関門海峡

早朝4時に目覚まし時計をかけて、起きます。吉田さんの予選を観て、応援します。リュックを背負って、TPに「行ってくるね」と声をかけて徒歩で出発。花園神社の前で頭を下げて、どうかお婆ちゃんが苦しみませんように、今回のお見舞い帰省がいい日々になりますようにと祈ります。バスタに行くとちょうど羽田行きのバスが停まっていたので駆け寄ります。チケット売ってくれるおじさんが、次からは券売機でお買い求めください、そうわざわざ言っています。発車時間までこちらでお待ちください、そう言うのを聞きつけた別の係の人が「もういいよ、乗ってもらって。ガラガラだもん」とバスに乗せてくれます。バスタから出発したバスは初台から左折して長い長いトンネルをくぐって、ポンッと外に出るともう、湾岸の方でした。あっと言う間に羽田空港に到着です。


チェックインを済ませて入る登場ゲート横のテレビには、四連覇ならずと出ています。涙ぽろり

福岡空港には10分早く到着しました。迎えにきているはずの両親に電話をすると、あらら、まだ出てないとのこと。どれだけ余裕ぶっこいてんだ、と思いつつウロウロしながら両親の車を待ちます。渋滞に巻き込まれたと45分後にやってきた車に乗り込んで、いざ父方の祖母がいる老人ホームへ!


車窓から見える九州の景色、関門海峡を渡って見える下関の景色。子どもの頃から何百回も通った道。老人ホームの祖母の部屋に入って、おばあちゃん、来たよ〜!と言うと薄青い色の目を開いて、黒い目の中心をじっとこちらに向けて確かめて、開けっ放しの口の端をニコーッと上に上げて笑ってくれます。昨日はもう、危篤って聞いたけん心配したけど、まだ大丈夫みたい。両親と昼ご飯を食べに焼肉のやすもりへ。父と分け合ってとんちゃん鍋一人前を食べます。母は自分が頼んだ冷麺セットについてきたおにぎりを、ひとつ父に食べる?と聞いてうんと返事したはずなのに、ひとくち食べると「あら、これ美味しい!よう塩が効いとる」と言って、ふたつとも食べてしまいました。食べ終わってまた祖母の見舞いへ。ヘルパーさんたちが定期的に体温や脈、血中酸素量を計ってくれています。

母が京都の伯父、伯母を新幹線の駅に迎えに行っている間、父は下の酒屋で酒を買おうと言うのでついて行きます。私はビール、父は黒霧島。ホームでは飲めないからと、近くの用水路の縁石に座って乾杯します。お婆ちゃん、今日まで持ってくれて良かったねと言うと、いつまで持つかさっぱりわからん、今日明日って言われてもな、案外長いかも知れんよ。

母と京都は今日の宿にチェックインすると言うので、父も私も歩いて行ってロビーで待っていましょうと話して、火の山に向かって歩き出すと、父がめまいがすると言います。火の山のロープウェー登り口横の花壇に座りこんで氣持ち悪そうにしています。自動販売機で水を買って渡すと、グビグビ半分くらい飲んで、ボーッとしています。昼間から焼酎を飲んで日に当たって坂道を歩いたから氣持ちが悪くなったんだ。

関門海峡を見下ろしながらしばらく休んで、ホテルへ。部屋は広々としていて、お婆ちゃんのホームにも近いし、いいところだなぁ。先にチェックインして部屋の中で待っていると、母も京都の伯父伯母もやって来ました。

ひと休みして、再びホームへ。伯父はすぐに祖母の手をとって「どうかぁ?生きてるか?」たっぷり話しかけています。しんどいかぁ?しんどいやろなぁ。長男大好きな祖母は、目をパチッと開けて、よそ行きの顔で微笑んでいます。母が父に「お父さんも伯父ちゃんみたいにああやって、何か話しかけなよ」とけしかけますが、俺こんなん苦手やもんとソファーに腰掛けたままの父。伯母も祖母に優しく話しかけています。

私も近寄って、お婆ちゃん、景色見たい?と言うと、うんとうなずきます。わー、うなずいたと喜びます。ベッドを上げて関門海峡の景色を見せて、大きい船やねぇと話しをします。ボーッと見ているのか見ていないのかわからないような目。お婆ちゃん、喉乾いた?と言うと、うんとうなずきます。ペットボトルのキャップにお茶をちろりと入れて、口の横から流し込むと、ごくんと美味しそうに飲み込みます。やった〜!飲んだ!えらいねぇ!喜んでいると誇らしそうな顔になります。

ヘルパーさんが入ってきて、血圧を計ってくれます。問題なし。血中酸素量は話しかけると正常値になるよう。「誤飲がこわくてみんな飲み物をあげられないって言うんですけど、口腔内を清浄するスポンジの水は、ジューッと吸ってゴクゴク飲むから、それならこのスポンジで飲ませましょうって話したんです」そう言ってお婆ちゃんの好きなサイダーを3口ほど飲ませてくれます。私はペットボトルのキャップでお茶をあげたことは言わずにおきます。

運転してくたびれた母と、汗だらけの私、父と伯母はホテルに戻って風呂に入ることに。伯父はここに残ると言います。晩ごはんのときに迎えにくることにして、ホテルの大浴場へ。


ホテルの部屋からは、関門海峡を通る船がよく見えます。お婆ちゃんが夏休みに預かった孫の私を、持て余して遊覧船に乗せてくれたっけ。くらげがいると教えてもらって、浮かんでいるティッシュを、あれは何くらげ?と聞くと、あれは紙くらげ。ビニール袋を、あれは何くらげ?と聞くと、あれはビニールくらげ。適当に答えていたお婆ちゃんは、ベッドで横になって荒い呼吸をしています。弟夫婦からの電話で、明日の夜、飛行機のチケットを取って下関に来るらしい。25日に帰るチケットを取っていたはずなのに、その前にまた別の航空券を取って帰ってくるらしい。母は「うわぁー、もういいのに。葬式のときに来たらいいのに」小さい子どもを連れて大変やん、などと面倒くさそうに言うので、弟のことを本当に可哀想だと思いました。お婆ちゃんが生きている間に、ただひと目でも会いたくて駆けつけてくれる優しい弟(だから3回も結婚できたんだ)です。

両親、伯父伯母とみんなで、晩ごはんは焼肉のやすもりへ行くと満席で1時間待ちだったので、焼肉のばかもりへ。母は高級カルビやミノをパクパク食べながら「やっぱ、やすもりの方が美味しいね」と言っています。サンチュを頼むとサニーレタスが出てきたことに「偽物やん、偽物」と腹を立てています。焼肉の臭いを充満させながら、再び祖母のお見舞いに。お婆ちゃん、焼肉食べてきたよ、おいしかったよ、そう言って「また明日、来るけんね。明日来るよ。明日くるけんね」何度も大きい声で言います。ホテルに入ると父はすぐに眠ってしまいました。今日は3人部屋。アッ、父のベッドだけが高さが低い!よく見ると父のベッドはエクストラベッドでした。母はそれを見て、イヒヒッと笑いが止まらなくなって、いい氣味とでも言うように笑い続けていました。