寝ぼけ眼で降ろされた空港が本当にドーハかだなんて誰にも証明できない。本当はドーハじゃないかも知れない。そう疑いながら「Transfar」の看板だけを頼りにキーンのサンダルで進み続けます。コロナ対策のマスク率がぐっと下がります。
よくわからないまままた飛行機に乗って、今度こそ本当にギリシャに到着するのかしないのか、5時間。
私は、カタール航空のキャビンアテンダントさんたちは皆とっても親切だと思う。ゴミを回収するときも私の「ホットアイマスク」の空き袋を見て「これ、私も好き!」と言ってくれたり、機内食のメニューで見たことも聞いたことも無いものを「これは何ですか?」と尋ねると「ベジタリアンメニューで、結構イケるよ」と教えてくれたり。
よくわからないベジタリアンメニューにして大正解、チャパティーみたいな生地に巻かれたよくわからないものも美味しく、ジャガイモのカレー炒めみたいなものも、豆が入ったコロッケも、美味しくて感激します。TPはよくわからないパンプディングを頼んで、ただただ甘いだけの味付けで落ち込んでいます。可哀想なので私のベジタリアンメニューを3分の1ほどわけてやります。「ヨーグルトに、フルーツを入れて混ぜたらおいしい」と発見してTPにも伝えると、真似して食べています、イヒヒ。
トレーの回収で「とても美味しかった、ありがとうございます」とお礼を言うと「でしょ?イケるでしょ?インド風の料理で」「ええ、サモサに似ていて」「サモサ?あ〜、サモサの中身!よく知ってるね」みたいなことをつたない英語で会話して、何だか嬉しくなります。
わっ、ギリシャ。アテネ。飛行機が高度を落としたかと思うと、いかにも乾燥した土地の、アジアの密林とは違う、禿山やら低木やら、白い家々が見えてきて「やっと着いた〜!ギリシャだー、長い時間飛行機に乗ってきた甲斐があった」と興奮します。
でもまだここからもう一回飛行機、サントリーニ島という島に行くのです。羽田で両替したユーロ、1万円出したらたった80ユーロになってしまって落ち込んでいたお金で早速、グリークコーヒーとやらを買って飲んでみます(2.4ユーロくらい?)。店員さんに「エフハリスト(ギリシャ語でありがとう)」と言うと「ナ〜」と胸に手を当てて感激したジェスチャーをしてくれるのでまた嬉しくなります。ギリシャコーヒーはフィルターで濾していないので、最後はドロっとした豆がカップの底に残りますが、その分、値段も安い。
サントリーニ島行きの飛行機は、たっぷり遅れて出発です。同じ便の、韓国から来たグループ、男性3人、女性7人、女性たちは髪にパンチパーマを当てています。そのうちのお一人が目薬のキャップを落としたと言うので、探して拾って差し上げると「サンキュー」と言うので「ケンチャナヨー」と答えると、少し考える間があって「お〜、カムサハムニダ!」と大笑いしてくれて和みます。日本人中年夫婦は小声でひそひそと会話していますが、韓国人中年団体さんはとにかく声も大きく、アテネ空港で買ったサンドイッチなんかを次々と取り出してモリモリ食べていて元氣。見習おう。
サントリーニ島の空港は、場末の物置みたいな雰囲氣ですが、ちゃんと空港でした。プロペラ機のタラップを降りてバスに乗り、わずか20メートルほど進んだらもう出口、バスに乗る意味が無いと皆驚いています。出口をポンと出ると「Welcome Kim Family」のプラカードが。あの韓国の団体さんでしょう。知らない国の知らない空港でも、最強キムファミリーと一緒に到着すると心強い。私たちにもお迎えのプラカードがあり、運転手のファノスさんと握手を交わしてタクシーに乗り込みます。サントリーニ島で予約した宿Anemi House&Villasから何度もメールで「何時に到着する?便名を教えてくれ」と連絡があったので便名を知らせたところ、本当は30ユーロの送迎を無料にすると連絡があったのです。私とTPは、バスで宿に向かうつもりだったから、無料と言われても何だか氣が重いなと思っていました。ファノスさんも「何泊する?明日は何時の便?」とやたらと帰りの飛行機を知りたがるので11時頃と伝えると「明日は25ユーロで空港まで送ることができる」と言うのでお断りします。バスならひとり1.8ユーロで乗り換え1回なので。明日のタクシーのお誘いも全くしつこくなく、オーケーとのこと。TPはサントリーニ島の空港のトイレの水洗ボタンを押したら、水が自分に向かって飛び出して来て、あわてて避けたけどスニーカーがベショベショになったとか言っています。
ファノスさんにチップを渡した方がいいんじゃないか、それとも羽田で念のために買っておいた和菓子(300円)を渡そうかと悩んでいると、今日の宿泊地「oia(イア)」手前の駐車場で、宿のお迎えのひととバトンタッチされて、ファノスさんとはバーイと手を振ってあっと言う間にお別れ、お迎えのひと、ジョニーさんは長い足でサッサと歩いてしまうので、迷路のような街で迷子にならないようにアジア人中年夫婦は小走りで後を追います。
「ここだよ」と案内された宿は、青い洞窟のような部屋。入り口の両開きのドアがどういうわけか半分しか開かないので、体を横にして入ります。
ジョニーさんも「何泊する?明日は何時の飛行機?」と氣にするので「11時頃。バスで空港に戻るから9時頃出発」と伝えると、わかった、9時に迎えに来ると言いおいて去ってしまいます。なぜ迎えに?冷蔵庫の飲み物はどれも無料、ワインも無料と白ワインのボトルを1本置いていってくれます。ベランダで、目の前の絶景を見るような見ないような感じで、心を落ち着けます。
何だか、バタバタして景色を楽しめんね、とか言いながらTPと近所を散歩します。シーズンオフのサントリーニ島は、99%の店が閉まっている、そうネット検索で出ていた通り、本当に99%の店が閉まっていて驚きます。小さいスーパーがあったので缶ビールを買ってみます。ポケットからライターを落としてしまったのでライターも買い足します。本当に火が付くか試してみると、店のおじさんもプッと笑って、自分も火が付くかどうか試してくれてからお会計。
白いモルタルで塗り込める前の基礎は、木材だったのか!建築中の建物をじっくり観察します。造りは荒いけれど、モルタルで塗り込めてしまえば隠れて同じことなのだろう。
宿に戻って、ベランダで缶ビールを飲みながら一服します。タイから来た若者たちが、夕日の絶景ポイントで写真を撮りまくっています。持参したドレスを何度も着替えて、ドローンまで飛ばして大撮影大会です。1〜2年前なら、中国や韓国の若い子たちでいっぱいだったかも知れない、このところのタイの経済成長を目の当たりにして感慨にふけります。
どちらにしても、シーズンオフだってサントリーニ島はサントリーニ島だから。ベランダのソファーに座ってみると、TPが座ったところは雨水が貯まっていたようでジーパンのお尻がベショベショになっています。
私はもう動きたくないのでじっとベランダに座ったまま。TPは近所を散歩していますが、小さい街なのであちこち歩いているTPが宿のベランダから何度も見えます。遠くから見るTPは、野良犬のようにあちこちキョロキョロと観察しています。時々手を振ったりしながら。
宿の半分しか開かないドアを開け放して、暗くなって行く海を眺めます。
1%しかない営業中のレストランで、夕食を食べます。サントリーニ島パスタと、エビの塩焼きセット、ビールの小瓶を2本で44ユーロ、チップは不要なよう。
部屋に戻って、無料でもらったワインを開けて乾杯しながら、何度もベランダに出てみます。真っ暗な海、タイの団体さんも去って静かな街。洞窟部屋の半地下でシャワーを浴びて、日本から持参したアヴェダのパドルブラシで髪を梳かします。TPはベッドに寝転がったと思ったら、すぐに眠ってしまいました。波の音だけ。空を見上げると、日本で見るよりも光の強い星がびっしりと貼り付けたように広がっています。こりゃ、ギリシャ神話も生まれるわ、神話を作りたくなるわ、とひとりで納得して、ベッドに潜り込みます。すっかり体内時計が狂っているので、眠ったり起きたりベランダに出たりを繰り返します。氣温は、日本よりも温かいです。