食欲ない

金曜日。仮眠を取って6時に下に降りると、父はほとんど死んだように見えたものの、顎をさすって「おはよう」と言うと目をパチッと開けてくれます。母が「お父さん、カステラ食べる?」と言っています。食べるわけないやんと思いながら顎をさすると唾液が出たのか、ようやく小さい声で「カステラ一番電話は二番、三時の」と歌い声。食べそうだなと、食べてもらいます。

母は「このホットサンドが評判いいんよ」とパンに、キャベツと薄焼き玉子、ハムとチーズを挟んだものを作ってくれ、半分だけもらいます。食欲ない。

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7時。勤め先に午前休をくださいとチャット。もう一度仮眠。9時、下に降ります。父の友人から電話、ほとんどしゃべれないのに母は父の耳元にスマホを当てて「ほら、お父さん、◯◯ちゃん」話しができないとなると、私にスマホを渡してきます。「もしもし、お世話になります、いつも遊んでいただいて」と挨拶。子どもの頃お世話になったおじちゃんなので、ゆっくりと喋ります。「あんたが帰ってきて、お父さん喜んどうよ。今、今を大事にね」と言ってもらって本当にそうだと思います。

 

8時。母は弟に今すぐ帰って来てって電話したとか言っています。弟は明日帰るそう。父の兄にも電話、明日帰ってくれるそう。母、常軌を逸しているなと薄々感じています。あまり大騒ぎすると、父の臨終が近づくような感じになるってことがわからないのかな?

 

仮眠を取って11時。パソコンを開くと仕事が山積みになっています。ひとつひとつ処理して、オンライン会議をして、「父が倒れたから実家に戻っている」と伝えると代理で担当してくれる他部署の方がいて。混乱しながらも整理します。がんばった、整理できた。

 

12時。ケアマネさんと看護師たちが3人来てくれました。父の容態を見て、先生に電話してくれています。足元が弱っていることを伝えて、とにかく、きついーきついーと言っているのを何とか解消してもらうようお願いします。母は父の状態を尋ねられているのに、「ええ、きついのにしっかりしてて、昔は…」などと過去の思い出なんか喋り続けています。本当〜に、介護士さんたちは大変だな。私は合間にちょこちょこと、勤務体制やら、何人を介護しているかなど尋ねてみたら「お子さんも数人いらっしゃいます」とのこと。そうか、癌で余命いくばくもないと言っても父は70代。もうコロナで死んでも本望とか言ってたけど、他の家のことを考えたら絶対にPCR検査は必要だったんだなと改めて。

 

15時。仕事がひとつ片付いた。父の介護用ベッドの横でずっと仕事をしていたものだから「ひとつ大きい仕事が終わった、よくがんばった私」と言うと、「よくがんばった。よかったな。俺は、もうがんばれん」と目を開いて言っています。「もうがんばれん?」と聞くと「これ、いつまで続くっちゃろうな。きつい」とのこと。「後、何日ならがんばれる?」と尋ねるとうつらうつらしながら「3〜4日」だそう。さては、弟が明日帰って来て、それからちょっと話しなどしたいんだな。

 

母が「お姉ちゃん、何か食べん?」と言うけれど、「そんなこと言われても、お父さんがこんな状態で、何も食べたくない、食べれんよ」と私は泣きました。父は「すまんな」と言っています。母は十八番のように「お父さんが、あんたたちにおいしいものを食べさせてやってくれって、ずっと言ってて」と泣いて。あーーーー、あーーーーーー

 

泣いたっていいでしょう。本当に何も食べたくない。

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とにかく、いろんなものをあれこれ食べさせたい母は、近所のスーパーの巻きずしを買ってきてくれました。巻きずし一個と稲荷一個食べます。父は、ゼリーに浸したバナナを数切れ食べてくれています。「明日、お兄ちゃんが来るって言うけど、うれしい?」と尋ねると、「それほどうれしいって感じではないな」と言っています。それでも、ふうふう、何でこんなになったんやろうかと恨み節のような独り言を小さくつぶやき続けて。

 

母は、また冷蔵庫にたくさんビールを用意してくれています。どういうわけか下戸の母と弟、お酒を飲む派の父と私。体質?ビール飲みます!と言うと喜んでくれる父。

昨日、私を支えてくれた本。

 

夜、父の使っていたベッドで寝ます。母は父の介護用ベッドで眠る父の隣りの昼寝布団で。私はビールを飲んでも飲んでも、なぜかちゃんと補充されている魔法の冷蔵庫(母が買い足してくれているだけのこと)から、何本も缶ビールを取り出して飲んで、眠ります。