本当のお別れ

monna88882016-08-23

朝、ほとんど食欲の無い父と私は、ホテルに言って朝食ビュッフェを抜いてもらっていました。ひとり1200円ほどの節約になったでしょうか。今日も朝風呂を済ませた母は「私は食べる!」そう宣言して、そんなに美味しくはないビュッフェに意氣揚々と出かけて行きます。しばらくすると、行くのが遅かったからかほとんどスカスカだったと半泣きで戻ってきました。可哀想なお母さん。


親族全員集合のお見舞いウィーク、いつ終わるのかもわからないし、終わって欲しくない。誰もが少しずつくたびれているように見えます。チェックアウトギリギリまでホテルに居ると言うので、私だけまたひとりで歩いて、祖母の老人ホームへ向かうことにしました。おばあちゃん、来たよ!そう言って、ベッドサイドに座ると、だんだんと少しずつ、遠い目になってきているように見えます。今日もいいお天氣。何度通ったことだろう、火の山登山口の前から関門海峡に挨拶をして、今日もおばあちゃんにとっていい一日になりますように!と手を合わせます。

やがて、父母伯父伯母もやって来ます。私が産まれる前に亡くなっていたおじいちゃんの遺影の方ばかりを、じーっと見ている祖母。遺影を手に取って顔に近づけて「おーい、がんばってるなぁー、すごいよー」と腹話術のように喋ると、まぁ、来て下さったの?みたいなよそ行きの顔で、ニッコリと微笑む祖母。母は「お義母さんは若い頃キレイやったけど、今は変わり果ててお爺ちゃんも、うわっ、思とったんと違うって帰って行くよ」などと意地悪を言っています。

やがて弟家族と、父の友人まで来てくれました。Tおじちゃんとおばちゃん、わざわざ来てくれてありがとう、そう言うと「門ちゃんのお母さんは、俺のお母さんや」などと泣かせることを言います。Tおじちゃんがまだ独身の頃、わが家に何度も遊びにきてくれて、父が私と弟にあまりにも厳しく当たるものだから、何十回も、何百回も抱っこしてくれたおじちゃんです。福岡から今朝来たばかりだと言うのに、私を福岡空港まで送って行ってくれるそう。感謝で頭が上がりません。父は「それなら俺も乗せて行ってもらおう」とまたしても福岡に帰ること決めてしまったから、顰蹙を買っています。

おばあちゃん。今日が最後。もう帰るね。でも、会えて本当に良かったよ。楽しかった。5日間、生きとってくれて本当にありがとう。窓の外の関門海峡を見たい?と聞くと、うんとうなずくのでベッドを上げると、腰の方が痛いのか、うーっと声を出して、しかめっ面になりました。痛かった?ごめんね、ごめんごめんと言うと、首をブンブン横に振るので感激します。弟も「ばあちゃん、優しいね〜」と頭をなでています。

いよいよ帰りの時間。おばあちゃん、もう行くね。ありがとうね。大好きよ、大丈夫よ、そう言うと、泣きそうな顔をして、寂しがってくれる祖母。「また会おうね」そう大きな声で言って、部屋を出ました。


車に乗り込むと、Tおばちゃんが保冷剤を渡してくれました。首元に当てると、氣持ちのいいこと!スカーフやらタオルやらに巻いたら、すごくいいよと教えてくれます。近所に買い物に行くだけでも、暑いですもんねぇ、早速参考にしよう、そう言います。「くたびれたやろ、着くまで寝とっていいよ」そう声をかけてくれただけで、目を閉じて目の奥の奥を眺めながらTおじちゃんとおばちゃんが来てくれて本当に良かったと感謝します。


1時間半。もうすぐ福岡に着くというところで、目が覚めました。あー、ぐっすり寝た。ありがとうございました。すると急にお腹がすいてきて、この5日間、おなかがグーッとすくことは一度もなかった、どこか肩に力が入ってたんだとわかりました。

改装中の福岡空港は駐車場への入場待ちで長蛇の列。出発のターミナル前で降ろしてもらって、お礼を言っても言っても足りないと思いながら手を振って別れて、羽田行きの飛行機にチェックインします。福岡空港には、ペッパー君がいました。ペッパー君は何台あったって全員が同じ名前のペッパー君。名前くらい一台ずつ替えてくれたらいいのにね、そう言うと淋しそうな顔をして、見送ってくれました。