サマルカンドを歩き回る

また、朝の6時に目が覚めます。死んだように眠っているTPを起こして、朝の散歩。

鳥がいっぱい。鳥は日本だってウズベキスタンだって、いつでも早起きでチュンチュンと鳴きに鳴いています。

ウズベキスタンの鳩。

公園で、オリジナルの体操をしているおじさんを見かけました。朝焼けがよく似合います。

レギスタン広場の裏手には、住宅街があります。集会所みたいなところに貼られているのは、どうやら薬物の危険性を訴えるポスター。

強盗やDVを防止するためのポスター。

雨水を流すのでしょうか?大通りに伸びる溝。

手作りのベンチも、日本のように角を取ったりせずに、角材を打ち付けたまんま。

ペットショップでは、ハリネズミと亀が同居していました。お互いに嫌そう。

洗濯物は、アパートから表の街路樹まで張ったロープに滑車をつけたものに、干しながらクルクルと通路に出す仕組みらしい。

道のあちらこちらに、石や砂利が投げ置かれています。洪水のときなどの応急処置用でしょうか?

本当なら、拾って帰りたいような「いい石」がたくさん・・・宝の山・・・

昨日の夜に到着したときは、恐ろしく見えたホテルも、朝になったらいいホテルに思えます。

朝ごはん。ウズベキスタンのホテルでは100%、朝食が付いています。

今朝も早くから鬼軍曹、じゃないホテルのオーナーが、品数や出し方などをチェックして回っています。でも厨房からは従業員の笑い声が聞こえるので、それほど怖い存在では無いのかも知れない。

昨日から思っていたけれど、このホテルは装飾品に凝っていて、現地の民芸品やアンティーク、中庭にも小道具などをたっぷりと飾ってあるのです。またスモークチーズ、ハム、キュウリ、ナン、コクチャイ・・・お腹いっぱいに朝食を食べます。TPなど「うちもさぁ、朝ごはん、こんな感じでいいっちゃない?パンとサラミとか、サラミとかハムとか」などと言っています。ハムとかサラミって、高いんだよとは言わずに、本当にそうだなと思ったりします。ひと休みしていると、部屋のドアをノックされました。出てみると、赤シャツの青年、昨日の氣弱な青年とは違う、はつらつとしたイケメン風のひと。今日のチケットのことで、とのこと。そうだった、鬼軍曹から朝になったらロビーに来るように言われていたんだった。A4のコピー用紙と、赤ペンを持ってロビーに向かいます。

どうやら今日のタシケント行きの列車は、夜の22時48分発しか無いらしい。ちなみに明日は、飛行機も列車も調べたけれど早朝の5時発、でも飛行機は2時間前に空港に行くから大変、どちらかと言えば列車をおすすめするとのこと。旅行のスケジュールはまるっとTPにお任せしているので、私はただボーッとしているだけ。TPが、今日の夜はあり得ない、向こうに何時に着くか、もし日をまたいだらレギストラーツィアの心配もあるし、明日の5時も早すぎる、3時起きやろ?クタクタで向こうに着いて、荷物背負ってホテル探しとか、無理やろう。明日の午後は無いかいな?とのことで聞いてみると、何度か電話をしてくれています。じーっと良い子で待つ日本人夫婦。やがて。15時発、18時着なら普通列車があるとのこと。じーっと考えていたTPは、そのチケットにしようと決断。私はどちらにしても、何時でも何日でも、何も考えていません。乗車券の料金は38ドル、これまでの列車の最高価格です。ただこれからまたバスに乗って、駅まで言って、タクシーの勧誘をかいくぐってKASSAで乗車券を買うのも大変。わかった、38ドルでその明日のチケットに決めましょう。

でも、もう一泊しなければならない。「私たちには、この38ドルが高いと思います。せめて宿泊料をディスカウントしてもらえませんか」と英語で尋ねたところ、赤シャツのイケメンは、わかった、ボスに聞いてくるとロビーを飛び出して行きます。5分後、OK、いくらディスカウントしたらいい?と尋ねられたので、5ドル、と答えます。OK、とのこと。たった5ドルを負けてもらっただけだけれど、ウズベキスタンを旅行している私たちにとっては大きい5ドル。双方納得して交渉成立しました。連泊なら、チェックアウトの時間を氣にしなくても、荷物も持って歩かなくていいし、かえって氣楽だ、ウキウキ。

身軽に、またしてもレギスタン広場へ向かいます。

入場料、ひとり30,000スム。モザイクのタイルや、モザイクに見せたペンキで造られたメドレセという建物、ひとつずつ入ってみると、中はお土産物屋さんだったので驚きます。

どこを見ても、何を見ても青いモザイク、お土産屋さん。サマルカンドナンのマグネット、欲しいけれど冷蔵庫にマグネット貼るのを厳選しているし・・・TP買わないかな?とあれ可愛いね!とアピールしてみますが、本当に可愛いね!と言うだけで買いません。TPはそもそも、ほとんど物を買いません。

広場を出て、裏手の方にある観光スポットへと続く道の入り口で、チャイハナがあったのでお茶します。コクチャイ2,000スム(門おごり)、ソフトクリーム1,500スムを2つ。サマルカンドはだだっ広いからか、やたらと喉が乾きます。チャイハナというよりもフードコートみたいなところで、ホジャっとします。紙が無いので持参のトイレットペーパーを使います。

整備された道を歩いていると、インフォメーションがあったので珍しくて寄ってみます。ポケットサイズの折りたたみ地図、6,000スム。おすすめのスポットを尋ねて◯をします。

それにしても、修学旅行生らしき子どもたちがたくさん、アンニョンとか、カリアー?ジャパン?とやたらと話しかけられ、スマホで写真撮ろうと声をかけられまくります。どういうことだろう、アジア人と写真を撮るのが授業の一環なのかしら。何枚も何枚も、見知らぬウズベク人の子どもたちのスマホに自撮り写真を収められながら、歩きます。

まずはBibi khanumというモスクへ。入場料ひとり22,000スム。払わずにぶっちぎって入場してしまう地元の団体客さんたちをチェックするのが大変そう、受付の女性が追いかけ回しても、後ろのひとが払うと言って聞きません。とてつもなく大きい建物を、とんでもなく急がせて造らせたものだから、おから工事でボロボロ崩れてしまったらしい。それより何より、観光客の子どもたちが土でできた鳩笛をプープー吹いて楽しそうにしています。私も欲しい。鳩笛売りのお姉さんに値段を尋ねると、ちょっと目をキラッとさせて5ドルだと言います。41,000スムだなんて嘘だねと思う。あんなに地元の子どもたちがプープー吹いているもの、せいぜい5,000、いや10,000スムだと思う。福岡のお祭り、放生会で買ってもらったもっと大きい鳩笛はいくらだったんだろう?粗い作りなのに5ドルだなんて、我慢して買わずに次のスポットへ。

子どもが、ペットボトルの容器を集めて回っています。この国で生活が苦しい子を見たのは初めてです。

Bibi khanum。地下に棺が3つ、静謐な空間です。入場料ひとり17,000スム。

すぐ横にある、巨大なバザールに入ってみます。


ナン。

小間物。

シープ肉。

サラミとハムの店。

ついに、ヒヴァで何度も見かけた小さい柿のような果物を買ってみました。500スム出して、数粒買おうと思ったら、普通は2,000スムからしか商売しないよみたいなことを言われて、500ならタダでいいと手のひらいっぱいほど、柿色の果物をもらってしまいます。差し出した500スムを引っ込めるわけにも行かず、強引に渡してしまった後味の悪さ。小さい柿だと思っていたものは、小さいビワでした。口いっぱいに頬張って、皮と種だけをプリッと出して食べるらしい。

ぽやーっとしたまま、バザールの外れの商店街で、外でプロフを作っているおじさんのいる店に入ります。これは地元のひとのレストランだと興奮していると、TPはあまり乗り氣で無いよう。どうやら強引に、地元のひとたちを後回しにして、私たちを優先的に座らせたことが嫌みたい、案の定、もらったメニューには値段がありません。プロフとマンティー1皿ずつ、勝手にナンを置かれて、コクチャイ、プロフは芯が残ったカチカチタイプ。私はおいしいと思うし、他のお客さんたちもニコニコとこちらを見ているから良い店なんじゃないかしら?とお会計を頼むと、給仕してくれた女性は外に行って店主に値段を確かめて、電卓で50,000スムと打ちます。高いかな?高いな、日本円で750円、私が独自に編み出した下一桁を切る円換算では5,000円ほどのランチ。昨日だって本格的なレストランで100,000スムくらいだったから、たったこれだけで半額は高いかも知れない。店主も最初のにこやかな表情とは一変、目も合わせてくれません。お支払いのときに、こちらをじーっと興味深そうに観察している地元のひとたちにも、10,000スムをわざと5枚見せながら支払います。でも誰もがニコニコと見守っているだけ。高いと思うけれど、適正価格なのかも知れません。

オヤジはもう目を合わせない。

バザールを出て、交差点を右に曲がってShahi Zindaへ。入場料ひとり12,000スム。小ぶりながらも絵になるお墓やモスクがたくさん、おもちゃのピアスやライターを買ってみます。それぞれ10,000スムと13,000スム。また見知らぬ女子高生から、自撮りの写メを撮られます。日本人と写真を撮って、何が面白いんだろう?鎖国を解除したばかりの心境なのかな?私だって子どもの頃、初めて見かけた黒人男性を弟と自転車で追いかけたから。

TPとあらためて、値段の書かれていないレストランでは値段をちゃんと聞くこと、お会計では明細を尋ねること、などと確かめ合います。5万スムはぼったくられたかもと嫌な氣持ちになっていたところ、メモ帳をめくるとサマルカンド駅のプロフは2皿で60,000スムと書き残していました。なら、相場じゃね?でも駅は高いだろう、あの小さい店で5万は高いだろう、ぼられたんだろう、そう結論づけて、私が選んだ食堂だったから、イングロリアスの6万スムに救われたような思い。

TPが、一年が365日だと発見していた天文学者のウルグ・ベクさんの記念館に行きたいと言うので、本当にこの道で合っているのかな?と不審に思いながらついて行きます。墓を抜ける道だなんて。

丘を越えて

喉カラカラ。はびこる雑草も可愛らしい。

ひとっこひとり歩いていない幹線道路を、ただ歩き続けて1時間。道路脇には使用済みの紙おむつが大量に捨てられていたり、割れた食器がぶちまけられていたりします。旅行の日程はTPに丸投げだから、いつもなら腹が立ちそうなところを私の希望のウズベキスタンに来ているものだから文句ひとつ言わず、むしろ謙虚に、エレカシブルーハーツを歌い続けて、ゴールの無い苦しさ、喉の渇きを癒やします。TPは私に氣を遣ってか、星野源の恋を歌ってくれます。胸の中にあるもの、いつも見えなくなるもの、とふたりで手をバタバタとしながら踊って歌って、歩き続けます。

道を渡ってきた人に尋ねたりしながらようやく、ウルグ・ベクさんという方の記念館にたどり着きました。駐車場のカフェでひとやすみ。ソフトクリーム5,000スム、コーラ4,000スム。いつもの旅行では、地元のひとに対して私が質問する役(主に英語で)、TPは答えを聞き役(私はヒヤリングに自信が無いので)でしたが、ここウズベキスタンではTPは積極的に、すれ違うひとたちに質問をしています。ボディーランゲージやジェスチャー、英単語に自信をつけているのかな?私もこの国では伝わらないなりの伝わり方、コミュニケーション能力に自信を持ち始めています。TPは、帰りのバスを尋ねてくれました。とにかく右から来るバスに「レギスタン」と言えば良いよう。

ウルグ・ベクさんの記念館、入場料ひとり22,000スム。考えてみれば、もし今日の午後、タシケント行きのチケットが取れていたらここまでゆっくりとサマルカンドの街を歩いたりできんやったねぇ、一日延びて、かえって良かったかも知れんねぇなどと会話、でも身体は電池が切れたように、カラッカラです。

それにしても、ウルグ・ベクさんは元からお坊ちゃまだったとしても、一年を365日だと発見していたなんて、すごいと思います。施設の外のホジャットハナ、ひとり1,000スム。

帰りのバスは、すぐに来ました。得意の右手を地面に向けて斜め45度に差し出すポーズでバスを停めると、車掌の男の子がプッと笑っていますが氣にせずに乗り込みます。

今度は、大通りから行って戻って、行って戻ってのウネウネ、これまで歩いてきた道やら、歩いていない道やらをウネウネと走って、ようやく見覚えのある道、朝に散歩した住宅街で「レギスタン」と言われて下車します。ひとり1,200スム。

ホテルに戻って、ロビーで買った地図を広げてこれだけ歩いたと言うとプッと笑われて、シャワーを浴びて着替えて、晩ごはんです。

昨日と同じレストラン・レギスタンで前菜のサラダ。

そして、よくわからないけれど羊肉の煮込み。ウォッカと生ビールも。昨日もいらしたお店のおかみさんに、全くわからないメニューについて質問してみると、それは羊肉を巻いたもの、それは羊肉をどうにかしたものと身振り手振りと簡単な英語で教えてくれます。今日も来られて良かった。隣りの席にひとりでいらした、アジア人ぽい男性と目が合ったかと思うと、何人か尋ねられます。日本人と答えると、自分はフランスとベトナムのハーフ、君と同じ、目尻を指で押し上げる仕草で、アジア人を、欧米人たちが同じジェスチャーをやったら差別だと騒がれるあの仕草をして見せてくれました。本当に。私も外国で自分の顔を鏡を見ると、目が小さくて顔が平べったいなーと思っているから。TPはどちらかと言えば西郷どん風の濃い顔、イスラム系が混じってる?と聞かれたこともあったっけ。そのハーフの男性はとにかく、住所は不特定、ウズベキスタンは全くもってニューワールド、まだ発展していないところが魅力、自分は現代版のマルコポーロだと言ってうっとりした顔をします。なので私も、うっとりした顔をして見せます。ニューワールド。確かに。

今日のお会計は77,000スム。帰ろうとすると、レジ係りのおばさんが私とTPをそれぞれ指さして「ユーアー、ビューティフル」右手の人差指と、左手の人差指を出して近づけて、カップルみたいなジェスチャーでもう一度、あなたたちは美しいカップルだ、ということを言ってくれました。ラフマッ。私とTPの組み合わせ、一般的な日本人の中年夫婦が、彼女に何らかに美を感じてもらえたのだとしたら、ありがたい、の前に彼女の感性、それを言葉にできることってすごいな、と思わざるを得ませんでした。私も常々感じているから、すれ違う人たちの美しさを。


サマルカンドに二泊するつもりが無かったものだから、そしてもう一度おいしいレストランに行くことができたものだから、浮かれたまま、最初にバスが停まったスーパーに寄ってみます。サラミとかハムとかチーズが、当たり前に売られています。

トルコ製の、ミキシングボウルが50,500スムで売られていたのを、買ってみます。ウズベキスタンで食べた前菜のサラダ、どれもおいしかった、再現してみたくて。どうやって持って帰りましょう?他にも飲むヨーグルト2,990スム。TPもおやつと飲み物を買っています。

ホテルの近所の酒屋で、ウズベキスタンのワインを買ってみます。12,000スム。宿に戻って一服していると、同じ宿泊客のインド人がナンパしてくれました。どこから来たの?一緒に部屋でタバコでも吸わない?と。暗闇だから若く見えたのを承知で、ありがとう、結構ですとお断りして心のナンパ手帳に書き付けておきましょう。

それより何より、この国では電卓が役に立つ、日本に帰ったら旅行用に小さくて軽い電卓を買い足そう、そう思います。とにかく連泊できたからこそ見えた世界があった、とにかく地元のバスに乗ることは楽しい、何より、思った通りに行かなくてもそれが当たり前だと怒らずに済んだ、歌もたくさん歌った、これまでの慎ましい、貧乏海外旅行の経験値が活きていること、あらためて思い返して、ホクホクとしながら、日記を書きながら、ワインをちびちび飲みながら、ぐっすりと眠りました。