コツが少しわかった

今朝もレッドチェアーホテルで宿泊料に含まれている朝食でお腹を満たして、いざ出発です。今日は受付の女の子が美人さんじゃなくて愛想の悪いブス子(失礼!)に代わっています。町外れにある高層ビルが並ぶところに行きたいと質問をしても、そんなの知らないわ、だってこの街にはたっくさんのビルがあるんだもの、ビルの名前がわからないと検討もつかないわ、ブー!とそっぽを向いてしまいます。残念、昨日までの可愛い女の子がいたら、夕べレストランに行ったよと話せたのに、ブー!

さあ今日はどこへ行きましょう。TPが、川に行きたいと言うので出かけます。TPは川とか沼とか池とか、広場とかが好きみたい。私は海と山と商店街と住宅街が好き。それはさておき、TPがどうしてもクラシックコンサートに行きたいと言うので、コンサートホールでチケットを尋ねてみます。列に並んでいると色んなことが見えます。どこの国の人かわからないけれど西洋人が流暢な英語で、ザルツブルクで言えばザルツカードみたいな、プラハカード的なものを見せてコンサートを聞けないか尋ねると、英語はわからない!と突っぱねられて追い出されています。我々日本人夫婦は、そっとつたない英語で、今日の夜のコンサートチケットはまだありますでしょうか?と尋ねると、本当は今日の夜は違う会社の主催だからここでは販売できないんだけれど・・・とネットで検索してくれて、残り1席しかないしそれは高額なチケットだから、夕方5時くらいに来て立ち見に挑戦してみたら?と、さっき西洋人を追い払った人とは思えないほどの親切で教えてくれます(英語で)。どうもありがとうございますとお礼を言って、列を離れます。

また広場を通って、もうひとつのコンサートホールへ。アジア人どころではない、もっと厳しいのかも知れない、滅多に出会わない黒人カップルの旅行者を見かけて、その彼女の洋服があまりにも似合っていて、赤いワンピース、水色のバッグ、きっちりと黒い肌によく映えていて、神々しさに思わずこっそりと写真を撮ります。キレイだな〜!あんな風に堂々としていたい。そして今晩のコンサートは、50ユーロもするけれどTPがどうしても行きたいと言うので、室内楽のチケットを買います。

私がどうしても行きたいと思う、遠くに見えるオフィス街、どこにあるかはわからないけれど、地下鉄に乗って町外れまで行ってみましょう!こんなこと言うのはおこがましいけれど、もう観光地には飽きた、何でもない街で、何でもないような景色を見たい。

プラハの地下鉄は、距離じゃなくて時間で値段が違うらしい。15分と30分があるので、30分を買ってみます。24コルナ、約5倍で日本円になります。地下に下りると、観光地とは違う、貧しそうな人もたくさん、見えてきました。見知らぬ人に話しかけて、小銭をもらっている人たち、不思議な事に、話しかけられている地元の少年や青年たちは、お風呂に入っていなさそうなおじさんの話しを最初から最後までずーっと聞いて、それから、小銭を渡したり、今はお金が無いと財布を見せて断ったりしています。

何となく20分くらい乗って降りた駅では、オフィスビル群がまだ遠くに見えました。

アップにしてビルの写真を撮って、

女性の駅員さんに写真を見せて尋ねると、じーっと眺めて「わかった!パンラック、パンラック」と路線図の駅を指差して、乗換駅も教えてくれます。本当にありがとう。

乗ってきた路線を戻って、乗り換えて違う路線で、また小銭をくれと言っているおじさんがいます。熱心に話しを聞いては断ったり渡したりしている青年たち。パンラック駅で外に出ると、ようやく郊外の雰囲氣が出てきました。

それが証拠に、道路を渡ったところにはホームセンターが!

わー、こんなところに来たかったっちゃん!

紐がいっぱい。

道具箱やら、パーツを入れるケースがたくさん。ドイツ製が多いようです。じっくりとホームセンターの中を歩いていると、自分が地元で暮らしているかのような氣持ち、とても爽快で、とても冒険しているような、本当にくつろいでこの街で暮らしているかのような幸福な感じで満たされます。

駅の近くのデパートの、フードコートで昼ごはん。よくわからない地元料理、レンズ豆の煮込みに大きいウィンナーが1本、キュウリのピクルスが1本、目玉焼きがひとつ乗ったものを注文、400円くらいです。地元の小学生が、あ、日本人だ!みたいな感じで私とTPの顔を見てニコッとして、少し離れたところからあんなの食べてるよ〜と指差して嬉しそうにしています。嬉しそうに見えたけれど、本当はバカにしているのかも知れないし、本当に地元のものを食べていることを喜んでくれているのかも、ただ珍しくて騒いでいるのかもわかりませんが、ニコッとするとニコッとしてくれます。

デパ地下のスーパーで、水を買います。お菓子売り場で、TPがホテルの朝食ビュッフェで食べて美味しかったというチェコのお菓子がとても安く売られていたので、これを職場のお土産にしようと決めます。TP20本、私30本(そうだ、会社が買われて今一体何人の職場になったのかわからないんだった、とにかく適当な数を買っておこう)。オーストリアは水道水が飲めたので、途中から公園などで水を汲んでペットボトルに入れてグビグビ飲んでいましたが(TPはあまり飲みたがらなかった)、チェコは水道水が飲めないので、3.5コルナくらいの安い水を買って飲んでいます。

観光地のお手洗いは5コルナ。30円程度です。デパートのトイレは料金箱があるけれど誰も入れていないから無料で入ります。何てうれしいんだろう、やっと、地元の人たちが行きそうなスーパーで、地元の人たちが食べそうなフードコートで、地元の人たちが使っている地下鉄で、パンラックの街を歩くことができている。幸せいっぱい。

朝買った室内楽のチケットは、夕方5時開演。また地下鉄に乗ってプラハの中心街に戻ります。受付の人に、何時間くらいですか?と尋ねると、1時間とのこと。短くない?


入場して、周りの席の観光客の人たちに、ハーイと挨拶をして、じっといい子で自分の席に座って開演を待ちます。

どうやら、モーツアルトの曲から始まったらしい。そしてロシアのポルカで折り返して、G線上のアリアと、パッフェルベルのカノンで山場を迎えて演奏終了みたいな感じで演奏者は席を立つと、アンコールがあって、モーツアルトで締めたらしい。きっちり、1時間でした。それでも、こんなにもチェロって低音が響くんだ、だんだんと暮れゆく夕暮れ、音楽っていいな。


外に出て、普段はクラシックなど聞かないTPと私でいっちょまえに語り合ったりします。来てよかった。


確かめるのが怖いけれど、もしかしてもしかすると、今日が旅の最後の夜?やっぱり、そうでした。どんなことにも必ず終わりがある。今日が最後じゃないかなーとは思っていたけれどやっぱり最後だったか〜。まだ悲しまないように。TPが地元の人で人氣のビアホールへ行こうと誘ってくれました。とにかくいかつい男たちが切り盛りしている。そして観光客は入り口の方で肩身狭くギュウギュウにビールを立ち飲みしている。

日本から来た夫婦は、どうやってビールを買ったら良いのかもわからないし、店員さんはこちらをチラッと見るだけで何も話しかけてくれないし、テーブル席は地元の人やグループ旅行者でいっぱいだし、ひたすらに、じっといい子で、邪魔にならないような場所でじーーーっと待ちます。数分後、いかつい男が来て、お前らここに座れ、そう空いたばかりの席を指さされます。はい、ありがとうございますと座ると、同じテーブルの人たちがニコッとしてくれました。何も言っていないのにドンッと置かれるチェコビール2杯。グビッ、美味しい〜!!!!!


何て美味しいんだろう、新鮮で、味に深みがあってキリッとしているのに優しくて。

店には次から次に、西洋人観光客たちも入って来ます。誰もが肩身狭くじーっといい子で待っています。ひとりで入って来た白人青年が英語で、この席空いてる?と地元に人に話しかけています。明らかに空いているのに、手振りで「空いて無い、あっち行け!」と追い払われています。それでも彼はめげずに、ウエイターらしきいかつい男に、ビールを注文しようとしているけれど、今は忙しいと無言で追い払われています。少しだけ店の中をキョロキョロして、チッ、こんな店!みたいな感じで出ていく青年。そうか、人種とか言葉だけじゃないんだ、この国を、中欧を快適に旅行させてもらうには、何か大切なコツがあるんだ、謙虚に、おどおどせずに、知ったかぶりもダメだしある程度は堂々と、でもいい子で待っていなくてはダメなんだ。

TP、ビアホールに誘ってくれてありがとう。ふたりとも最後の夜だと言うのに食欲がなくて晩ごはんは食べてないけど、とにかく胸いっぱい。TPが最後にカレル橋をもう一度見たいと言うけれど、私はおしっこに行きたいから、ホテル前で分かれます。商店街を歩いて帰る道で、ふと、おしっこはもう少し持つかも知れない、カレル橋はホテルからほんの数分で近いんだから、行ってみようかな、上手く行けばTPに会えるかもと向かってみると、夜の橋からはもう飽きたと思っていたお城がそれはそれはキレイに、橋を歩く観光客もそれはそれは幸せそうに、幸せな夜景が広がっていました。橋をひとりで渡っていると、橋の向こうから見慣れた顔の人が、それはそれは幸せそうにうっとりとした表情で歩いてきたので手を振ります。あー、来てくれたと!嬉しかーと喜んでくれる見慣れた顔のTP。キレイやねえと言い合いながら帰る道。TPはやっぱりお腹すいたと露店でピザを買っています。「美味しいよ!門ちゃんもひと口食べてみ」お腹はすいていないけれど、小さくかじったひと口の美味しいこと。


昨日スリに合った道の近くで、「ヨーロッパにもう一度挑戦できて良かったわ、色んなことがわかった、四度目でやっと、ヨーロッパを旅行する感覚がわかったわ、この国でどう過ごしたらいいか、少しだけ、コツが。ありがとう」そう言います。


戻った部屋は、もう何年も暮らしているかのような部屋、心地よく、すっかりくつろいで。明日は空港までどうやって行く?バスやね。駅まで歩いて行って、空港行きのバスに乗るっちゃね。買い足したチェコビールの缶を開けます。あーあ、いつまでも旅行が続いたらいいのに。