笑い上戸

朝、つとめさきにチャットで、人生初の忌引き休暇を申請します。土日関係なく5日間らしい、今日が月曜でラッキーだった、土曜なら水曜までだったらしい。急ぎの仕事をひとつだけして。

 

パソコンしていると、甥っ子がすり寄って来たので、ちょっと遊んでやります。「野球ごっこは嫌!段ボールごっこならいい」と上から目線で言うと、自分で段ボールをせっせと集めてきて、私に絵を描いてと言ったり、私が描いた絵を切り取っていると、自分で絵を描いてこれも切り取ってと言ったりするので「切り取るのは自分でしなさい」とハサミの使い方を教えます。「大人っていいな、あー、大人っていいな。なんでも切り取ったりできる。◯◯君(甥っ子)も、たくさん練習したらもっと楽に切れるようになるよ」と励ましつつ。

f:id:monna8888:20211012225639j:plain

ドラえもんも切り抜いて。「顔の線は、目の上じゃない、目の横を通るとよ!」と甥っ子の目の横から顎まで指で線を引いて、しっかりと教え込みます。どうして子どもの描くドラえもんは、目の上を線が通りがちなんだろう?観察力が足りないからかな?

f:id:monna8888:20211011123733j:plain

先日、七隈線ごっこやろうと言うので七隈線の駅全部覚えたらねと言っていたところ、本当に全部覚えてきたので少し七隈線ごっこも付き合ってやりますが、私があまり乗っていないからか、ゲームを始めています。「ちゃんと片付けなさい」と言っても「ヤダー」と言うから「子どもだからって甘えんなよ」と言い返そうとして、我慢します。頭に来たので全部、段ボールの箱にぶっこんでやります。「ほれ、これおもちゃ箱よ。これに自分で片付けりいよ」と言うと、うんとは言わずに固まっています。

 

昼、弟一家と母とウエストのうどんを食べに。全員で外出するときに後ろ髪引かれるのはまだ父の看病生活が尾を引いているのでしょうか。

f:id:monna8888:20211011152654j:plain

昼から、葬儀社のひとが来て、あれこれ説明を受け、膨大なる選択を迫られます。「家族葬ということで、まずは基本の80万円パックということで。ここからはお手出しになってしまうのですが」と追加料金が必要なものを、長々と前置きしながら、次々と、あれこれ出してくるので、私は家族の先頭で、あぐらをかいて全てをメモに取りながら「先ほどからお手出しお手出しって、お手出しが全部でどれくらいあるかまずは説明してください」と言うと震え上がっています。すみません、ケチで。でも、父の残してくれた大切なお金を、必要なところにだけ使いたいのです。母に「守銭奴!」となじられながらも大切に貯めていたであろうお金。母が次々と借金をこさえてくるものだからそのひとつずつ完済してくれた父のお金。

 

冷え冷えになった父は、袋に包まれて顔に白い布をかけられて、葬儀社に運び込まれました。

f:id:monna8888:20211011163331j:plain

ビフォー。

f:id:monna8888:20211011174115j:plain

アフター。

湯灌を済ませて。湯灌屋さんたちは会社に入って技術を学んだそう、でも最近は専門学校もあるけれどまだまだ人手不足とのこと。まだ就職が決まらないTP弟のSちゃんにこういう仕事はどうかしら?とか思います。

 

元父の抜け殻は、そんなに興味が沸かないのが不思議。側に来た甥っ子にも「私のお父さん、中身がぽーんと天国に行っちゃった。これは、私の元お父さん」と説明します。君にとってはおじいちゃん。でも私のお父さん。「あんたのお父さんは、私の弟。だからあんたのお父さんより私の方が偉いとよ」とも言ってみますがよく理解できないらしい。

 

家族葬で通夜は省略と言っていたものの、葬儀屋にジェットバスがあると知った母は「お姉ちゃん、今夜はふたりでここ泊まろう!」と言うから付き合います。

 

貸し布団ひと組1600円。葬儀社では息をするのもお金がぽんぽん出ていきます。儲かっているからでしょうか、ジェットバスは貸し切りでテレビまでついていて贅沢。弟一家もジェットバスに入って、家に戻って行きます。

 

母と、元父の抜け殻と、私の3人(もしくは2人と魂ひとり)。広いね!とはしゃいで、母が踊ったり、私はでんぐり返ししたりします。それでも次々と葬儀社の方が何度も何度も尋ねてきて、あれこれ決めることがあり、またしても「お手出しにはなりますが…」「もういいです!お手出しはいらないです」と断ります。数組、お線香を上げに来てくださる方たち、私と母がジャージでくつろいでいるものだから場が締まりません。

 

夜、斜め前のコンビニに、母と晩ごはんを買いに。行列ができているラーメン屋に並んでいる若者に母「ここ、おいしいんね?」「はい、うまいっす」「若いひとばっかりやね」「はい。結構量があって。こってり系のガッツリ系っす」と突然話しかけられても普通に会話してくれる、それが福岡。細々とコンビニで買ったお惣菜を、父の遺体を前に母と食べます。母「あ、この漬物おいしい。食べてみて」

 

20時。突然、母の友人Hちゃんが尋ねてきました。この葬儀社に共通の知り合いがいるらしい、だから渋々父が亡くなったと連絡したらしい。Hちゃんのことを母はあまり好きじゃないみたい、利用されていると感じるそうですが、それでも付き合いを切れないと悩んでいます。Hちゃんは「まさかこんなに早く」と、どかっと座り込んで最初は手を合わせて拝んでくれましたが段々と、母が普段家をいかに散らかしているか、ゴミ屋敷!びっくりした!とか、母が父の悪口ばっかり言っていたとか、◯◯さんは便器を買い替えて新品にしたはずなのに黒ずみがすごいとか、誰々が脳梗塞でもう長くないとか、4万円の洋服買ったら褒められて後からメールまで来て「今日の装いは素敵でした」と言われたとか、とにかく、悪口と自慢の繰り返し、私は立ったり座ったり、外に出たりパソコンで忙しいフリしたり、電話を待つフリしたり時計をガン見したりしてもなお!2時間半!Hちゃんは帰りません!母も柱にもたれかかって辛そう、夜10時30分。私は、立ち上がって布団を敷き始めました。「お母さん、そろそろ」と言うと、それでもなお!Hちゃんは布団敷きを手伝ってしまって、まだ帰りません。「お母さん、明日も早いし」と言ってもなお「まだ早いよ、私なら宵の口」とか言って絶望しますが、無言でうなだれているとようやく、腰を上げてくれ、「◯◯ちゃん(私)、何歳になったと?」「〇〇歳です」と言うと「もうそんなに!?でも若いね、お肌つるつるやん」と嘘を言って、じゃあそろそろと帰って行きました。

 

なぜ母が彼女との付き合いが切れないのか、きっと付き合いを切ると悪口を言いふらされるからでしょう。母「ありがとう!布団敷いてくれて助かった〜、もう私倒れそうやった」母に、Hちゃんとの付き合いやめたら?と言っても、困った顔をするだけ。「でも、Hちゃんすごかろ?証人になってくれる?」

 

いやー、Hちゃんすごかった。でも、後からしたら思い出になるかもね!ひどい目に会ったって。母は私が母に同意するから、とても喜んでくれています。

 

母とふたりで、ようやくジェットバスに入って。「最高やね!また明日の朝、入ろう」

 

TPにも電話。「俺のとこにも忌引き休暇あったと!妻の親は3日間。だけん明日、そっち行くよ。それから休みをつなげて、日曜までおるよ。門も日曜に帰るやろ?一緒に帰ろう」へっ?となります。昨日東京に戻ったばかりで、明日はしかも一回目のワクチン接種で、そのまま福岡へ???

 

父の棺桶の横に布団を敷いて、川の字になって。母「お父さんにも言ったと。もう散々女遊びもしたし、満足やろ?って」母いわく、退院してきた父が、癌の部分をさすってくれと言った際にずーっとさすっていたら「すまんな、こんなことさせて」「いいや!こんなことで良かったらいくらでもするよ、当たり前やない」「お前で良かった」と、そのお前で良かった発言が泣きポイントらしく、お見舞いに来てくれる方々(母が呼びつけた人々)や、お線香上げに来てくれる方々(母が亡くなったことと葬儀場を知らせた人々)に、何度も語っていたっけ。「もう何度も何度も同じ話し。女優よ。だんだん話しが上手になったやろ?」とか言ってはしゃいで。それでも胸の内には、いっぱい悲しみが詰まっています。ふたりで、子どもの頃からの父の思い出をさんざん話して(主に父の女関係の話し、あのひとはストーカーになったね、へー覚えてないとか)、「私、明日喪主として、お父さんの遺影抱えて、ひとりで霊柩車乗るんやろか」と言うので「どうする?笑いが止まらんくなったら」母と私は、病的なほどの笑い上戸。父も心配していました。「お前ら、俺の葬式でも笑いが止まらんくなるっちゃろ」そこで私は、中学の部活の先生からビンタされても笑いが止まらなかったときに発明した技を、母に教えます。「中学生のときね、部室でヨーグルト食べたのが見つかって、先生にビンタされたと。友達が先生は怒ったらまぶたが赤くなるって言われて見たら、本当に赤くなっとって、ビンタされても笑いが止まらんで」「あはっ!あははっ!!」「そこで、私は顔を手で覆って、号泣するフリをしたと!」「あーっはっは、あはは」「これ、使えるよ」「あー、可笑しい。そうやね、明日、もし笑ってしまったら号泣するフリしよう」「そうしよ」「あーあ、お父さん、このひとお父さんの葬式で笑うかもよ」「お母さんこそね」「お前ら、また笑ってーって」「後ろから見とうかもね」あー可笑しい。涙を流して笑い続けました。葬儀場の夜勤の方々は、この母娘は氣が狂ったかと思っているかも知れません。冷え冷えの元父の横で、夜中まで大笑いして。その姿を近くで見ながら父も笑っているかな。笑ってくれていたらいいな。