。ハム味のスナックもまだ数が足りないそう。私も何か買わねば。サモサ屋には、学校帰りの学生たちが次々とサモサを買いにきます。外に出て、タバコを一服。TPはずいぶんと時間が経ってから戻ってきました。一軒だけ店があった、でもハム味は足りずに、チーズ味を買い足した、それでもひと袋だけ大きくなっちゃった、でもまだ足りない、などと。サモサ屋でコクチャイだけ4,000スム。私もその店に行って、これまで朝ごはんのビュッフェに出ていて食べて美味しかったクッキーや、クラッカーなどを買います。コクチャイの葉も買います。また荷物が膨らんで。日も暮れて。いよいよ空港へ行かねばなりません。


ところで、タシケント駅と地下鉄が直結しているはずなのに、地元のひとも誰も知らないっておかしいね?と地下鉄に乗ってタシケント駅に行ってみます。降りてみると本当に直結。やっぱり駅はあったね〜と喜び合って空港までのタクシーを交渉。最初は5ドル、でもこちらは得意のディーセッチ(ロシア語で10、つまり10,000スム)と言うと、本当にその値段に下がったので乗ろうとしたところ、心配そうに様子を見ていた美しい若い女性(TPはすぐにジェニファー・ローレンス似と言った)が、その値段は無いわと首を振って、そのおじさんに自ら交渉して、交渉決裂したのか、ちょっと待っててみたいに自分でタクシーを交渉して、外国人?ならその値段では乗せられないと断られてもまだ別のタクシーを交渉して、ついに若くて優しそうなドライバーを捕まえて、自分は助手席に乗って空港まで乗せて行ってくれました。5,000スム。ジェニファーは元の道をまたタクシーで戻るはずだから倍払ったっていいのに、彼女の心意氣を汚したくなくて、ありがとうと心から感謝して、手を振って別れます。

これまで乗ったタクシーには、安く交渉したつもりで平氣で、20,000スムやら40,000スムやら払っていたけれど、片道15分ほどの距離の10,000スムは本当は高い、地元のひとはその半額の5,000スムで交渉してくれ(それでもジェニファーは不服そうだった)、自分の父親はパイロットなのよと飛行機を指さして教えてくれて、仕事を尋ねると私は旅行代理店で働いていると名刺をくれたジェニファー。彼女が全身で表してくれた正義感、私も日本で誰かにお返しします!と頭を下げて、空港に入るための日本人スルーセキュリティチェックを受けます。

バーでビール1杯6,000スム。ジェニファーが交渉してくれたタクシー代よりも高く。TPはまだ「お土産がひとつ足りない」と空港を駆け巡っています。余ったスム、という言い方も変だけれど残りのスムで飲み物を買ったり、またビールを飲んだりしながら、だだっ広い空間で韓国行きの飛行機を待ちます。

韓国まで、何時間かかるんだろう?

京都の中華 (幻冬舎文庫)

京都の中華 (幻冬舎文庫)

京都の中華。旅行前に買っていた文庫本を読みます。ぐっと来る本。そして日本食が食べたくなる本。私が思い描いていた、ウズベキスタンとは全く違う国だった、もっと穏やかな田舎町を想像して、その国が頭の中でできあがっていたけれど、いい意味で裏切られた、もっと人間同士の、人に尋ねなければ何もできない国だった、こんなに人と交流した旅行はこれまで無かった、全部が全部、いい旅行だった、そう思いながら、明日の朝、韓国に到着するまで眠ったり本を読んだりして過ごします。TPは離陸前から首がもげそうになるほど爆睡しています。おつかれさま。ありがとう。