あの世へ

朝7時起き。夕べ、TPがパソコンで検索してくれた、バス停ひとつ戻ったところのパン屋へ歩いて向かいます。

細い店や、

ピンクの家、知らない街を歩くのは何と楽しいことでしょう。

朝7時から開いているパン屋で、

あんバターサンドやハムチーズパンなどを買って食べます。あんバター発祥の店とのこと、食パン2枚でしっかり挟んであるサンドイッチは、200円もしません。耳まで柔らかいパンを食べながら、窓際の席でゆっくりと、おしゃべりします。今日って一体何曜日?えっ、土曜日!?いつの間に!?石井隆が亡くなったね。ホン・サンスが映画を撮るときに最初に決めること、何と思う?クランクインの日だって。格好いい!TPも最初に旅行する日を決めて、そこからどこに行くか決めるけん一緒やね。現存天守閣のことを考えたら、次は岡山やね。

カウンター席からは、雪かき用でしょうか?可愛らしいブルドーザーが見えます。

恐山行きのバスが来るまで、たっぷり1時間、ゆっくりさせてもらいました、ありがとうございますと店に一礼します。

バス停で、朝イチのバスを待ちます。

どのバスもそうですが、それほど道が混んでいるとは思えないけれど、必ず2〜5分ほど遅れてやって来ます。青森タイムかしら?

恐山行きのバスの乗客は4組。途中の峠で突然、バスは止まり、運転手さんがバックミラーでこちらを見て「冷水ですよ(降りなくていいんですか?の顔)」と言います。思わず到着したのかと降りようとするとTPが「違います!」と最後尾から大きい声で答えます。あっぶねー、私が登山用のズボンなんか履いているものだから、恐山までトレッキングすると思われたのかな?あんな山の深いところで降ろされたら、たまったもんじゃありません。

そして、突然に恐山に到着しました。

帰りのバスは、3時間後です。

この、山の中の、みずうみ。その透明度、この色、まるっと空と一体になって。

三途の川に来たら、お婆さんに身ぐるみ剥がされてすっぽんぽんになるらしい!

バスで通り過ぎた三途の川の橋まで戻って、もう一度歩いて渡ります。

いよいよ、これからあの世とつながっている世界へ。

駐車場を抜けて、

お土産もの屋さんで、TPがトイレに行っている間、小さいお地蔵さまを買って。

入山料500円を払って、まずは身を清めます。

境内にある、温泉。突然、青森に旅行に来て、ここ恐山の温泉でたったひとり、女性専用風呂で素っ裸であるということに感謝の気持ちがぶわーっと湧き上がります。まるで歓迎されているかのように。

何がこんなに良いんだろう。気温かな?それとも泉質かな?建物の丁寧な作り方かな、それとも清潔そのものの、空気かな。

 

ただ幸福感に包まれて、手水のところでTPと待ち合わせ。「温泉入っとったらさ、何組ものおじさんたちから覗きこまれて、あっ、ひとがおる、みたいに驚かれて」男性用の温泉は窓開けっ放しだから、誰もが覗いて行くらしい。

そして入山すると、石灰石らしき石だけの風景、その白さに焼き場で対面した父の骨、焼き立てほやほやの遺骨とイメージがバチッと重なります。同時に、亡くなった父の父(父が若い頃に亡くなっている)や、父の母(おばあちゃん)、父の弟(3歳で亡くなった)のことが次々と浮かんできて、あ、父は今、オリジナルの家族と一緒なんだ、と思います。母方のばあちゃんのことも、ばあちゃんのお姉さんのことも、おばあちゃんがお世話になったおばさんのことも、ばあちゃんの弟のことも(ばあちゃんと同時期に亡くなった、サービスエリアで山椒の木のすりこぎ棒を買ってくれた)全員が目の前にいるように、感じます。目を閉じると涙が水鉄砲のように吹き出します。

順路通りに歩いて。

買ったばかりの手のひらサイズのお地蔵さんを、地蔵菩薩さまと対面させます。お招きいただきありがとうございます。

タルコフスキーの映画みたい、とか思います。

きっと、大切な誰かを思って。誰もが誰かを失っていて。彼岸にいるひとたちのことを思って。

硫黄の黄色、あの世とこの世がつながっている場所。本当に父が隣りにいるような。ビューッと、寒い風が吹いて来ました。そろそろ浮世に戻りましょう。

祈っていただきありがとうございます。

この世に戻るとお腹がすいたので、

一軒だけある食堂で昼ごはんです。「ご注文はお席でお願いします」とテーブルのプレートにはっきり書いてあるから、TPが注文しようとすると「こちらでお願いします!代金をお先にいただきます」と店中に響く声で、ピシャリとやられます。コロナ対策かな?

TPが注文したカレー(大盛り)は、どこまでもボンカレーに近い味、見た目、ほぼボンカレーで、もしかしたら本当にボンカレーです。

帰りのバスを待つ時間、無料休憩所で横になります。目を閉じると、今見てきたばかりの景色が永遠のように広がります。

あー、すごい場所だった。

昨日到着した下北駅へ。40分ほど時間があるので、ローソンでコーヒーを買います(メガサイズ)。

木陰のベンチで。

大湊線すら、天国とひとつづきのようで、海と木々と、太宰がよく合います。「惜別」、すばらしかった。ぐっと来ました。突然、運転手さんが、汽笛を連打したかと思うと、前方に腰かご下げたお婆さんがふらっと線路に入りそうになっています。山菜摘みか何かかしら?

電車を乗り継いで、今日の宿泊地、八戸駅へ。

駅のすぐ前、東横イン

八戸、教科書などで見たときにはこの街に自分が来るとは想像もしていなかった。

シャワーを浴びて、中心地らしきところまでバスに乗ってでかけます。んだんだ、んだんだ。テレビで見たっけよ。◯◯さんに教えてもらって。んだんだ。俺もこれからは返事は、んだ、って言うぞ。

八戸駅博多駅だとしたら、本八戸駅は天神でしょう?そういうことでしょう?

来た!中洲?

八戸駅のインフォメーションのおじさんは親切だった、地図をくれて晩ごはんを食べる場所や、バスのことも教えてくれました。

 

八戸ブックセンターとやらで、本を一冊買います。

最初の数行でガッチリと心を掴まれて、まさかのたまたま助けたひとが竹山だった、後に棟方志功との仲をつないだなどとあり、何というつながりかと敬虔な気持ちになります。私、青森に来たらもう怒らない。

サバの駅にて、日本酒(酔鯖)をいただきます。うっまい、うまい、うますぎる!!

(写真は雑でも)銀サバの串焼(600円✕2)、八戸さば出汁せんべい汁(880円)、生ビール(630円)、八戸前沖銀さばトロ漬け丼(1320円)その、どれもが。最高!

帰りのバスは一通だから少し離れた場所にありました。

見知らぬ街でバスを待つのは難しい。20分くらい待って。「夜出歩くのって久しぶりやね」「鯖、うまかったな」「日本酒、おいしかった!」

夢のようにやってきた(また5分遅れている)バスに乗って帰って。

霧が出てきたようです。イン八戸。本当に八戸かどうかわかりません、うっかり恐山で別の世界の入り口に入ってしまっていたら、ここはパラレルワールドということでしょう。そして今日が最後の青森の夜だとはまだ気づいていないのでしょう、いえ、考えないようにしていると言えるでしょう。