訪問看護師さんたちに夢中

朝起きて、父と母に「おはよう」と言います。「おはよう」と母から声が返ってきます。母から「あんた、覚えとう?夜中にトイレに起きたら、あんたがそこの廊下に寝とって、私はあんたが死んだかと思ったよ」とのこと。ぞっとします。覚えていないから。そしてやがて、父が歩きたがっている廊下に、私なら寝そべりかねないなと思ったから。そこから掘り下げられなかったので、それがウチ、そう思います。やがて弟も起きて、在宅勤務の準備(上半身だけ正装)。

 

私は今日は定休日。「お父さん、今日は水曜日やけん、お休みで、ずっと一緒におられるよ」と声をかけます。おい!目がうつろ、私の顔すら見ない。「お父さん、どんな景色見とうと?」眉根を寄せて、苦しそう。

 

今日も訪問看護師の方(Sさん)が来てくれて、身体をきれいにしてくれます。身体を横にしたりするのを手伝います。おちんちんもお湯をかけて洗ってくれます(水を受け止めるのはおむつ。すごい吸収力)。身体を洗ってもらうと、どういうわけか父は落ち着きます。

 

母がまた出かけたと思ったら、100均で隙間掃除のおそうじ棒とやらを買ってきています。「お母さん、隙間掃除の段階じゃない、まずは大きいところから」と笑います。

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父が少しでも目を開けたら、介護用ベッドの背もたれを上げて、氷いる?と聞くと、うんとうなずきます。慌てて氷を口に入れて、ゲホゲホ。喉につまらせて死なんといてよ!と応援します。くたびれたので、父の隣の床で昼寝します。目が覚めると父が熱で苦しそう、母と相談して父をごろんと横向きにして母が熱冷ましの座薬を入れます。熱が高いのが一番、疲弊するそう。何度もベッドを上げ下げしたり、ずるずると下がる身体を上の方に持ち上げたりします。腕も上げたり下げたりして運動させます。まだ喋れるときにもベッドを上げ下げしたりして遊んでいたら、父は笑ってくれていたっけ。「俺をおもちゃにして遊んでくれ」と言っていたので、おもちゃにして遊びます。鼻にティッシュを詰めてみたり、目やにを拭いたり。

 

とにかく、夕方が長い。父はベッドの手すりを掴んで何度も起き上がろうとするのに起き上がれないのが悔しそう。でも在宅介護は、全く退屈しない。どれだけ父の顔を見ていても飽きない。どんどん変化するから。母が台所で大きい声で電話していると、眉をしかめてうるさそうにしたりします。

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晩ごはんはうな丼。宮崎のおいしい鰻屋さんのうなぎを解凍して焼いて、タレを入れる感じ。弟も私も、母がうなぎを出すたびに父が、ぬるい!!とかつゆが多すぎる!!とか怒鳴りだしてそこから数時間怒りが収まらないものだから、すっかりうなぎはトラウマです。それなのに母はうなぎを買って来ちゃうから。「お父さん、うなぎ頂くよ、ありがとうね」うなずいてくれます。「お父さんはあんたたちが帰ったら、銀行行って金下ろしたか、うまいもん食わせろよ、◯◯(私)のビールは買ったか?って何度も」と母がもう何十回聞いたかわからない話しをまたして、ひとり涙ぐんでいます。

 

夜、在宅医療の先生が来てくれ、脈やら心音やらを聞いてくれ、座薬も入れてくれます。ご家族の皆さんちょっとと玄関へ。父に聞かれないように。父は眠っているように見えても耳は良いらしい。玄関で先生が「…ずいぶん、進行が早くてですね、座薬を入れる際に指で確かめると、腸のすぐそこまで癌が来ていて」もういつ呼吸が止まってもおかしくない状態と教えてくれます。父はここ数日何も食べていないし氷だけだから、そう聞いてもそれほどショックは受けません。「癌が破裂したりしたらどうなるんでしょう」と尋ねると先生はハの字の眉毛をさらに下げて悲しそうな顔をし「とにかく、お父さんに何か変化があったら、いつでも電話してください」と言ってくださいます。

夜中、また訪問看護師のSさんが来てくださって、状況を確かめてくれます。母はもう痰取りのプロ。「私何度も痰取ったよ!上手よ。するーっと管が入る」と自慢しているので「痰の吸入器持って全国回れば」と言って笑います。もう父は起き上がって歩くことも無いので、ポータブルトイレを返却します。弟が看護師さんの車にポータブルトイレを運んで、何やら話し込んでいます。弟も介護関係の会社に勤めているので、勤務状況などを聞いているらしい。我が家は今、訪問看護師さんたちに夢中で、すごいお仕事だと大尊敬しています。母は「ひとりだけ、嫌なババアがおる」とか言っています。母よ…弟は「あんたの周りは悪人ばっかやね!」と叱っています。