家族ごっこ

すっかり馴れた道筋で地下鉄に乗って、両親と伯父伯母の泊まるホテルへ。上野駅に着いて父の携帯に電話をして、今着いたけどコーヒーか何かいる?と尋ねると父はいらん。母はいる。とのこと。上島珈琲でアイスコーヒーを2つテイクアウトします。部屋へ行ってみると、伯父伯母がおらんとのこと。いつの間にかスタンバイしてロビーで待っていたよう。伯母が封筒に入れたお札を、どれほど遠慮しても私のズタ袋にねじ込んでくれました。


さあどうする?と地下鉄に乗って東京駅へ行って、ゴロゴロをロッカーに預けて、新しく建て替えたKITTEなら喜んでくれるかと行ってみたところ開店前。母だけが「ドコモのお姉ちゃんと、銀行の◯◯ちゃんにお土産買わな」と郵便局グッズを買っています。父は「銀行の人が郵便局のボールペンやら持っとったらおかしかろうもん」とイライラ。伯父さんは母のことを「本当、よう買いよる。面白いなー」と笑っています。


銀座までまたバラバラに歩きました。父はゆっくり歩き過ぎてかえって腰が悪くなったと言っています。私も歩くペースが遅過ぎて普段使わない筋肉が痛い。母はずーっと伯母にお喋りしながらどうやったらあんなに遅く歩けるのだろうというスピードで歩いています。伯父が誘ってくれた資生堂パーラーへ。誰もが最初に決めたものとは違うものを注文するものだから交通整理がバラバラ、私と父だけはバニラアイス。母はフレンチトーストのセットを食べながら隣りの席の老婦人と息子を見て「親孝行やねぇ、見てあのおばあさん。あの息子。結構いい年よ」と声が聞こえてそうでヒヤヒヤ。「見てあの黒人さん、ひとりでパフェ食べよる」「見てごらんあの女の子、ものすごい可愛い。お人形さんみたい」。父はまた別のテーブルで大きな声の女性を指差して「母ちゃんに言ってやって。あんな風に大声出して喋るオバさんみたいよって」と意地悪言うのでもう嫌になっちゃう。色んな意味で。資生堂パーラーで。


バラバラと歌舞伎座まで歩いて、父がテレビで見たという屋上庭園を見て、母と伯母はトイレへ行ってお土産を見て、地下鉄に乗って東京駅へ戻って荷物を出して。伯母が「今度はいつ会えるかわからんし」と言うので涙をこらえるのが精一杯。手を振って別れた後、両親と品川駅へ行きます。テラス席でビールを飲んで出発までの時間を過ごします。横断歩道を渡っている間に、母が紙に挟んだお金を渡そうとするので、いらん!と拒否すると鬼のような顔で睨んで怒られました。昨日の晩ご飯で私が諭吉先生を出したのを父が受け取ったからと、ものすごく怒っていたのです。あんたは出したらいかん!ヤダヤダ、北の国からじゃないんだから。心配してくれなくても、けっこうマイペースで好きなように暮らしているのに。別れた後の山手線では外の光がまぶしくて目を閉じるとまぶたが水風船のように涙でいっぱいになって、ツーツーと流れてあふれて止まらなくて。だから嫌だったんだ、両親と会うのは、そう思いました。家族ごっこもようやく終わり。明日からまた私の日常です。