夜中、2度ほど目が覚めたでしょうか。まだ自分たちがカナダのナイアガラにいるとは信じられない。カーテンを開けると雨。雨?
傘をさして、TPと大通りに出てみます。朝食ビュッフェをやっているレストランに入って、ひとり8ドルプラス消費税、チップはどうする?とか言いながらドキドキして食べます。砂糖たっぷりの豆スープ、限界まで焼いてバキバキになったベーコン、味の無いオムレツを飲み込みます。お支払いはカードで、チップの料率は10%を選んでみます。
カナダのダンゴムシっていかついな、とか思いながら、何となくカナダ滝がありそうな方向へ歩きます。寒い。
小雨。傘をさしながらカナダ滝を見ます。寒い。
近くまで行ってみます。寒い。寒くて滝どころじゃない。一度ホテルに戻って、長袖を下に着て、折りたたみジャンバーも着ます。あーあ、ズボン下も持ってくるべきだった。寒い。
ウェンディーズに入ってコーヒーを注文します。ここならチップも要らないし、コーヒーは2ドル以下だから安心。「この国でお茶したくなったらウェンディーズやね」とTPと喜びます。とにかく航空券だけでも大枚をはたいてのカナダ旅行だから、何をするにも財布の紐をギュッと締めねば。ガラガラの店内、窓際の眺めの良い席に座っていると、すぐ隣りのテーブルにカナダ人中年夫婦二組が座ってきて「すぐ隣りに座ってごめんなさいね、でもここの景色がいいわよね」みたいなことを声かけてくれるから大きくうなずいて「ノープロブレム」と微笑み返します。本当に落ち着く景色。滝の水煙も少しだけ見えています。すっかり冷えた身体、時差ボケの脳みそをゆっくり休めます。「門ちゃんを休ませるコツがわかった。俺がお茶したいなと思うタイミングのひとつ手前でお茶させること」などとTPが言っています。
ひとり30ドルほど払えば、滝壺の近くまでフェリーで行けます。ケーブルカーで下って、渡されたポンチョを着込んで、滝壺行きのフェリーに乗り込みます。
だんだんと強まる雨。風も強くなってきます。土砂降りとはまさにこのこと、というくらい雨風が強くなって、ポンチョのフードのビニールひもをギュッと縛ります。もうどれが滝で、どれが雨かよくわからなくなってきます。開けられない目、打ち付ける水しぶき、半袖ポンチョの中に腕をしまって、フードからわずかに出した丸い顔で、滝だか雨だかを浴び続けます。ドントシンク、フィール。閉じた目の奥で、霧色を感じながら、死んだらこんな色かなと想像したりします。考えるな、感じろ、自分に言い聞かせて、ただ滝を浴び続けます。フェリーに乗り合わせた観光客のひとたちも、ヤケクソ氣味に「フォー!!」とか「フー!」とか叫んでいます。考えるな、感じろ。
船を降りて、TPとポンチョを着たままナイアガラ・フォールズの街を歩きます。すごかったね、ナイアガラ。もうわけがわからんくなったね、滝。そんなことを言いながら、アメリカに渡れる橋を目指して歩きます。野生のリンゴらしきものがあって写真を取ります。食べてみたいな。
橋の入口でひとり1ドル払って、徒歩でアメリカを目指します。アメリカの入り口で6ドル払ってビザをもらってアメリカに入ります。
やがて雨も止みます。アメリカ滝を間近で眺めます。
アメリカ滝を見下ろせる場所にゲートがあったのでじーっと眺めていると、受付のおじいさんが「エニシングヘルプ?」と声をかけてくれたので「ジャストルッキング」と答えると「ジャストルッキングなら入っていいよ、どんどん見て」と中に入れてくれます。「門ちゃん、ガイドブックには入場料1.3ドルって書いてあるよ」とTPが教えてくれます。エレベーターのおじさんが「ボートに乗るの?」と聞いてくれたので「ジャストルッキング」と答えると「オーケー、どんどん見て。ゆっくり歩いてよく見たらいいよ」と歩くコースを教えてくれます。すべって転げ落ちないように、慎重に歩きながら滝を間近で見ます。エレベーターに戻るとおじさんが「滝、どうだった?」と言うので「ナイスビューだった」と答えると、他の観光客のひとたちも笑ってくれます。お礼を言ってゲートを出て、カナダ滝の方へ。
歩いても10分ほどでしょうか。アメリカ滝にかかる橋を歩いて渡って、ひとの少ない公園を抜けて、歌など歌っていると、目の前にカナダ滝が現れます。
水が、水平。これから滝として落ちる水たちの、その量たるや。ものすごいスピードで滝となって落ちて行きます。
「滝になって落ちるのはどんなに怖いだろう」滝の水たちに「怖かろう、がんばってねー」と声をかけます。ドドドドーッ。
ドントシンク、フィール。
テレビで観るような、晴天のナイアガラじゃないけれど、この音と水量を確かに感じた。いつまでも眺めていられるほどの水量。端っこに置いてある灰皿近くで一服してみます。滝を感じながら。「一服するには最高の場所だね!」スモーキングするにはベストプレイスと誰かの声がして振り向くと、にっこりした観光客の男性が、グーのポーズを向けてくれています。思わず日本語で「本当に!」と答えて大きくうなずきます。旅行者にも結構声をかけてくれる土地なのかな。
滝を十分に味わって、アメリカを後にします。朝から滝を中心にほっつき歩いて午後3時、雨風に打たれたからか、朝ごはんが重たかったからか、ちっともお腹がすきません。TP「今一番食べたいもの・・・そば。いや、うどん。出汁たっぷりで、胃に優し〜いやつ」
昨日の空港でインド人のおじさんが予約してくれたお迎えのエアバスまで1時間ほど時間があるので、すぐ近くの中華料理屋に入って、おうどんならぬエビワンタン麺を注文します。チップ込で約1000円。中華系の店員さんも、優しく接してくれます。
ホテルまで迎えにきてくれたエアバスの運転手さんは「ユーたち荷物はそれだけ?」リュックだけ背負ったアジア人中年夫婦を見て「ワーオ!」と首を振っています。またヒルトンやらシェラトンやらコンチネンタルやら高級ホテルを巡って、大きなスーツケースをたくさん積み込んで、エアバスは昨日の夕方に降り立ったトロント・ピアソン国際空港に到着します。
チップを入れると一杯約1000円になるビールを飲みます。
シャーロットタウン行きの航空券を手に、搭乗手続きを済ませてゲートに向かうと、ガラスでゲートが閉じられています。インフォメーションは無人。警備員のアフリカ系フランス人のカナダ青年に「ゲートが閉じているのはなぜ」と尋ねると「ここからアメリカ行きとかカナダの色んな州に飛行機が出ているから、乗客を整理するために時間まではゲートを閉めているんだよ」みたいなことをフランス語なまりの英語で優しく教えてくれます。
時間になってもゲートは開かないし、係のひとから何の説明もない。
搭乗の時間を過ぎてようやく開いたゲートから、シャーロットタウン行きの機内に乗せられたと思ったらあっと言う間に満席、するーっと飛行機は飛び立ちます。ぐうぐう。ひと眠りするともうプリンスエドワード島、時計を一時間進めてタイムゾーンに合わせます。わ、もう深夜の1時過ぎ!
朦朧としたまま、タクシーに乗り込みます。ガイドブックによると料金も決まっているようで、ふたりで26ドルとチップ。夜中のシャーロットタウンは、真冬の寒さ。この寒さはいつも通りですか?と運転手さんに尋ねると、いや、いつもより寒い、でもこれからはずっと寒いと教えてくれます。
予約しておいたホテルでタクシーを降りて、受付で無料のコーヒーをもらって部屋に入ります。酒屋も無いので、今夜はもうビール無し。空いている店も無いので晩ごはんも無し。TPはベッドに倒れ込んで眠ってしまいます。旅の隊長、おつかれさま。この旅を計画してくれてありがとう。真夜中のシャーロットタウンは、まだどこがどうだか、何が何やらよくわかりません。本当にシャーロットタウンかどうかすらも。