天国と地獄

monna88882012-11-03

旅の初日はお仕事帰りのサラリーマンたちに囲まれて、湘南新宿ラインで横浜まで。東急線で三浦海岸まで。電車のドアのすきまから見る月と、開閉部分のゴムの臭いにハマってクンクン臭いをかぎながら。すっかり暗くなった駅に到着すると、突然グイッと旅スイッチが上がってハイになって興奮する自分を押さえられない!飛び上がったり大声で話したり。TPの必殺検索の成果はいかに?マホロバマインズ三浦という温泉施設の別館、だだっ広い2LDKマンションのような宿。10人くらいは泊まれるんじゃないかしら?旅先で観る「最後から二番目の恋」すら面白く、祝福されているよう。

早朝に起きて、雲に隠れた朝日らしき光から漏れる天使のはしごの数ったらハンパない数、ああ祝福の日だとジーンとした後で、また京急線三崎口駅まで。バスに乗ってついに、いしいしんじごはん日記の世界を覗きに、憧れの三崎に到着しました。わー、海沿いの建物のトタン屋根や、海沿いの人独特の洗濯の干し方に目を奪われます。

  
城ヶ島まで歩いて橋を渡りました。途中でダックスフンドを抱えて海を見ている人がいます。おりこうに眺めてますね、と声をかけてみると、この子はこの場所が好きでねえ、とのこと。ダックスくんは欄干から頭を出して、じっと釣り人たちを感慨深げな表情で眺めていました。

城ヶ島、先っぽまで行くと海はキラキラ、いい陽氣、ああ幸せ。帰りのバスを待つ間、22歳から一緒に暮らし始めたTPと死ぬほどお喋りしてきたはずなのに、忘れていた思い出も蘇って、穏やかな老夫婦のように思い出を語り合いました。
そして憧れの魚のまるいち食堂へ!

まるいち食堂

食べログ まるいち食堂

お店の人の心配り、ちゃきちゃきした雰囲気、民家でいただく新鮮な魚の盛り合わせ、全部が全部、し、あ、わ、せな本の世界に飛び込んで堪能しました。三崎って、いい街なんですね。昼過ぎのバスで駅まで戻っていると、逆方向の車は大渋滞でした。漁港の街、三崎へ行きたい方へは絶対に朝イチに行った方がいいよ、そう伝えたくなります。私は白身魚一辺倒派です。


バスに乗って三浦海岸駅へ。京急線でまた横浜まで戻り、そこから熱海まで79分。山、海、山を眺めながらこれまでのこと、これからのことを自然に受け止めて旅情にひたります。

夕暮れ前に熱海に到着。商店街を降りたところの喫茶店「讃」は白を基調とした店内、マスターの笑顔、美味しいコーヒーで「TP、これまで行った喫茶店の中で、ついにナンバー1の店と出会った」と宣言していると、あら?体調がおかしい?実は朝からヤベ、風邪菌が入ってる、そう知ってはいたのですがお茶を飲んでホッとすると、どんどん熱が上がって、またしても!旅先の風邪!あたしのいつものパターン!

今回のメイン「部屋食のできるホテル」TPがずいぶん奮発してくれたという宿を一心不乱に目指すと見えてきたのは枯れたツタのからまる古めかしい建物。何だかTPがどんどん元氣無くなって行きます。ロビーに入ると眉毛の長い老人、大きな水槽に鯉、嘘みたいにでかい鍵を渡されて部屋へ上がろうとすると、階段を降りるのもつらそうな年季の入った仲居さんがやってきて、お部屋はこちらですと入ったところは、ベニヤのドア、小津映画のような畳の部屋ひとつ。TPの顔を覗くと灰色に変化している。

仲居のお姐さんはずっかりと上がり込んでお茶など入れています。ヤベ、これはお金をティッシュで包んで渡す場面だわと思いつつ、何となく熱海のホテルでゆったり部屋食、というイメージのギャップに二人とも言葉が出ません。廊下を歩く人のスリッパの音すら丸聞こえで、不安は重たくのしかかって来ます。


とりあえず近所の薬局で風邪薬を買い込み、戻ってお食事をセットしてくれたお姐さんに話しかけてみると堰を切ったようにお喋り「昔は男から逃げるためにビジネスホテルを転々としていたころもあったのよ」だの「ここは品数が多い方。今日なんかはお客さん入ってるけど、1組のこともあるのよ」「今日はひとりだから大変。仕事も少なくなって」他にも熱海の旅館事情をえっ、そんなことまで教えてくれていいの?というほど。最後に「先ほどは細かいのが無かったので、遅くなったけれど」とティッシュのお包みを渡したところ、目がキラリとして、とても喜んでくれました。

お食事の後は、これまたさらに年季の入ったお布団敷きのおじさんがヒンヒンッと咳をしながら入ってきました。カッコウの巣の上から脱走してきたような人。布団を黙って敷いてくれているのでこれまた思いきって「今日はお客さんが多そうですね」と話しかけるとグイッと顔をしかめて「今日だけ。明日は仕事ない」と吐き捨てたと思ったらテレビをじっと見て「あ、かっわいーい」と手を止めて見入っています。画面には小さなウサギ・・・「ウサギってのは賢いんだよ、俺も昔飼ってたけど、全部逃げ出しちゃった」何とも答えようがなく、「今頃どうしてるんでしょうね」と返すと「蛇にでも喰われちゃってるだろ」とのこと。時々グエッと咳をしながら敷かれるお布団。TPは窓の外をじっと眺め続けています。

地下の風呂へ行ったTPが「スリッパ、盗まれた」と裸足で帰ってきました。日本シリーズを眺めるともなく眺めていると「オレ、門ちゃんを喜ばそうと思って・・・部屋食って二人でしたことがなかったけん、オレ・・・」わかってるよ、ありがとう。でもこれはこれで楽しいじゃん。場末って感じで。

部屋のトイレへ入ると、我が家とほとんど同じタイプの古い和式便所。見た途端に腹の底から笑いが込み上げて止まらなくなりました。数万円払って、結局自分ちのような宿に泊まるってわけ?すれ違うお客さんもどこか打ちひしがれているよう。せめて、入り口のドアの下が10センチも開いているところだけは、別のベニヤで補填して欲しい。二人でつい、ひそひそ声になってしまいます。しんみりと、2日目の夜は更けて行きます。