ゾンビ

本日は月初の締めなので朝早めにお仕事開始。父のベッドの隣りに小さい台を置いて、パソコンを開いて、作業を始めます。

 

弟が寝ている和室を見ると、弟も上だけ制服に着替えて、後ろに緑色の幕を張ってリモートの準備。「ここ、エアコン無いし暑かろ?お父さんの部屋行ったら?」と言うと覗きに行って、緑色の幕も着脱式の棒状のカーテンレールにするっと入るので「ここ、最高やん」と喜ぶ弟。「親父の部屋が一番信頼できる」そう、母の部屋は長年開かずの間(中居くんのうちわがバーっと飾ってあって洋服が壁一面にあって、とにかく物が多い)、それに引き換え、父の部屋(元私の部屋)は、父が私の荷物をすべて私に送ってきて、私は99%を捨てて、父は自分の荷物を入れて(少ない)、快適に過ごしているのです。ベッドマットまで捨てちゃって、ベッドに薄い布団を敷いて寝ていたらしい。

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朝、母がおうどんを半分、作ってくれました。完食すると喜んでくれます。

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本来の始業時間までまだあるので、近所を散歩します。登校する中学生たち。みんな私の後輩だ。がんばれ中学生諸君。

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お隣の駅に行って、戻る道、山が見えてわーっとうれしくなります。実家に越してきたころは、まだ私の部屋の前は田んぼで、毎日山が見えていたので氣分はハイジだったっけ。

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中学生の頃の帰り道に、目印にしていた家がまだあったのでうれしくなります。

 

家に戻ると、母は弟に特製ホットサンドを作っていました。薄焼き玉子、キャベツ、ハム、チーズ。弟においしい?と尋ねると、うん、とのこと。母は子どもの頃からどういうわけか私より弟の方を贔屓しているのに、弟は母を子分扱いするからいつも喧嘩しています。喧嘩するほど仲がいい。

 

仕事を始めてみて、チームのAさんから「大変なときにすみません、ちょっと相談したいことが」とオンライン打ち合わせのチャット、もちろん大丈夫よ!と会議します。「どうですか?」と聞いてくれるので「お陰さまで、顔見たら安心した」と答えると「怖いですよね、うちも癌家系なので怖いなーって」「本当に?そう、怖いよー、でもだんだん弱って行くし、刻一刻状態が変わって行くから、飽きんよ」とお話し。チャットの履歴を見せてくれて、どう進めたらいいか迷っていると言うので、私も一緒に迷いながら、最後に「わかった!こうしようか」と方向性を見つけて、何よりそこで迷って私に共有してくれたAさんに感謝して、オンライン会議を閉じます。素晴らしいメンバーだ。

 

さ、お仕事お仕事。仕事をしていると、父がベッドから起き上がろうとしています。トイレかな?とポータブルトイレに座らせようとすると断固拒否。「お父さん、どこに行きたいと?」と聞くと「うちの」うちのトイレに行きたいようなので、私の肩を持ってもらって電車ごっこでトイレまで、イチニ、イチニ!イチニ、イチニ!とリズムよくすり足で歩いてもらいます。が、途中で膝がカクーッと抜けて「カクカクする」とか言っています。

 

トイレから戻って除菌シートで父の手を拭いて。お仕事お仕事。「お父さん、ちょっと集中するけんね、応援してね」と言うと、うんとうなずいてくれます。

 

母は、病院へ薬を取りにバイクで出かけています。エアコンつけて、父の様子を心配しながら猛烈に仕事を進めます。今回、無理を言って長期の帰省(在宅ワーク)を許してくれたチームメンバー(私の部下^^)たちが、いかにフォローしてくれているかが、チャットの様子でわかります。

 

感謝感謝で仕事をしていると、父がまたベッドから降りて立ち上がり、廊下の方にイケイケみたいな感じで顎で示すので、また電車の体制でイチニイチニと向かったところ、階段を上がろうとするので驚きます。「お父さん、やめとこう」と言っても、頑として譲らず、ひとりで手すりにつかまりながら上がろうとしています。ふにゃふにゃの足で、カクンカクンする膝で。父は、介護用ベッドで夜を過ごすことが負けだと思っていた節があります。私が帰省して2晩くらいは自分の部屋で寝ていたんじゃなかったっけ?記憶もあいまいになります。それが、意地でも二階に上がりたいと行動で示すから、私も後ろから、危なそうなときだけちょっと支えて、上の階まで。手すりにつかまってふうふう息をついている父を置いておいて、弟の仕事部屋(父の部屋)をノックして「お父さん、来るよ」と小声で伝えて、また父の元に戻って電車で弟の仕事部屋に「おじゃましまーす、お父さん来ました」と、父をベッドに寝かせます。

 

氣の毒なのは弟。これから大事な会議があるそう。私もパソコンを持ってきて、ベッドに寝ている父の横で腹ばいになって仕事をすすめます。「お父さん、無茶せんでよ。私も弟も忙しいっちゃけん」父は二階まで上がってきたものの、きついきついきついと小声で言いながら、ベッドに横たわっています。が、また起き上がって立とうとするので、弟とふたりで立ち上がらせて、また下の階に降りる手伝いをします。うーうーと言いながら、狂氣の顔で必死に階段を降りる父。。。一体何がしたいんだ。

一階のベッドに寝かしつけ、横で仕事をしていると、再び父が起き上がり、私の腕を手すりのように扱って立ち上がり、もう一度二階へ行こうとします。が、踊り場で座り込んで、うなだれています。すると、手でコップを持つジェスチャーで、クイッと傾ける感じにするので「お茶?」と聞くと、うんとうなずく。サッとストローを差したコップを取りに戻る私。どんだけ王様なんだよ!ストローから麦茶をたっぷり飲んだ父は、よしとばかりにまた、階段を上がろうとしています。ヨタヨタ、フラフラ。小さい声で「おっとっとっと」とか言って。私はもううんざりして、手を貸しません。万が一後ろに倒れたときの支えになるよう付いて行くだけ。膝カクカクでも何とかバランスを取りながら上がる父。再び弟の部屋へ。「やっぱねー!また来たん?何か嫌な足音するなーって思いよったんよー」と父はまた自分のベッドにゴロリ。もう今度は、付き合いたくないので弟におまかせして一階で仕事します。

 

薬をもらって帰ってきた母は「あれ?お父さんは?」と言うので「二階」と答えます。驚いて、笑っている母。

 

すると、また父は一階に降りてきて。「お父さん、私は仕事しようと。お父さんとこうして一緒におられるのも、在宅を許してもらえたお陰よ、ありがたいね、応援してくれる?」と言うと、うんとうなずくものの、何だかまた起き上がりそうな氣配。

 

 

午後、母は在宅専任の先生から、電話で新しい薬を処方されて受け取りに外出。弟は来年転勤が明けて福岡に戻る手続きで外出。何だか、嫌な予感。介護用ベッド脇で仕事をしていると、父がムクッと起き上がり、立ち上がり、ポータブルトイレは嫌がって、廊下に出て、浴室の方へ。(キター、ワンオペのシャワー!!)前と同じようにシャツを脱いで、紙パンツを脱いで、浴室に介護用風呂いすを置いて、倒れないように支えて座らせてシャワーを浴びせます。すっかり老人の猫背で、前の方は自分でシャワーをかけていて、途中で浴槽に手をかけて立って、尻を突き出しています。は?何?洗えって?と思いながら、石鹸を泡立てて肛門と、癌が広がって腫れ上がっている睾丸を、そーっと洗います。

 

父が、恥ずかしいと思っていないのだから、私も、全然恥ずかしくない、むしろモノみたいな感じで、当たり前に。弟とも、父親の下の世話できる?絶対ムリなどとお喋りしたっけ。でも今はワンオペだから。シャワーを浴びて外に出ようと思っていたら、父は空の浴槽に入ろうとしています。呆けたかな?「お父さん、お湯張ってない。ごめんね、明日は張るけんね」と言うとしゃがんでくれます。シャワーを止めて、上がろうとタオルで身体を拭いていたところ「ちょっと温まって出ようかね」と、ガクガクの足を勝手に空の浴槽に入れて、よいしょとか言って座ってしまいました。ガクガクの足で。仕方ないので、湯船にお湯を入れます。ダーッと入るお湯、父は座ったまま段々と増えるお湯を自分のお腹(癌でパンパンに膨らんでいる)にかけています。そうか、父は癌の部分を温めたかったのか。「お父さん、ごめんね氣づかんで。お湯に入りたかったっちゃね?これからはお風呂に入ろうね」と言うと、満足そうにうなずいています。お腹までお湯がたまったところで「もうお湯止める?」と聞くと首を横に振る。そして、背中を倒して長くなって、なるべく全身がお湯につかるようにのびのびとしています。お湯を張りながら、ダッシュでパソコンで弟にメール。「お父さん、またシャワー!しかも湯船まで!」ダッシュで浴室に戻ると、全身お湯に浸かって、なんとも満足そうな表情。「お父さん、ごめんね。明日からは、毎日お風呂に入ろうね」うんと大きくうなずく。10分弱お湯に浸かって、満足した表情で立ち上がった父は、浴槽に掴まって大きくひとやすみの深呼吸。待ちます。お風呂から「よっこらしょ」と出て、またひとやすみ。ようやく立ち上がってくれ、身体を拭いているところで弟がダッシュで帰ってきてくれました。「お風呂入ったん?入りたかったら入りたいって言ってくれよー」と二人で笑いながら「紙パンツ、替えた方がいいっちゃない?」「でも紙パンツのパットの付け方知らんもん」「えっ、どっちが前?」「ちょっと説明書見てくる!」「Mって書いてある方が後ろって」などとてんやわんやで父に紙パンツを履かせて、姉と弟は協力し合って父をベッドまで運んで、寝かせます。

 

ようやく戻った母に、事の顛末を伝えると喜んで、「そうね〜、傑作やね。お父さん、お風呂入ったんね、あんたも大変やったね」とのこと。ちょっと介護の時間が増えて仕事の時間が削られているので、チームのチャットに明日お休みをもらいたいことを伝えて快く了承をもらって、出勤簿で退出をして、今日中にやらねばならないしごとを続けます。

 

父、また起き出して二階に上がる。今度は、弟は会議中だからと遠慮したのか和室へ。身体が言うことを聞かないものだから寝転ぶときに膝から落ちて畳でゴチンと頭を打って「アイタタタタ」とか言って。また立ち上がる。「どうする?弟は仕事。お母さんの部屋に行く?」と聞くと首をぶんぶん振って全身で拒否します。そりゃそうだろ、モノだれけの開かずの間は怖いだろう。また弟の部屋へ。

 

もう、何が何だかわからなくなってきた。弟は本社へ外出。もう今日が何日かもわからない。明け方まで、父は立ち上がり、二階と一階を往復。今日は在宅看護の先生も途中で来てくれたっけ。とにかく辛そうなのに動きたがることを伝えると、辛さを取る薬を懸命に考えて処方してくれます。昨日、父のベッド横で寝てくれた弟は早く休んでもらって、私と母で明け方まで。母「お父さん!もういい加減にして。誰にも迷惑かけたくないって言ったのは嘘やったの?」私「お父さん、明日また一緒に遊ぼう?今日はもう寝たいけん。一日中、上がったり降りたりして、本当にくたびれたと」また立ち上がる父。なだめすかしてポータブルトイレに座らせたものの、すぐに立ち上がり、まさかのその場で放尿!小便小僧!!!めっちゃたっぷり出す!籐のカーペットの上で!雑巾!籐のカーペットの下まで拭いて!母リセッシュを狂ったようにあちこちに!母、血尿と叫ぶ!母「もう勘弁して!」私「お父さん、もう寝たい」在宅看護の看護師さんに電話して事情を伝えると、本人も辛そうなら眠れる注射をしましょうと、来てくださいました。看護師さんは、私と母の体調を氣づかってくださいます。たっぷりとお喋りして看護師さんも帰られて、眠れる注射を打たれてもなお、父は立ち上がり廊下に出ようとするー。母が機転を利かせて、途中で父の身体をくるっと反転させたら、介護用ベッドに戻って、座って、父の身体を引き上げてまっすぐにして、汗を拭いたりしたら父はようやく、眠ってくれました。今日は何度、寝たと思ったら立ち上がって復活したのだろう。まるでゾンビのように。

 

元私の部屋、現父の部屋のベッドに戻って、横になって今日もまた涙流しっぱなし、明日はまた母から「あんたブスになっとうよ」と腫れた目を馬鹿にされるんだろう。父親の謎の家中散歩を止めるときに、母が「お父さん、お父さんが死ぬ前に私たちが死ぬよ!」とか言ってたけど、おおげさすぎ、嘘ばっかり!と可笑しくなります。そういうことを思い返しながら、涙ダダ漏れで父のベッドで寝ます。長い一日。長過ぎるとも思える一日。