ありがとうアムステルダム

monna88882015-10-27

昨日の夜のこと。宿までの帰り道、街灯の下をTPと歩いていたとき。道の向こうから貸自転車で爆走してきた旅行者らしきカップル、はしゃいだ先頭の女性が私たちに「You wearing SAME JACKET!」と言って通り過ぎました。すぐ後ろを走っていた彼氏であろう男性と私は瞬間的に目が合い、ふたりとも彼女の言葉に口を開けて驚き、お互いに爆笑して、彼も通り抜けて行きました。自転車カップルが風のように去った後、TPと目を合わせて「セイムジャケットって言ったね、セイムジャケットって!」と苦笑いして、お互いのユニクロダウンジャケットを見比べます。旅先のサブジャケットとしてリュックに入れているものを、ふたりで着て夜の道を歩くと、いくら色が違うと言い訳したくてもペアルックで歩いている人たちなのです。私が、ちょうどこれ破れかけとうけん、家に帰ったら速攻で捨てよう、そう言うと、TPも、俺はもう明日からこれ着んけん、お前が着りぃなどと言っています。

アムステルダム最後の日の朝。私はジャケットを着ずにフリースの裏にカイロをベタベタ貼付けて、TPはジャケットを着て、アンネの家に向かいます。セイムジャケットのことにはお互いに触れずに。朝の7時40分。開館までまだ1時間以上あります。今日は30人ほどしかまだ並んでいません。昨日スーパーで買ったサンドイッチ(TP)と、カマンベールチーズ(私)が朝ごはん、少しずつお日様が強くなって、少しずつ温かくなって行く街。時間が経つごとに後ろへ、後ろへと伸びる行列。開館前にはまた数百人の列になっています。何だかせっかくアンネフランクの隠れ家に来たというのに、列に一緒に並んでいる人と交流しないのはもったいない、そう思って後ろに並ぶフランス人の女の子たちに、ドイツで買った飴を渡してみました。サンキュー!と喜んでくれました。やがて開館。ひそひそ声で、一階から、二階、そして屋根裏部屋へとみんなで一歩ずつ、進んで行きます。アンネの楽しみは伯父さんがくれる映画雑誌。その切り抜きがたくさん壁に貼ってあって。最後の部屋で日記の実物を観ると胸がいっぱいになって、いつの間に誰も口を利かなくなっています。

アンネの家を出て、すぐ裏の運河にかかる橋の上で、TPとしばらくまだ列に並んでいる人たちを眺めました。


橋を渡った向こうの、ヨルダン地区という地域、下町のような場所だそう。カフェでコーヒーを飲みます。夜はバーになるらしい。酒瓶を引き取りにきた業者のお兄ちゃんたちは、テキパキと働いた後でバーのママからコーヒーを一杯ご馳走になっています。楽しそうにお喋りした後、ありがとう!と仕事に戻って行きました。そんな風景すら、胸にぐっと来ます。

また歩きに歩いて、ゴッホが描いたという橋や、また広場、小道、広場。名物だというにしんの酢漬けサンドを食べて、また歩きに歩いて、味を忘れないように、もう一度にしんの酢漬けを食べて歩いて。お昼ご飯を食べにレストランへ。

イタリア系移民のお店でしょうか?ていねいな味と優しい接客にうっとりとします。

アムステルダムは、いたるところチーズ屋さんだらけ。チーズの飾り物に頭を乗っけて写真を撮ってもらっていると、道行く観光客の人たちが指をさして笑っています。笑われるってなかなかいいものだな。大通りでもまたチーズのオブジェに抱きついて写真を撮っていると、ホームレス風の男性がチーズ!と言いながら笑ってきて、英語で話しかけられました。今日はすごくいいジョークを思いついたんだ、もし君たちが笑ったら20セントちょうだい、笑わなかったら僕が20セントあげる、そう言っています。でも「私は英語が得意ではありません、笑えるかどうか」と伝えると「大丈夫、ゆっくり喋るから」お風呂に入っていないようで、歯も汚く、匂いもずいぶん臭いけれど、まだ若くて顔もキレイな男性。わかった。その挑戦を受けることにしました。世の中で、一番熱いものってなんだ。答えの最初の文字はP。最後はN。そう言います。さっぱりわからないけれど、その男性は「普通の人はここでPORNって答える。これは裸の人って意味。そこで僕は答えはポップコーンだよって言うと、みんな笑ってくれるんだよ!」そう言って、大笑いしているのでつられて私は大笑い、TPは半笑いしています。「さ、20セントください」と言うので、こういうときのために?ポケットにあらかじめ入れておいた20セントや10セントをいくつか渡します。ポーンって言葉知らないけどもう覚えた、そう伝えて笑うと、とても嬉しそうにしてくれました。そのちょっと臭い男性は、アジアの人たちはあまり会話してくれないけど、今日は会話ができてとっても嬉しかったよ、ありがとうと言ってくれます。会えて嬉しかったよ、そうお互いに言い合って、握手をしてお別れ。彼は次の観光客に声を掛けに去って行きました。


カフェ・アメリカン。「文化財にも指定されているアールヌーヴォーの美しい店内」と歩き方が言っているように、ダウンジャケットを着ずにやせ我慢で歩き続けた身体が、一瞬で暖かくなって、満たされるカフェ。こういう豪華な店ではチップとかいるんだろうか?とドキドキで観察していると、老人たちのグループが割り勘していたのでホッとします。


ホッペ。「アムステルダムで最も有名なカフェ。1670年創設で」と歩き方が言っているとおり、活氣も、素早い接客も、味わったことのない快感があるバー。他の人が頼んでいる丸い揚げ物を頼むと、他の席の人から「あれはこの店で一番有名なもの。コロッケじゃない、◯◯(聞き取れなかった)だよ。◯◯」そう声をかけてくれます。一日中、アムステルダムの街を歩いたご褒美をもらったよう。

宿でひとやすみして、最後の夜だからと近くのバーへ繰り出します。店主のおじさんはちょいちょいお酒を飲みながら、千鳥足。注文を忘れないように繰り返しながら厨房へ戻っています。何だかわからない丸いおつまみを頼むと、新作ソースだよ、とレンジでチンしたものに何かをかけたものが出てきました。「ぬるかったら言ってくれ、もう少し温めるから」タイ風のソース?ひとくち齧るところをカウンターからじーっと見られています。…ぬるい、そう言うともう一度レンジでチンしてくれました。

どんどん酔っぱらっていく店主の、何だか寂しそうな背中。帰り際、振り返ると、バチッとウィンクして手を挙げてくれました。まるで逢引の別れ際のよう。

帰り道、手づくりアートのお店で、思い出になるかと世界地図がランダムに貼ってある鏡を買います。店主の女性が「プレゼント?」と言うので、いえ、自分用ですと答えると「それならプレゼントじゃない。自分へのプレゼントなら、ちゃんとラッピングしなくちゃ」と蝶の柄の包み紙でていねいに包んでくれました。アムステルダムったら!ステキなお店ですね、お店の雰囲氣とか、特にあのアンティークの小さな飾り物とか、そう言うと、あれは父の家から持ってきたもの。氣に入ったものある?と言うので、小さな針金折りのバケツとコップみたいなものを指差すと、「これは私からのプレゼント」そう言って包んでくれました。どこまでステキなんだアムステルダム!隅から隅まで!私が道路に飛び出してバイクからブーッと鳴らされたときも、見知らぬ車椅子の人が「そこは自転車とかバイクの専用道だよ」と笑ってくれたし、チーズ屋さんでは小さなチーズを買っただけなのに店の人が「わたし、ニホンゴすこししゃべれる」と笑って話しかけてくれたし、思わず道でぶつかった人たちも微笑んでくれたし。目をギューーッと閉じて、アムステルダムで感じたことをこのまま固まらせたい。最初はドイツとか寒そうでイヤー、オランダとか今はまだ行きたくない!と言ってもしかすると悲しい思いをさせたかも知れないTPにもたっぷりお礼を言って、ギューーーッと目を閉じて、ぐっすりと眠りました。