芸術の中だけを生きてきた人

またしても!吉増剛造展へ行くことにしました。RCと待ち合わせている、地下鉄の駅の先頭車両に向かいます。エレベーターで乗り合わせた見知らぬお婆さんから、この路線の乗り換えができて、本当に便利になったわねと話しかけられます。本当にそうですね、ずいぶん楽になりましたね、と答えます。


RCが、恵比寿でも吉増剛造さんの写真展があると教えてくれて、最初にそちらへ向かいます。ギャラリーのわかりづらいこと!猛暑の中、グルグルと歩き回ってようやくたどり着きます。開館時間までまだまだ時間があったので、近くのミニストップでお茶をします。

お互いの近況をお喋りし合って、じーんとしたり、驚いたり、悔しがったり笑ったりします。広尾のミニストップの一角で。


ナディフというギャラリーは、入場料無料でした。日記でもあるポラロイド写真の裏に書き貯めた言葉を、あらたに印刷し直して再現してある展示の可愛さ、キャッキャと笑って、感激して、ひとつずつ言葉を探して、写真を眺めて堪能します。

RCが前に働いていた職場近くの神社を教えてもらいます。道を曲がった瞬間に、パッとこちらを向いて笑顔を向けてくれるような神社。小さいのに、お参りする人が絶えません。手を洗って、お賽銭を納めて、大きい鈴を鳴らしてお参りします。隅々まで自由になれますように。ガパオ食堂でランチをして、地下鉄に乗って竹橋へ。


3度目でも、一歩踏み入った瞬間に、またここに来て良かった〜!と心から思います。脱力できる場所。今日もまたGOZOシネマを浴びます。いつまでも見ていたい。毎回、来館者が増えているようにも思える。今日は床にまで座り込んで観ている人たちもたくさん。私とRCも床に座り込んで、映画を観ます。

いつの間にか閉館時間。出口を抜けるとロビーで吉増剛造さんご本人のサイン会が開かれていました。


たまたまRCにプレゼントしようと思っていた新書を持っていたので、サイン会の列に並びます。RCも図録を買いに行って、列に並びます。サインが欲しいわけじゃない。ただ、近くでご本人の目を見たい。どんな声か、直接聞いてみたい。後ろの方のお喋りで「全然わかんなかった!何かひとつでもわかりたいと思って一所懸命見たの、でも全然、わかんなかった!」などと聞こえます。今回の展示はどうやら、本当に全然わかんなかったと思う人も多い様子。それもかえって我が事のように嬉しい、色んな感想があることが。今回は私にもRCにも、響いて揺さぶってくれたけれど、それは幸運だったのかも知れない。

いよいよ。RCが「3回、来ました」とても揺さぶられたことを吉増剛造さんに伝えて喜ばれています。「踊って欲しいなぁ〜」と言われている声も聞こえます。

私の番。「私も、3回来ました。来るたびに…自由になれます」と言うと「いいね〜!」とのこと。そして、どうしてももうひとつ何か伝えたくて「隅から隅まで、楽しかったです!」と言うと、そう?嬉しいね〜。その感性、次はあなたがやって下さいよ。あなたがやってね。あなたはもっともっと言葉がでてきそうだね〜。剛造さんはどの人にもしっかり目を合わせて、ちゃんと会話して、ひとりずつの名前を書いて、ひとりずつ固い握手をしています。

じーん。RCと3人で写真を撮っていただいて、宝物にしようと思います。まだまだサイン会に並ぶ長蛇の列の脇を通って、美術館を後にします。

あー、良かった。最高やったね。今日の感想やお互いのおしごとの悩みも織り交ぜてお喋りしながら、お茶を一杯だけ飲んで、地下鉄の駅で別れます。最高やった。ありがとう。あんなに格好いい人が同じ世の中に生きていることがわかっただけでも、ここまで生きてきた甲斐があったと言うものです。芸術の中だけを生きてきた人に触れることができて幸せになりました。