信州と山梨の境目

朝目が覚めると、松本にいるのが不思議でした。片道、電車で５時間以上の場所でも、仕事の夢をいっぱい見てうなされたっけ。それでもうなされたってことは、今あたしが向き合っている証拠。

８時過ぎに、古民家を改装したような喫茶店、まるもへ行ってコーヒーを飲みました。昨日の晩ご飯のおきな堂と並んで、数年前に松本へ来たときと同じコースです。このふたつのお店は、超有名店ですがどちらも一度訪れると、もう一度行きたくなるお店でしょう。毎日のように入れ替わるお客さんと、常連さんへの接客が同じ感じ。コーヒーを楽しんだ後で、松本城へ行きました。

何度も思い返した、ひとつだけ壁の色が違うお姫様たちのお部屋を、遠くから心ゆくまで眺めます。風通しが良くて、景色も良くて、何より空氣がいいお部屋。今日は行列が長かったので入らずに。その部屋で座り込んで風を楽しんだことだけを胸に目を凝らして、そこの中にワープするように。

川沿いを歩いて駅に戻ります。あった、草間弥生ちゃんバス！ゴトゴト乗る電車は、停車するたびにアイスクリームになったかのような冷風がフワッと入り込んで来ます。それが山梨との県境を抜けた瞬間、どっしりとした猛暑に。

１８きっぷはＪＲを乗り降りできるので、途中の甲府駅で降りてみました。駅前の広場では２４時間テレビのイベントが開かれています。そして駅横には甲府城の城趾が再現されていました。暑いったらない！そしてボランティアのおじいさんたちのお話しの長いこと！熱波にやられながら、お話しの内容よりもそのおじいさんたちのお達者加減に敬意！線路沿いに作られた古い街並の再現では、鐘付き堂がありました。上まで上ることができなくてもボタンひとつで２０秒後に、ゴーンと鳴ってくれます。２４時間Ｔシャツを着た幼女のような雰囲氣の中年女性が、ふわふわっと近付いてきて「それ、何ですか」と話しかけてくれたので「鐘ですって。ボタンを押すと鳴るんですよ」と答えるともうよそを向いていました。もう一度振り返ったかと思うと「花子とアンのスタンプラリーやってるんだって」と言うので「へー、そうなんですか！」と答えるとまた、回れ右していなくなってしまいました。とても自然で素敵な人だった、おともだちになりたかったと言うとＴＰが「あれほど人がおったのに、あえてお前に話しかけて来たってことは、波長が合うって思われたとよ。お前、選ばれたと」と言ってくれたので短い交流を胸に収めます。

駅前ではそこしか開いていないと思うようなほうとう屋さん、観光客がそこに行くしかないお店の店先には値段が書いていませんが、思い切って入ってみました。誰もが一番安いかぼちゃほうとう１，１００円を頼んでいるよう。豚が入ったら１，４００円。私はあえて天丼１，３００円にしたところ、海老は小ぶりに見えてプリップリッ！今まで食べた海老の中でも一番のプリプリで驚きました。そして氣前よく、２本入っているうちの１本の海老の半分をＴＰに分けてあげたところ「うそっ、こんなに？いいと？ありがとう」と目を輝かせているので…不憫を少しだけ感じました。いつか、プリプリの海老をお腹いっぱい、食べられる日が来ますように。

黒部の太陽

黒部の太陽。黒部ダムで買った文庫本を読みながらゴトゴト電車で帰ります。熱い、熱い！映画の通りの熱さ、そして社長に威厳があった時代と、それを受け止める人たちと、受け止め返してくれる社長がいた時代！全責任を持って、日本のために仕事を成し遂げるその迫力が重なり、最後にはウッと突っ伏してしまいました。すでに電車は高尾駅からハイキング帰りの人たちで満員です。

電車の中は色んな匂いだった。年のいったお父さんと幼い娘さんは、牛肉の広がった駅弁を広げていたっけ。登山帰りの格好で、奥さんだけが立て続けにドーナツ２個とポテトチップス１袋、えびせん１袋を完食していた夫婦もいたっけ。缶入りの炭酸ジュースだけをチビチビと飲んでいた太めの男性は時刻表とにらめっこしていたっけ。私も負けじと時刻表をにらんで、１８きっぷって高速バスにも乗れるって書いてある！と衝撃の発見をＴＰに伝えて。もしかしたら払わないで済んだバスもあったかも知れませんが、なかったかも知れない。何時間も電車に乗っていたのに、都内から数十分が一番耐え難い時間になったのが不思議。ギュウギュウで、全員スマホで、大荷物。バスケ部の女子大生たちの会話は憧れの先輩女子について、男子とどう違って憧れるかについて。聞き耳を立てているうちに、首がガクンともげるように眠りに落ちて、氣が付けば終点の新宿駅でした。地下から上がると、外は真っ暗になっていました。いつもの畳にへばりついてくたびれていた週末は、のんびりでもアクティブな電車の旅に生まれ変わっていました。サンキュウ、きっぷ。サンキュＴＰ、サンキュ〜あたしのふくらはぎ、パンパンに張っています。