ラストナイト

母と「10枚切りの食パンはいいね」と言い合います。みどり牛乳で母が買った、巨大なサイズのプリン(牛乳パックに入っている)は、Mちゃんが来てくれたときにも出して、その後も食べて、それでもまだあるから、朝食に無理して食べます。「これからは、大きいものは買わん」本当にね。

今日は、骨董品の買取屋さんが来る日。すらっとした感じの良い青年が鑑定してくれます。

「この器は、人間国宝のお弟子さんの作品」「あ、箱と中身が違う」などと、祖母の遺品をひとつずつ、スマホで検索してはお値段をつけています。どこで売るんですか?と尋ねると、オークションとのこと。数年前はヨーロッパが多かったけれど、最近は中国のひとが買い取ることが多い、洋室でも合うような、派手なものが好まれるとのこと。「最近は、茶道よりも、煎茶の方が人気で」

たっぷり、4時間、見てくれます。私は引き続き庭掃除。ご近所のIさんが、激励のかしわめしを作って持って来てくださいます。庭の、あらゆるところから、よくわからない宝石みたいなプラスチックが出てきます。何だこれ?掃除すればするほど、母は「これは、あっちに置きたい」「それは、そっちに置きたい」と、希望が出てきている様子。

「そこから、子どもがピャーッて出てきたりするから怖いんよ」とのことで、買ってきたというミラーを取り付けて。片付けの初日にこのミラーを見たときには、何てバカなものを買ったんだと感じていたものの、片付け最終日となると、母は不便を補おうとして買って来たんだということが、身にしみるようにわかります。

Iさん、本当にありがとうございます。

すべての鑑定を終えて、母が久しぶりの現金収入を得ました。

最後、父のステレオセットも持って帰ってくださいました。(すでに買取業者で値段がつかないと言われていたもの)廊下に積んでいた「ディアゴスティーニ 国鉄」と書いた箱も「これは何ですか?」と開けて「まとめて2千円なら持って帰れます」「お願いしよう」と母。あれほど「捨てん!捨てたくない!」と騒いでいたのに現金なものだな。

ステレオセット処分できたの、ヤバい。だって2階から下ろして粗大ごみで捨てるのだって大変そうやったのに、さすがは青年、ひとりで抱えて下ろして持って帰ってくれた。ありがてー!母は何度も「冷蔵庫がきれいになってうれしい」と喜んでいます。

今日は、長い帰省の最後の日。赤坂へ行きます。

「私とお母さんで、1.5人前と思って」と弟に言いおいて、注文してもらいます。

弟の知っている方法で、母に大量買いをさせないようにするのは無理だったし、母が弟を支配しようとすると言っていたけれど、私が見た景色は少し違った。「母は、あんたに構いたいんよ。あんたと甥っ子が来たら、私のランクが下がる」どうしても母は、弟が来たら弟しか見えなくなる様子。何か話したくて、構いたくて、うるさくなってしまう。「ほらね」と弟妻のKさんも、弟と母の不仲を心配してくれています。それにしても、Kさんはさすが3人めの奥さん、弟いわく「初めて、穏やかな生活」と幸せそうです。前のひとも、その前のひとも、私は彼女たちの親戚含め、小姑なりにがんばって接していたけれど、今となっては遠い昔です。どうか彼女たちが幸せでありますように。

それにしても、私だけがビールを飲みます。弟と母が本当に下戸で良かった。私と父だけがお酒を飲めます。本日の現金収入でご馳走してくれた母、弟妻ちゃんが送ってくれるときに「あー、美味しかったね、ありがとう。ご馳走さま」と言うと「あのおやじ、最近焼きすぎやない?ねぎ焼きとか焦げとった」台無しにするのが母。家に帰って「それにしても、ありがとうね。うれしい、きれいになって」「お母さんもよくがんばりました。楽しかったー、すごく楽しかったよ、嫌やったら出来ん、お母さんが働いて、育ててくれたおかげ」缶ビールを冷蔵庫から出して飲んで、ぼーっとします。「私、明日からどうやって暮らしたらいいんやろ」「大丈夫よ、おたがいがんばろ?私も明日からまた仕事やけん。あー、行きたくない」母の老いを、全力で見つめて、受け止めるだけ。母はこづかいをくれようとしますが、全力で断ります。それにしても、3年前の父の死に際の頃から、毎年やってきた実家の片付け、今年はその集大成、うまくいった、大成功だった。まだまだやれることはある、これからは、年に1回じゃなくて、もっと回数を増やして、私の中の実家問題を何とかしよう、それが私の最大のテーマだと感じました。父にしてあげられなかったことをすべて、この今生きている問題児の母に、全ベットしよう、そう考えます。