何ひとつ思い通りには

朝、6時半起き。着替えを済ませて7時過ぎに電車に乗って竹芝ふ頭へ。結局、大島行きに決まりました。前にここに来たのはもう11年前!(ブログって過去のことを検索できるから便利)フェリーのチケット売り場では、てきぱきと複数の窓口で乗船客をさばいてくれます。今日の宿をまだ取っていないと言っても係のお兄さんは驚かず「もし取れなかったら、夕方16時台の便に乗って帰ってきてください」と爽やかに教えてくれるだけ。伊豆大島行きのフェリーのチケットを買って、TPは乗船時間までのわずかな時間、急いでノートPCを開いて東海汽船のWifiにつないでネットで宿を予約してくれています。無事、予約できたそう。近くにいた係のお兄さんに「宿、取れました」と言うと「良かったですね!楽しんできてください」とのこと。それだけで、じーんとします。他のお客さんは、釣りのひとが多い様子。

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船が出航すると係員さんたち全員で船に向かって手を振ってくれます。それだけでもう、私は東海汽船のファンになりました。

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早起きしたので、ぐうぐう眠ること1時間45分、あっという間に大島に到着しています。到着した岡田港のロビーでパソコンを開き、今日泊まる予定の宿を見てみたところ…ひっと叫びそうになります。口コミ驚異の1.6!まず、全然掃除していないそう、朝食付きのはずが係のひとの寝坊でナシになったなど、誰も彼もが「二度と泊まりません」の嵐。そっと目を閉じて、冷静になって、トイレから戻ってきたTPに「恐ろしいことが発覚した。口コミ…」と検索結果を伝えたところ「ごめん!港から歩いていけるところ、そこしか空いてなかったんよ。急いどって口コミまで見てなかった」と申し訳無さそうな顔をするので「全然、全然よ!」「ごめん」「いいよ全然いいよ」「楽しもう」などと覚悟を決め合います。

 

てくてく歩いて、向かった宿、一瞬、廃墟かと思って通り過ぎようとしたところが、まさに今日泊まる宿。恐る恐る玄関を開けると、感じの良い青年と女性が散らかし放題のテーブルのある、ロビーのソファーから立ち上がり「いらっしゃいませ」と出迎えてくれます。

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朝なのに、もうチェックインしてくれると言います。ほこりっぽい廊下を歩いて案内された部屋は、壁紙は剥がれ、虫の死骸がぽつぽつと、テレビのあたりのホコリは長年の蓄積を感じさせます。バタバタと女性が止めていたらしいトイレの水を開放すると、いつまでもタンクに溜まらず「壊れてるんで、共用トイレを使ってください」とのこと。風呂場のシャンプーボトルが空なので伝えると「共通のシャワーがあるんでそっちで」とのこと。枕カバーもエアコンのリモコンも無いので伝えると「忘れてました」と持ってきてはくれます。これ以上はもう書くまい。とにかく宿のひとたちはロビーに座ってスマホしながらおしゃべりして楽しそうに過ごしています。

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景色だけは最高。

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ほうほうの体で、一旦落ち着いて観光しようと外に出ます。20分も前からバス停で大島公園行きのバスを待っていると、反対側の車線を待っていたバスがぶーんと通り過ぎて行きます。あっと手を上げて運転手さんとも目が合ったのに。時刻表をよくよく見ると一番下に小さい文字で「大島公園行きのバスは向かい側の歩道でお待ちください」と書いてあります。「こういう場合、注意書きまで全部読むのが鉄則やった、俺たちが悪いね」とTPが前向きなことを言います。

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歩いて岡田港に戻り、駅前の食堂でひとまず昼ごはんを食べようとしたところ「水曜定休なんですよ!ごめんなさいね、このへん、どっこも開いてない」と言うので、目的地を変更して元町港行きのバスに乗ります。

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本来は、元町港という港がメインの港らしい。今日は朝天氣が悪かったからサブの港、岡田港に船が到着したそう。「メインの元町港なら何かあるっしょ」と意氣揚々と向かったところ、二手に分かれて探せども探せども、たった一軒しか食堂が開いていません。

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「一軒だけでも開いとってよかったね」と言いながら、島の名物だという「べっこう」と、刺身定食を取って食べます。鼈甲色の白身魚のお寿司。店の方に刺身の種類を尋ねますが「え?白身ですけど、このへんで捕れた」と会話が噛み合わず。それでも「この黒い皮の魚は初めて食べました」と言うと「いさき、ですね」とのこと。ゆったりとした雰囲氣で。

TPが「元町港には温泉がある」と言うので歩いて向かってみますが、開いているんだか閉まっているんだかわからず。何から何までうまく行きません。本数の少ないバスが来たので、最初の目的地、大島公園へ。

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地元のひとたちはどんどんバスを降りて、最後の大島公園で降りたのは私とTPのふたりだけ。

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まずは椿園。「椿って何月頃の花?」と尋ねられたので「冬やなかたっけな」と答えて入る園内、当然のことながら花の無い椿の木をただ愛でるだけで早足でくるっと回って出ます。

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続けて道の反対側の動物園。入園料無料で驚きます。そしてゾウガメが目の前で巨大な甲羅を投げ出して動いているので叫びそうになります。

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レッサーパンダのコタロウ君はとてもシャイで、見ようとすると逃げてしまいます。

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孔雀はどこまでが胴体かわからないほど長々と伸びて目の前にいます。

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私は動物園が苦手だと薄々氣づいています。檻とか柵とかが苦しくて、心から楽しんだことはもしかすると一度も無いかも知れない。その中でもフラミンゴだけはちょっと好き。(ロバも好き)大島公園の動物園には、大きい角の生えた鹿みたいな生き物(バーバリーシープという名前だそう)と、ワオキツネザルが一緒に入っています。中で柵の工事をしている人間の男性も居ました。それにしても、誰ともすれ違わないのはどういうわけでしょうか、私とTPの貸し切りなのでしょうか、動物園の係員のひとも誰もいません。ただ動物たちが居るだけ。

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誰とも会わないまま無人のゲートを出て、そこらへんにたくさん生えている椿の木の実を眺めたり、自販機で買った缶コーヒーを飲んだりします。そしてTPとベンチに座って、今回の旅の思い通りに行かなさについて語り合います。「俺たち、ドーミーとかですっかり甘やかされとったことがわかった。本来、こういうことやん?旅って」とか「私は、一切期待しないことにした」とか「俺、初めてやわ。宿に帰りたくないって思ったの」とか。悟ったふりで悟ったようなことを言っては、あははっと、から笑いしたり、だんだん大笑いしたります。

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絶対にバスの乗り場を間違えないようにして、停車していたバスに乗ろうとすると「ああっちのバス停で待っててください!」と注意されたり、

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降りようとしたバス停が間違っていて、すみません!と謝ったり、

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ようやくたどり着いたスーパー。どうやら、バスに乗って目をこらしても、一軒も開いている食堂が無いのでスーパーで降りて買い出しをします。またしても思い通りに行かないことは、お弁当がもう売り切れなこと。TPはカップ麺と焼鳥、私は刺身と、醤油と、煮玉子とキュウリの漬物を買います。そして、酒屋でビールを買います。

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それでもスーパーは楽しい。

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青唐辛子が名産らしい。

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弁当は無いけれど、佃煮系はたくさん売ってある。

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カップ麺も見たこと無い種類のものがいくつも。

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次のバスは1時間後だから歩いて帰ります。一番近いスーパーから宿までは、徒歩30分。「こうやって歩くのもいいよね?運動になるね!」

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宿に戻ると、宿のひとたちはロビーでダーツをして遊んでいます。

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部屋に戻り、買ってきたお惣菜をすぐに食べます。

 

そして、恐る恐る共同シャワーを浴びます。共同トイレにも入ります。宿のひとは「トイレもシャワーも、改装したんでキレイですよ」と言うけれど「嘘つき!数年前に改装して、一度も掃除してないだろう!」と心で文句を言いますが、彼らがあまりにも楽しそうに青春しているから言えないし言いたくない。

 

TPは、まだ8時台だと言うのに急に全力で疲れた様子で、うつらうつらしています。ふと見ると、部屋の壁に2歳児の手のひらほどの蜘蛛がいます。「…TP、すっごい大きい蜘蛛」とつぶやくと「蜘蛛ぐらい…よかろう…」「そうやね、蜘蛛くらい、いいね」

 

そのままTPは、いつ洗ったかわからない布団で眠ってしまいました。私も缶ビールを続けざまに飲んでがんばって寝ようとするけれど眠れません。夜、共同トイレに行くと、宿のひとたちは風呂上がりで寝間着姿で、ロビーで鍋を作って食べています。どちらにしても彼らはとても感じの良い子たち。誰が悪い?オーナーが掃除というものを教えないことが一番、でもそんなの余計なお世話、どうせ二度と来ることはないしと思いながら、無理やり眠ります。そう、これが旅。うまく行かないことに対して、どう対処するか。ジタバタせずに、全力で知恵を出し切って、怒らずに、笑って。