パラッツォ、出港しない船

monna88882014-10-22

朝6時の目覚まし時計。今日の目的地、パラッツォアドリアーノ村への行き方は検索をたっぷりして実際に行った人たちのブログを参考にしていました。宿の人も何でそんな村行くの?と言うので「ニューシネマパラダイス、いえネオシネマパラディッソ」と言うとふぅーんと言う顔。発車前のバスの運転手さんたちに村への行き方を尋ねながら、そのへんに立っている人にも教えてもらいながらようやくバス停にたどり着きます。パラッツォアドリアーノ、発音はラを巻き舌に、アーノを高く発音することがコツ?チケット販売所のカフェで聞いてみると今日の便は12時半出発、戻りは15時45分発とのこと。片道3時間とすると15分しか滞在時間がありません。6時台のバスのために早起きしたのに、わずか5分差で出発してしまったよう。落ち込まないようにしつつひっそりと落ち込みます。今日の夜はシチリアパレルモナポリ行きのフェリーを珍しくネット予約しているから、明日に繰り越すことはできないのです。


まずは滅多矢鱈にシチリアの街を歩き回りました。途中で見つけたインフォメーション、小児まひかな?肩の曲がった男性が夜行フェリーの乗り場について道順や時間について親切に教えてくれます。1時間半前には船に乗った方がいいよ、歩いて歩いて、ゴッドファーザー3のラストシーンになった劇場の前で写真を撮って、お茶をして、また歩いてフェリー乗り場で晩のチケットをチェックイン。夜20時半出発、明日の朝6時にはナポリ到着のチケット。シチリアではジーンズが制服?と思うほど誰もがジーパンを履いています。


何千本ものジーパンとそのキュッと上がったお尻とすれ違いながら、パラッツォに無理して行くべきか考え続け、相談し続けます。試しにタクシー料金を尋ねてみると150ユーロとのこと。100キロ先の村だからガソリン代を考えると無理におまけしてもらうのもしのびない。それでもどうしても行ってみたい、やっぱり15分だけでもいいからニューシネマパラダイスのロケ地、パラッツォアドリアーノ行きのチケットを買うことにしました。パレルモ駅近く、チケット売り場のお姉さんは、これから往復したって村を回る時間はほとんどないし、帰りはせめて明日の朝にしなさいよと軽くしかめっ面をしてチケットをなかなか発行してくれません。大丈夫、今日行って今日帰って来ると数回伝えて何とか発券してくれました。往復ひとり13ユーロ。


バス停と言えども普通の通り、バス停らしきものには行き先も書かれていないしいくつも並んでいます。チケットを手にウロウロしていると露店のおじさんが、どこに行くのか?パラッツォアドリアーノ?近所の店で尋ねてくれ、バスが停まるポイントを教えてくれます。20分遅れてバスが到着。露店のおじさんがまた大きな声で教えてくれたのでグラッツェと言うともうよそを向いていました。バスはパレルモの街をあっと言う間に抜けて丘、山、風力発電、麦畑、牛、ヤギ…くねくねと車酔いするほどの距離。途中停車した学校前では大量の女子高生、アジア人を見てギョッとした顔で乗り込んで来ました。女子高生たちは大きな声でお喋りしたり突然歌い出したりゲームを始めたり前席の男の子をからかったり。アジア人2名はアメリカンハイスクールに乗り込んでしまったのか、じっと目立たぬようにからかいの対象にならないように窓の外の景色を眺め続けます。



女子高生たちがぞろぞろと降りた終点の場所、そこがパラッツォでした。停車した瞬間、TPはわっと声を上げてバスを駆け下り、取り憑かれたように憧れだった地を歩き始めました。本当にニューシネマパラダイスの景色が目の前に。その村に住む人が数人、ベンチに座ってじっとしているだけ。路地へ入って歩き回って。水飲み場で水を汲んでゴクゴク飲んで。ひっそりとした村。でも映画の香りが確実に漂っている。思い切って来てよかった。


無料で入れる資料室で、案内の女性がサントラのCDをラジカセでかけてくれます。ラジカセが古いのか音がひずむ度にバシバシと叩いたり揺らしたりしている。その度に途切れ、音飛びするあの名曲。飾られている写真について係の人に尋ね、小道具に目を見張って。バスは思ったよりも早く到着しました。お陰で一時間ほど散策できます。それでもあっと言う間、もうパレルモまで帰らねばなりません。またバス酔いのするくねくね道を戻って2時間半。駅からふたたび30分ほど歩いてフェリー乗り場へ向かいます。本当に動くの?というほど巨大なフェリーに歩いて乗船すると、受付のおじいさんたちが身振り手振りで何かを教えようとしてくれます。時計、数字、23時?消灯時間かな?とにかくわかったとお礼を言ってフェリーに乗り込みました。歩く途中に八百屋で買ったネーブルと小さなグレープフルーツふたつで0.5ユーロ。船室で皮をむいてみるとオレンジの香りが部屋中にパッと広がります。20時半出発のはずなのに、食堂でご飯を食べて(わたしたちを見た周りの人たちはなぜかジャポネの話題で持ち切り)、船内を探検して、部屋に戻ってシャワーも浴びて、パジャマにも着替えて、寝転んで本を読んでもなお、船は動き出しません。ウトウト…今日はバスにたっぷり乗ったし石のタイルをいっぱい歩いたな。おじいさんたちが教えてくれた時間って何の時間だったのかな。もう船は永遠に出発しないようにも思える。もうすぐ23時。出港しないままの船室は、ユラユラと揺れ続けています。