娘の特権

伯父は朝から室見川を散歩。元氣だな。朝ごはんは弟が買ってきたマックのハンバーガーらしい。散歩から帰った伯父は、ハンバーガーを食べたことないと言うので驚きます。コンビニは飲み物を買うだけだそう。「こないだ、カミさんに付き合ってスーパーに行ってみたら、同じ飲み物でもコンビニよりものすごう安いんやな。びっくりしたわ」こっちもびっくりしたわ。私は何も食べられません。

 

父は、今朝は口が利けなくなっています。「おはよう」と言っても、ぼんやりと私を見るだけ。でも「お父さん、おはよう」と言うとニコッとしてくれます。それでも、辛い辛いとだけ言っています。

 

看護師さんたちがいらして、薬の調整を先生と相談して下さいます。父が辛くなくなるように。その間、私が実家に着いてからずっと発狂しそうだったこと、家の汚さを何とかしようとまずは玄関掃除。干支の置物など母が捨てたくないと言い張るのを説得して、捨てます。母がどうしても残したいと言うものは渋々残しますが、ほこりや花の枯れたカスなどゾッとするのをウェットシートで拭き取ります。母は食卓に座らせておいて、目の前に出されたものを選別するだけ。伯父が笑いながら見ています。伯父は一旦仕事に戻るそうで帰宅、弟が地下鉄の駅まで送って行きます。

 

父の親友夫婦が来ます。両親たちとは毎月積み立て貯金をして毎年お正月を旅館で過ごしている仲。それなのに母は、あの奥さん氣が利きすぎて好かんとか言っているのでゾッとします。(弟いわく、あんたの周りは悪人ばっかりやね!って言ってやったとのこと)親友が昔の話しを語りかけていると、いきなり父が笑ったので皆でよろこびます。母が「カステラもらったよ、お父さん食べる?」と聞くと、うんと大きくうなずいて、起き上がるのでびっくり。急いで頂いたばかりのカステラを一切れ、フォークで小さくして食べさせます。おいしい?と聞くとうなずくのでまた皆で大喜び。母が渡した牛乳も、親友がストローで飲ませるとゴクゴク飲んでいます。良かった!

 

今度は下関から母の叔母たちが一家総出で来てくれます。もう最初から「おいちゃん」「◯◯ちゃん(父の名前)」を呼びながらベッドサイドに駆け寄り「なしてこんなことに」「まだ若いのに」「一番長生きすると思ったのに」「辛かろう」などと涙涙。弟は号泣しながらそのシーンを動画に撮っているものだから、何だこいつはと思ったりします。思い出話に笑ったり、父も反応を示したりして。最後、皆が家を出るとき、父は身体を持ち上げ、ベッドに掴まりながら立ち上がり、弟に支えられながら玄関まですり足で見送りに出たものだからまた全員で大号泣。(私はそういうときは泣けないタイプ)

 

弟は何かの書類を取りに外出。ふと見ると、父親がベッド脇で立ち上がろうとしているので慌てて母と介助、ポータブルトイレではなく、家のトイレに行こうとするので静止しようとしても言うことを聞かず「どけどけどけどけっ」と言いながらすり足でトイレに行こうとするので仕方なく付き合います。すると、浴室の方に行こうとするので母が「そっちじゃないよ」と言うけれど私は昨日のことがあるので「シャワーよ、シャワー浴びながらおしっこするとよ」と教えます。今日は、おしっこはせずに、首周りや胸などを洗っています。浴槽に捕まって立ち上がり、尻を突き出して母に肛門を洗わせています。ぷぷっ。母と協力して身体を拭き上げてベッドに寝せると、ほっとしたように眠っています。尻が氣持ち悪かったんだな。母が笑いをこらえながら「どうする?これが癖になったら」と大笑い。どうしよ。毎回シャワー浴びることになったら。こっちも大変なんですけど。

 

笑ったりしたら何だか、少し元氣が出てきました。昼は昨日の残りの巻きずしを食べて。私はゴム手袋が無いと水仕事できない派。「ゴム手袋買ってくる」と外に出ます。昔とは変わってしまった景色。

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歩いて歩いて、スーパーへ。

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ゴム手袋が売っていないので驚きます。

 

そのまま、ニトリを目指して歩きます。室見川を渡って。ニトリにもゴム手袋が無いので木の葉モールへ行きます。ゴム手袋があったので買います。そのまま歩いて、美香ちゃんの職場を目指します。でも途中で、やはり父が立ち上がったりすることが心配になって引き返します。1時間ほどの外出、家に戻ると母はぐったりとくたびれて昼寝しています。弟も和室で昼寝しています。父も夕日の中で眠っています。しばらく、しーんとした中で、家族の寝息を楽しみます。

 

私がごそごそと流し台の扉を磨いていると起きてきた母が「その扉開けてごらん、ぞっとするよ」開けると10年、いや20年越しみたいな液体や大量の鍋の蓋。「もう好きにして」と言うので「これは?」「いる」「これは」「いらん」「これは」「あ、それそんなところにあったんだ!」などと。たっぷりと掃除させられます。(昨日から45Lごみ袋2袋、30L1袋出している)

 

夜、まだ言葉を発していたときの父の提案で、ウエスタンのサイコロステーキ弁当を母が買ってきました。

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懐かしい味、子どもの頃から何度も通っていたお店。

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父用にも小さく切ったものと、小鉢に白ごはんも2口ほど入れて。父に見せてみると、自分で箸を持って食べ始めたので、家族で「おー」と声をあげて「やったやん」「食べられたやん」「すごいやん」と大絶賛。

 

家族劇団の劇団員たちが幸せムード満点のお芝居をした後で、さあ寝ようかというとき、やっぱり事件勃発。母がちょっとしたことでしつこく自分の意見を言うものだから私がキレて喧嘩に。弟も「やめろって。今だけは喧嘩すな」などと上から。じっと黙った後で、私は賭けに出ました。「だって」と母に爆弾を落とすような嫌なことを言ってやります。興奮して怒り返してくる母。すると父が「うぅうう、うるさい!やめろ!」と大きい声を出したのです。弟はロマンティストなので「もう、父を悲しませんなや!今だけはやめろって言ったやん、何でそんなこと言うと?父の願いはみんなが仲良くすることやろ?」と泣き始めます。私は「だって、お父さんに聞いて欲しかったちゃもん。お父さんは嘘が嫌いやけん、まだ生きとっちゃけん、お父さんにちゃんと聞いてもらいたかった」と父の元に駆け寄り「ねー、お父さん、喧嘩したっていいよね」と言うと父は目をパチッとあけて、うんとうなずきます。「ほれみろ!」と弟に言い返します。「お父さん、ごめんね、嫌な思いさせて。でも私はお父さんに聞いてほしかったと。許してくれるよね?」と言うと父はニッコリと笑ってくれます。「それはずるい」と弟。すると父が「何か、食べるもんあるか」と言うではありませんか。家族全員、大喜び。ハーゲンダッツ?かき氷?ガリガリ君は?と言うとうなずくので、ガリガリ君を1センチ分切って小皿に入れてスプーンで食べてもらいます。鼻の穴を膨らませて弟に嫌味な顔で笑いかけると、「悔しいけど今回ばかりは良かったわ」とか言っています。「でもその分、お前が父の寿命を縮めたけんね。エネルギー使わせて」とか言うので「逆やろ。元氣出たやろ」と言い返す。ほれみろ、お父さんは短氣だけど、相手にも反論があるなら正直に言って欲しいひとなんだ。それを母は喧嘩が面倒だからと「どうもすみませんでした。私が悪うございました」と三指ついて謝ったりと嫌味な態度で逃げてばかり、父の悪口を言ってばかりだから父はいつもイライラの矛先がどこにも刺さらずに爆発していたのです。高校生の頃、その怒りをこちらも怒り100倍で返して反論したところ、父はそれから一度も私を怒鳴りつけることはありません。娘の特権、何をやっても言っても父は絶対に許してくれるのです。だって、まだ父は父としてここにいるのだから。