サマルカンドの夜

また、朝の6時半に目が覚めます。TPを起こして、朝の散歩へ出ようとしたところ、宿の入口が閉まっています。地下の食堂に降りると、待ってましたとばかりに席に座らされたので、朝食を先に食べることに。

今朝は宿のお母さんと息子だけではなく、お父さんもいます。家族総出で朝食の準備、宿の経営も大変そうだな。お母さんが作ったというミニミニパンケーキをTPは勧められるままに何枚も食べています。

私はウズベキスタンに来てから何度も食べているスモークチーズとハム、ゆで卵とナン、そしてお母さんのパンケーキをひとつ取って食べます。おいしい。息子から「フライドエッグ?」と聞かれたのでイエスと答えて焼いてもらってそれも食べます。コーヒーもコクチャイも飲んで、入り口の鍵も開けてもらって、いざブハラの朝散歩へ。

観光の中心にある塔を目指して、住宅街を周って歩いてみます。路地では炭火でナンを焼いて売っています。買いたいけれどぐっと我慢します。昼の散歩で来るつもりだったモスクや塔も、見えてしまいます。人けの少ない朝の散歩、クセになりそう。

一度宿に戻って、二度寝をして、もう一度観光に出かけます。

あれ?お祭りかな?馬に乗った青年や、踊りを踊っているグループがあちこちに、歩けば歩くほどひとが増えてきます。

太鼓を叩いているグループ。

飛ばさずにただ膨らませているだけの氣球。

芝生にウズベキスタン伝統の皿や衣装が放り出してあります。お祭りを盛り上げる飾りつけかな?

ウズベキスタンでよく、子どもがサッカーボール替わりに蹴っている、実を拾って私も蹴ってみます。ふかふかで蹴りやすい。

カンナムスタイルを激しく踊る空氣人形が遠くに見えます。

建物のひとつひとつが凄すぎて、写真を撮る氣力も薄れてきます。どうせネットには一眼レフで撮った素晴らしい写真が山のようにあるのだし、わざわざ我が家の安いカメラ(「感動10分の1カメラ」というあだ名。どんなに感動的な景色でも写すと10分の1ほどになるので)で撮らなくたって。

スパイスを混ぜて潰して売っている露店があったので、地元のひとの買い方を真似して、2,000スム分買ってみます。売り子さんは本当は50,000スム(片手を広げていたので)みたいなことを言っているけれど、そんなにいらないので2で押し切ってみます。新聞紙を丸めてアイスクリームのコーン状に包まれて戻ってきます。

欧米の旅行者で、素敵な服装の女性がいたので写真を撮ってみます。名残惜しいけれど、そろそろお昼、チェックアウトの時間です。宿に戻ってホジャっときましょう。旅行前は、ウズベキスタンでの注意点として、トイレ(ホジャットハナ)が少ないので氣をつけましょうというのを何度も目にしましたが、実際は観光地には必ず、割と清潔な公衆トイレがあります。でも念のため、ホジャッておいた方が良いので宿を出る前には必ずホジャるようにしています。チェックアウトをして、昨日なぜか注文することになったハーブティーを受け取ってお金を支払います。15,000スム。

そしてついにお楽しみの、昨日の夜に行った最高のレストラン、チナルへ再び。私の中ではリメンバー・クメールキッチンなので、絶対にもう一度行きたかった。先月、職場でもらったMVPのおこづかいもあるので、私がおごるよっ!と威勢よく入店です。

昨日と同じ前菜を頼んだつもりが、キュウリが入っていなかった。でもおいしい。

コクチャイには茶柱まで立っています。

お待ちかねのマンティーは、ひとりひと皿ずつ!鼻息も荒くなります。

シャシリク。昨日は給仕の青年に「羊肉ならどっちがおすすめ?」と聞いて教えてもらったカザフ風シープを食べたので、今日は串焼きの方。これは昨日のカザフ風の方がおいしかった、また同じシャシリクでも、ヒヴァのチャイハナで食べた炭火焼きの方がおいしかった、などとまるでグルメライターのような評を下すのは何様?実は昨日のサマルカンド発の電車からブハラまで後ろの席だったアメリカ人風の30台男性2人組が、電車の席はグイッと倒すし、お先にどうぞと出口を譲っても挨拶ひとつしないので感じ悪いなと思っていたところ、彼らも店に入ってきました。ガラガラなのに、地元のひとが食べている席に相席させられているので、イヒヒと思って眺めます。でも確かに、どんどんランチ目当てのお客は入ってきて、3階席はいっぱいになるほど。人氣店。

大満足で「また来るよ」そうマンティーになった子羊たちに心で挨拶をします。お会計96,000スム(門のおごり)。(←これは昨日の夕食より高いのでメモし間違えたかも、76,000スムだったかも)

昨日、最初のバスを降りた交差点まで歩いてみます。途中でサモサ2,000スムをTPにおごります。

歩道のタイルも、持って帰りたいような可愛さ。

バス停があったので、地元の少年少女たちと一緒に並んでみます。隣にいた青年にロシア語で書いた「ブハラ駅」のスペルを見せても、首をかしげるだけでわからない様子。その様子を見ていた先頭の方の青年が、英語ができる少女たちを連れてきてくれました。トレインステーションに行きたいと言うと、その場にいたひとたちで、ああでもないこうでもないと話した末に「378番」と教えてくれます。バスを待つ間、またしても家族構成やら年齢やらを根掘り葉掘り尋ねられます。子どもはいないと言うと「WHY!?」と目をむいて驚いています。年齢を答えると「オーマイガッ」と言われます。リルファさん、マルジャンさん、ありがとう。やがてバスが来たので乗り込もうとすると、後ろから来た別の車に危うく轢かれそうになりました。急ブレーキと人々の息を飲む声、誰もが胸を押さえて心配そうにしてくれているのを、いつものことなので氣にせずに「ラフマッ」とお礼を言ってバスに乗り込みます。ふたりで2,000スムよ〜とリルファさんが教えてくれるている姿に手を振って、満員のバスは発車しました。

今日のバスは、運転手の他に車掌がいるスタイル。日本人が困っていないか何度も目線でチェックしてくれます。バスが停まるたびに、荷物はここに置けとか、そこに立て、みたいに世話を焼いてくれ、乗客が少なくなってくると、ここに来いと前に呼ばれます。やがてブハラ駅へ。TPは最後までブハラのことをブラハと言って治りませんでした。

駅前の食堂でコクチャイ、3,000スム。店のおかみさんが手招きで奥のショーケースを見ろと呼ぶのでTPが行ってみると、ケーキが並んでいたそう。お腹は空いていないので、緑茶だけ飲んでサマルカンドに戻る列車を待ちます。

駅でブラックコーヒーを買って(4,000スム、インスタントコーヒーだった)、またしても、出発の30分前にはみんな列車に乗り込んで、定時よりちょっと早いんじゃないかな?と思う時間にスーッと列車は走り出します。

17時、サマルカンド駅に到着。昨日の朝はウルゲンチからここに着いて、午後にはブハラに向かって、今日はブハラからまたサマルカンド駅に戻ってきた。一体自分がどのあたりにいるのか、宿が決まったら地図を見てみよう。サマルカンド駅は慣れたものです。KASSAへ行って明日のタシケント行きのチケットを買いましょう。窓口で買っているひとの真横に陣取って、カウンターに肘をついて切符買いますの体勢を整えていると、私の書いたロシア語をじっと見ていたおじさんが、何やらスペル間違いを書き直そうとするジェスチャー、赤ペンを渡すと「II」を「冂」みたいに上をつないでくれました。いつの間にか、またしてもタクシーの運転手がレギスタン(街の中心地)に行くなら送って行くと、勝手に話しかけてきます。

それが、困ったことに明日のタシケント行きの切符(急行)は、売り切れだと言います。確かに地球の歩き方にも、人氣なのですぐに予約でいっぱいになるとか書いてあったっけ。断ってもずっとくっついている、目のイっちゃってるタクシー運ちゃんが、俺ならタシケント行きの切符を手配できると言っているようなので、無視します。ひとを無視することにひどく抵抗があるけれど、舐められてもいけないので、ここは無視作戦発動。急行じゃなくて各駅でもともう一度調べてもらいますが、そちらは明日もう一度窓口に来ないとわからないとのこと。困ったね、とそれほど困った風でもなくTPと言い合います。

駅前のバス乗り場で、「レギスタン?」と尋ねて乗り込みます。白髪の西洋人女性がひとり旅しているのか、前の方に座っているのでうれしくなります。彼女はどんどん周りのひとに話しかけて、ずーっと会話しています。発車したバス、少し渋滞しているよう。サマルカンドの街のひとたち、学校帰りの子どもたちがじゃんじゃん乗り込んであっと言う間にバスは満員になります。日も暮れて行きます。まだか細いロシア人風の少女が、興味深そうに私たちの横に来ました。別のところから乗り込んできたメガネをかけた少女も、日本人を興味深そうに近くで見たいのか、わざわざやって来て近くに立ちます。ふたりが小さい声で、カリアーじゃなくてヤポンスキーよ、カリアーとヤポンスキーは違う、目元が違うのよ、みたいなことをウズベク語で会話しているのが聞こえたので、ヤポンスキーと口に出してみると、メガネっ子は大きく頷いています。レギスタン、と口に出すと、任せといてみたいな表情で着いたら教えてくれるような雰囲氣。だんだんと夜になり、銅像やらマーケットやらがある場所で、少女ふたりが「降りまーす!」みたいに大きい声を出してくれて、日本人の中年夫婦は満員のバスを降りることができました。ラフマッと大きい声でお礼を言います。バス代ひとり1,200スム、ふたりで2,500渡してもお釣りはありません。100スムは1円みたいなものだからでしょうか。

初めての場所に、暗くなって到着することは、少し怖いこと。これまで問題なかったけれど、こういう時こそ氣を引き締めて、財布の位置やリュックのファスナーをよく確認して、地図を見て、歩きはじめます。目当てにしていたホテル、Zarinaは大通りから一本入ったところ。街灯も少なく、歩道にもボコボコ穴が開いているので、氣をつけて歩きます。なかなか見つからず、クラクションが鳴り響く道路を渡り、すぐに丸裸にされてボコボコにされそうな暗い道を抜け、麻薬の取引が行われているような地元の若者たちの横を通ってようやく、ホテルに到着しました。予約をしていないこと、一泊だけしたいことを伝えると、ボーイの青年が喋ろうとするのを制して、いかついオヤジが案内を買って出てくれます。その命令口調から、この宿のオーナーだとわかります。アラビアの砂漠でおかしくなるひとにそっくりで少し怖い。最初のツインルームは、暗くてほこりっぽかったので、次のダブルベッドの部屋に行くと温かいし、何より清潔だったのでここに決めます。一泊55ドル。パスポートを預けて、レギストラーツィア(宿泊の証明)もお願いします。

軍曹のようなオヤジが退出して、あらためて部屋を見ると、老舗ホテルらしく部屋は古いけれど、極めて清潔、湯船もあってお湯もたっぷり出ます。ルーティーンワークとなっているシャワーと洗濯を済ませて、オイルヒーターに洗濯物をかけて乾かします。TP「俺、ああいうタイプは怖くないっちゃん。口調は怖いけど、しっかりしてそう」とまだ少し軍曹を怖がっている私を慰めています。

灰皿は中庭にあります。一服していると、ロビーにいた氣の弱そうな青年がニコニコと通り過ぎて食堂らしきところへ玉子を運んでいます。軍曹にこき使われてないといいけど。TPと夜のレギスタン広場へ。ホテルのロビーで、青年に近くにいいレストランはりますか?と尋ねると、地図を描いて教えてくれます。ここにチャイハナがあるけれどそこはあまり良くない、右に曲がって少し行ったところのレストランがパーフェクト・チョイスですとのこと。確かに、バスが到着した場所から歩いて来るときにも見たけれど、そのレストランは地元のひとも観光客もいっぱいで、とても賑わっていました。すると軍曹がやってきて、エブリシングOKか?お前たち、明日はどうするんだ、ツアーもやっているけど申し込まなくてもノープロブレム、それより一泊して明日はどこに行くんだ?タシケント?と察しが良い。はい、タシケントに戻りたいけれど列車のチケットが取れなかったと言うと「明日の朝、ロビーに来い。俺が旅行会社に聞いておく。大丈夫、安心しろ。明日の朝だぞ」みたいなことを言われて、ホッとして歩き出します。ホテルのすぐ近くに、大型の酒屋があったのでウズベクの瓶ビール2本買います。2本で16,000スム。

わ、レギスタン広場。こんなに大きいのか、テレビでよく見る場所だけれど。飛行機に乗って、電車やバスを使って、ようやくたどり着いた場所。でもテレビではこのサイズ感はわからなかった、でかい、とにかくでかいと、さすがにこみ上げるものがあります。

プロジェクションマッピングが始まるのか、ライトアップの練習も始まっています。広場の前には、日本の旅行代理店名が書かれたパイプ椅子がずらりと並んでいます。


お待ちかねの夕食はその名もレギスタンレストラン。夜の8時を過ぎてもまだ賑わっている店内、日本人夫婦は入り口で様子を伺いながらそーっと待っていると、頭にスカーフを巻いたおかみさんが、すぐに開けるから待っててね、と声をかけてくれます。中央の席の西洋人カップルが、すぐに出るからちょっと待っててみたいなジェスチャーをTPに投げかけてくれています。入り口近くで食事していたドイツ人カップルも、席が空くまでここに座っていなよ、とジェスチャーで椅子に座らせてくれます。何て氣持ちのいいレストランなんだ。ドイツ人カップルに、このレストランはどうですか?と尋ねたところ「サマルカンドで4回食事したけれど、ここがベスト。もう2回来たわ」とのこと。わくわく。おふたりは、サマルカンドに一週間くらい滞在するそう。こちらもドイツを旅行したことや、ウズベキスタンではヒヴァが良かった、地ビールもおいしいなどと会話してみます。彼らも、ここのウォッカはおいしい、ビールはちょっとアルコール度数が高すぎて好きじゃないと教えてくれます。それにしても。ヨーロッパのひとたちは、ヨーロッパだけでなく東南アジアなんかで会うと白人以外を見下した横柄な態度のひとが多いけれど、ここウズベキスタンで会うと何だかみんないいひと。観光地ですれ違っても、威圧的な感じ感じがありません。不思議でならない。欧米のひととはいえ、黒人の旅行者は全く見かけません。まだまだ知らない何かがあるのかも知れない。


肝心のお料理。ここでもシャシリクよりカザフ風の煮込み(ポテト付き)みたいなのを勧められます。確かにおいしい・・・しみじみと、おいしい。焼きうどんも、しみじみとおいしい。ウォッカも、キリッとしていておいしい。お会計は、102,500スム。

私が何よりうれしいのは、今回の旅行はこれまでの旅行で体験して得たハック的なものを十分に活かせていることです。混んでいるレストランでは、じーっと待つ(チェコのビアホールで、ぐいぐいと入って行ったアメリカ人が追い返されていたから)。切符を買う時は英語で処理しようとしない、地元の言葉を紙に書く(英語でチケットを買おうとしている旅行者は、ずいぶん待たされていたから)。聞き取れなかったことは、恥ずかしがらずにもう一度聞く(ホテルでも、レストランでも)。他にも、ダウンベストの安心感と、マツキヨの着圧ソックスの便利さ、写真よりも景色を目に焼き付けること、とにかく何でも地元のひとに質問すること、などなど。ウズベキスタンでは誰かに教えてもらわねば何ひとつできない、そのことが、胸にじーんと迫ってきます。来てよかった、まだ実感ないけど。