狂氣じみて

早朝。下の階に降りると母はもう起きています。おはよう。伯父ちゃんはもう、散歩行ったよ、とのこと。

 

母、バイクでコンビニへ。「TP君に、特製ホットサンド作る」と言っていたのに、大量のサンドイッチを買って帰ってきました。「もう、何もしたくなくなった」私に黒いストッキングまで買ってきてしまいますが、私は外反母趾なのでストッキングは絶対に履けない、すまんけど。

 

今日の予定は、11時30分に葬儀場に集合、司会の方と打ち合わせをして12時からお斎(とき)、福岡の風習?食事を振る舞うそう。13時から本葬、15時から火葬、17時にまた戻って食事するらしい。

 

それなのに、朝9時30分頃「そろそろ行こうか」と母伯父伯母たちはもう斎場に向かうと言います。TPも慌てて喪服を着て(ファスナー閉まらないけど)、私はTシャツで喪服をバッグに詰めて。TPは足元がスニーカー、母と野芥のイオンで買ったらいいと言って、みんなで車に乗って出発。

 

福岡に帰省して初めて、曇空。野芥のイオンでTPと降りて、靴を見に行きますが、靴自体が売られていません。仕方ないので、葬儀場まで歩きながら靴屋を探すことに。しまむらがあったので入りますが、男性用の黒靴は無いそう。そのまま、荒江までバスに乗って葬儀場まで。私は葬儀場に残り、TPは、一人歩いて西新まで。私は葬儀場へ。甥っ子と少しだけ電車ごっこ、野球したいと言うので葬儀場の屋上で「3回だけよ」とエア野球ごっこ。バットは靴べらで。「カキーン、打ちました、2塁打!」「振りかぶって、投げました!」「盗塁成功!」「痛っ、デッドボール」広い駐車場を3周走って、まだやりたいと言う甥っ子をバッターアウト!と羽交い締めにして、抱えて降ります。

 

やがて、「ドン・キホーテでようやく見つけた」と黒靴を買ってTPが戻ってきて。遺影になった父を見たら、涙が滝のように出てきてたまらない氣持ちになります。

 

弟もこっそり拝んでいるから、もっとたまらない氣持ちになります。弟と私が初めて会ったのは病院で、私はまだ2歳で弟はゼロ歳で。そこから私の後をこまねずみのように付いてきては一緒に色んな遊びをしたっけ。

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よくわからない風習の、おとき。福岡に帰省して初めて、一人分を完食しました。

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そして、段々と集まる人々(家族葬じゃなかったっけ?)、ほぼおじさん、おじいさん。大量のおじいさんたちが喪服を着て、父のために集まってくれています。昭和の会社人間だった人々が。伯父が連絡したという父のいとこも。受付は、父が最後に顧問をしていた会社の方が引き受けて下さって。司会の方から届いた電報の社名や氏名の読み方を尋ねられて色んなひとに聞いてフリガナをふって。父が遺影になっちゃった。

 

母が糸島からお呼びしたお坊さんもいらして。このお坊さんのお父さんに、弟が小学5年制まで続いていたおねしょを拝んでもらって(一回1000円くらいだった、格安)「親戚に3歳くらいで亡くなった子おるやろ?」と、父の弟が3歳で亡くなっていたことが関係していると、母と二人でお百度参りしてその日からピタリと直していただいてから、母はこのお寺のファンで。私も勉強しないくせに「大学受かるでしょうか」と拝んでもらって「受かる」と言われてますます勉強しなくなって。

 

葬式の始まる寸前でも、葬儀会社の方は私を呼び出し「用意した香典返しが足りなくなって、本来ならお手出しになりますがこちらは一旦無料で後からご請求」「はい了解です」とお金の話しは私が窓口らしい。

 

そんなこんなで、お葬式は始まり、最初のお坊さんの鳴らす「チーン」の鐘の音で母がううっと泣き崩れたのを見た瞬間、弟がプッと吹き出し、私もプッと吹き出し、タオルを顔に当てて号泣するフリを演じているとそれを見た母がプーッと吹き出して、慌てて母もタオルを顔に当てて号泣するフリをするものだから私ももう戻れない、死ぬほど笑いが止まらない、どうしよう、父が一番辛そうだったことを思い出そう、するとお坊さんがお経の途中でお弟子さんらしき若手のお坊さんに「(小声で)かばんの中のあれ(指で四角を作るジェスチャーで)、持ってきて」と言った瞬間に私はブーッと吹き出して、弟も吹き出してから下唇を噛み締めて我慢、母も私もタオルに顔を埋めて、もう死にたい。

 

何とか立て直して、喪主(母)の焼香。喪主は3つある焼香台の一番左に行っちゃいました。やっぱり吹き出してしまう弟。続けて私(長女)、センターで焼香、そして弟。

 

家族葬のはずだったのに、弔事を父の大学時代の先輩にお願いしたそう。その熱いメッセージに号泣、からの家族代表の挨拶を弟が。弟、初っぱなから号泣、その号泣姿を見て母笑いをこらえて、私も笑いをこらえて。それでも弟は、社会人らしい感じでがんばって挨拶をしてくれていました。「父の願いでもあった、これからは家族仲良く」とか言っちゃって。私と喧嘩してばっかりの癖して。(普段は弟と喧嘩しないのに、実家に帰ると喧嘩が増えます、やっぱり甘えて元の子ども時代の感じに戻るからでしょうか)

 

司会の方が、父の人となりを最後に語ってくれますが「絵に書いたような亭主関白。お母様はいつもお父様が帰られると、熱々の料理を出していたそうです」とか言われて、そんなこと一度も無かったからまた笑いが止まらなくなります。

 

父、きっと見ていると思う。「お前ら、俺をサカナにして笑ったらいいやん」とか言って。

 

出棺。みなで花を棺桶に入れます。ちょとだけ父の顔に触ると、ぬめっとしていてギャッと指を離します。それを見て吹き出して笑う伯父。母がお位牌、私が遺影、弟妻のKさんが骨壷。縦一列で、会社の方たちが棺桶を抱えてくれ、霊柩車まで。霊柩車はなぜか、当初予約していた一人乗りが出払っていて、リムジンしか無い(お手出しナシ)と、私とTPも乗れることに。(長女って案外権限あるんだな、長女の夫も順位高いんだな)プーーーーーッ。父の遺影を窓から皆さんに向けてみます。

 

母、霊柩車の運転手さんとも長々と話し込んでいて(運転手さんも父の思い出話なんか興味ないだろ、すっげーな、母)。TPに「私、お葬式の最初の方で、吹き出して笑ってしまった。後ろから見てわかった?」「すぐわかった」ひっ!

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火葬場。20機ある火葬部屋が、18機ほど稼働しています。あちこちから、喪服を着て遺影を持った集団が、ぞろぞろと入ってきます。若い方の遺影のグループは、参列者も若くて。あら?お坊さんも来て下さっています。いつの間に?

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元父が入っていた亡骸に、お坊さんたちがお経を上げてくださいます。突っ伏して泣きたい。突っ伏すわけにいかないから立ったまま泣く。

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父を燃やす時間は、1時間半から2時間。その間、小部屋でみなお菓子など食べて過ごします。TP、顔色が真っ赤。ワクチンの副反応か!

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お坊さんにいただいた法要の予定。母「四十九日には帰ってくるやろ?そしたら、GO TO使って二人で、博多駅あたりで2泊しよう?ね?よかろう?」イヤとは言えないぜ。というより、TPも帰ってきてくれるかも知れんのに。

 

父の骨はこんがり焼けて、棺桶の釘もたくさんあって。横にいた甥っ子に「これ、私のお父さんの骨。焼いたお魚食べたら、骨があるやろ?」と言うと、うんとうなずいています。肩とか膝とかの骨がしっかり残っていて、歯もたくさんあって。父は虫歯ゼロの入れ歯ナシが自慢だったから。訪問看護師さんたちも口腔ケアの際、「あら?お父さん入れ歯ですか?」と言ってくれるほど、父の歯はしっかりしていて。伯父は父の骨を掴みそこねて床に落としているから弟が手で拾って戻して。母は父の骨をどれか選んでペンダントにしようかとか言って。私はちょっとだけ舐めてみて、ザラッとしてまずっとなって。

 

そんなこんなで。斎場に戻って食事。母、喪主の挨拶。本当に今回は皆さまのお陰で、◯◯ちゃん(弟妻)も帰ってきてくれて、(ちょっとTPの顔を見たけれど咄嗟に名前が出て来なかったらしくあきらめて)主人も喜んでくれていると思います、などと。弟に「もう二度と、父の葬式せんでいいってことやね」と言うと、大きくうなずいてくれます。本当に怖かった、父が死ぬということが。あの恐怖はもう二度と味合わなくて済むんだ!

 

さ、全部おしまい!皆で車とタクシーに乗って、家まで。TP、ワクチンの副反応でダウン。伯父、ちょっと飲もうやと私を誘ってくれて父に献杯。(母と弟は下戸)甥っ子、私とエンドレスお絵かき遊び。伯父が「お前たちは子ども作らんかったんか、それともできんかったんか」と言うので「できなかったんです」と言うと伯母が「それがいい」と言います。子どもやら大変やんとのこと。伯父に父の部屋を見てもらいます。「物が少ないでしょう」と自慢していると伯父は「何か記念になるもの、もらって帰ろう」タンスの引き出しを開けています。「あーっはっは、見てみい」と錠剤を見つけ出し「これ何かわかるか?バイアグラ」と私に見せ「ほー、こんなもの使っとったんか。あいつも遊んどったんやな、おもしろ」京都の伯母はあきれています。私もドン引きしつつ父らしいなとも思います(捨てとけよとも)。

 

さて、甥っ子の絵がいまいちだから、私は甥っ子にメロンパンの描き方を教えたところ(◯の中にバッテンを数本描くだけ)、そのメロンパンの絵が氣に入ったのか、何度もホワイトボードに描いています。それを私が、おじさんの絵を描いて「パクーッ」と食べたふりでメロンパンを消しておじさんのお腹をプーッと膨らます絵にすると甥っ子大喜び。からのエンドレス。夜は長い。父は骨。泣いたり笑ったり、泣いたり笑ったりの狂氣じみた葬式もやっと終わった!癌だった身体からぽーんと抜け出して、ニコニコと私たちを見てくれているといいけれど。もしくは、もっと良い場所で、安心して、感動していてくれたら。