サヨナラとサヨナラとサヨナラ

こちらあみ子 (ちくま文庫)

こちらあみ子 (ちくま文庫)

こちらあみ子。長い時間の通勤電車で読む文庫が、あまりにもどストライク、びっくりするほど、薄透明の光色の繭玉の中に入ったかのように、どっぷりと読みます。目ン玉にはゼラチンのドーム。ボーッと悟ったかのような時間は、読み終えてもしばらく続きました。買って良かった。

あれよあれよと急流に乗って遠いおつとめさきに通うのは今日で最後。朝から、今日で最後ですねとみんなでお喋りしながら、この都心から遠いオフィスでのランチは最後、おつとめさきの人たち全員でハンバーガーを食べに。これからのことを、楽しみにしながら警戒しながら、ワイワイ。

そして夜はM君の送別会。今日で転職するM君も(前職で一緒だったD君も)、呼んどいて、残して行ってスミマセン、そう言ってくれるけれど、今は流されるだけだからいいのです。M君は先日お母さんを亡くしたばかり、どれほどの負担があるでしょう。新しい職場でも可愛がってもらって欲しいと願います。

お店までの道、私が地図も見ずにスイスイ歩くので社長が「すごいっすね!」と誉めてくれます。そうかしら?スマホを持っていないからじゃないかしら?若い男性社員たちは大学生に戻った飲み方で、それはそれは楽しそう。私も氣を許して、新しいオフィスで〇〇君はキャラ変えるってよ!●●君はなぜ年下の△△君だけに敬語?などと大きい声でお喋りします。M君の送別会は、社員全員がこの街にサヨナラする日でもありました。偶然。サヨナラ、古都!


3時間、喋って笑って飲んで、帰り道、M君と固い握手を交わします。応援してるよ!


帰りの電車で同僚の女性たちとこれからのことを話しながら、流されてみようと励まし合います。


それにしても遠い。日付を超えるころようやく家に着いて、起きて待っていてくれたTPに飲み会のことを楽しかったよ〜と報告して、ふっと間が空いたとき、TPが少しうつむいて、顔を上げて「門ちゃん、さっき福岡のお父さんから電話があってね、下関のおばあちゃん・・・亡くなったって」

そう、ありがとう、そう言って、すぐに「ばーちゃん、さすがやね!潔い!さすが!ようがんばったね、おつかれさま!大好きよ!」そう声に出して言います。そう言えば、ダン(飼い犬)が死んだときもTPが電話を取って、遅く帰った私を駅まで迎えにきてくれて、教えてくれたんだった。ばーちゃん、昼まではちゃんとご飯も食べていて、お見舞いに来た親戚たちともお喋りしていたそう。車で1時間ほどかかる老人ホームから、じいちゃんが一人暮らししている家の近くの病院に、肺炎の疑いで運ばれてきて、じいちゃんも毎日、弁当持参でずっとお見舞いに行ってくれていたから良かった。最後の数日を一緒にいられて。

とうとう私は婆なし子になった、でも長い付き合いだった。ばーちゃんは私と母のことを、一卵性双生親子と言い、私とTPのことを、つがいと呼んでくれましたが、私とばーちゃんは何だったんだろう。何一つお返しできていないのが、千切れそうに苦しい。ばーちゃんのようにさっぱりとした、潔い人に少しでもなりたい。