金色のパヤー

朝の6時半に起こされて、渋々顔を洗います。はっ、ミャンマーに行くんだった!実家から送られて来たふくちゃんラーメンが朝ごはん。これで冷蔵庫は空っぽです。東京駅から1000円バスに乗って成田まで。タイで飛行機を乗り換えてヤンゴンまで。この移動だけで今日という一日と、今日の元氣を全て捧げているかのようです。ヤンゴン国際空港は、出迎えの人でギュウギュウ、その顔を見ただけでこの国は家族への思いが濃い国なんだなと想像します。

この国の通貨に換金するには、成田で円をドルに両替をして、ヤンゴンでドルをチャットに両替する仕組み。そしてドルは新札じゃないとチャットに替えてくれないと成田の両替所のお姉さんたちが言うので、おこづかいとして両替した100ドル札(1万673円)を、紙に挟んでポーチに入れて、絶対に折れないように運んできました。TPは旅行中の生活費を両替しています。私も大事に運んだ100ドルを両替すると126,800チャットになりました。わーい増えた!ものすごいお金持ちになった氣分。空港からタクシーに乗ると、ぼったくられるとガイドブックには書いてあるので、タクシー?と連呼する客引きの人たちを何とか交わして空港前の道に出てみたけれど、歩道もガタガタ、謎の砂が山積み、猛スピードで走る車とプッププップ鳴り続けるクラクション、タクシーたちがこの暗い中でどうして一発で日本人だとわかるのか、まるでスターが握手を求められるかのようにタクシーは次々と路肩に集まってきます。その全てを断って薄暗い街灯にも氣圧されて、我々日本人労働者の夫婦は寄り添うようにまた空港に戻ります。ジワーッと来る暑さ、ちょっと歩いただけでミストサウナに入ったかのような汗。

交渉の末、タクシー代は中心地まで7000チャット(約600円)。本当は交渉する必要はない、普通の料金のような氣がする。砂ぼこりだらけのタクシーに乗って街を走っていても街灯の明るさは日本の10分の1ほどで、目を凝らさねば何も見えないほど。黄金に輝く巨大金色玉ねぎが見えたのでワーッと言ってみると運転手さんは「シェーダゴンパヤー」とつぶやいていました。ホコリだらけで灰色になったバスはドアが全開のまま爆走しています。街の中心に入る角を曲がると、ホコリだらけの道にはズタ袋、ポリ袋、紙パック、バナナの皮、ありとあらゆるものが捨てっぱなしに捨てられまくって山になっているのが見えます。その先にまた金色玉ねぎ。スーレーパヤーというお寺らしい。ここで下車します。タクシーを降りるときに「チェーズーティンバーデー」ミャンマー語でありがとうと言ってみると運転手さんはプッと吹き出して、チェーズーティンバーデーと返してくれました。一歩踏み出しただけでも、草履の中にどこからどう運ばれてここにあるのか判らないような砂がジャリッと入ってきます。何だかよく判らない汚水みたいなのや、近くを見渡しただけで見える野良犬も10匹以上、セメント袋やらレンガやら、ビショビショ、ジャリジャリ、グチャグチャしている歩道、そして絶望的なほど暗い街灯の光量。汚ねぇ〜!がヤンゴンの街の第一印象です。

目の前にホテルがあったので入ってみます。空き部屋はありますか?と聞くと、中華系に見えるホテルのオーナーらしき女性はYes。アバイヤブルと言っています。アバイヤブルは空き部屋と言う意味らしい。部屋を見せてもらうと、パヤー(お寺)が窓から見える部屋で、ベッドシーツも清潔で、お湯の出るシャワーもあってトイレットペーパーもある。今日はくたびれたのでここに泊まることにしましょう。宿泊代は45ドル。

汗まみれホコリまみれ、移動疲れでクタクタ、シャワーを浴びながら改めて見回すと隅々まで何となく不潔で、水も排水口に向かって流れては行きません。それでも、オエーッとえずきながらシャワーを浴び終えるとようやく元氣が出てきました。

汚水だらけゴミだらけ砂だらけ野犬だらけの道を歩いて晩ごはんへ。生ゴミが腐ったような匂いの街。インド人街をミャンマー人たちからジロジロと見られながら2往復してカレー屋に入りました。


塩っぱい!注文で迷っていても、注文をしても、ビールはあるかと尋ねても、物珍しそうにインド人街のミャンマー人店員たちはジロジロとわたしたちの一挙手一投足を凝視して、プッと吹き出したり、コソコソとうわさ話をしたりしています。店長らしき人からおいしいか?と聞かれたのでおいしいと答えます。6400チャット。おいしいっちゃおいしいけれど、塩っぱいとは言いません。この店にはビールを置いていないと言うので、散歩がてら近所の店をウロウロ。露店で売られているジーンズは1本6500チャットが相場みたい。屋台の皿は洗い桶にためたままの洗剤水にどぶんと浸けてそのまま雑巾のようなもので拭くだけみたい。朝の渋滞のようにたくさんの人が路上を歩き回っていて、その人たちからジロジロ見られながらコンビニっぽい店に入ってビールはあるか尋ねると、横にいた店の子どもらしい男の子(推定9歳、メガネっ子)がここはノービアー。ビールならジーエンジーにある、この道をまっすぐ行って右側と教えてくれます。ジーエンジー!ゴーゴー、3ブロックライトサイド!お礼を言ってジーエンジーを探します。


ゴミだらけの道を歩くとほの灯りの中「g&g」の看板が見えました。ビールとミャンマーのポテトチップス、コーラなどを買います。店を出てホテルまで戻る道、TPは野良犬からワンワンと吠えられてまるでキアロスタミの短編映画、私は行き交うネズミにヒィーっと声を上げて飛び上がります。

何とかホテルに戻って私が持っていた鍵の番号を頼りに部屋を開けると、見知らぬスキンヘッドの西洋人が真っ裸でいるのがちらっと見えたのであわててソーリー!!!!と謝ってドアを閉めます。下半身をドアで隠しながら再び顔を覗かせた西洋人中年男性にもう一度謝って、鍵の番号を見せると、それは私の鍵だ、くれくれ。君たちがもし鍵が無いなら受付にそう言ってくれ、鍵を受け取るとすぐにドアを閉められて面食らいます。見た目は怖かったけれど、口調はそう怖くない感じのおじさんだったな。向こうの方が余程怖かったかもな。真っ暗な廊下でバッグを探るともうひとつ鍵が出てきました。記憶をたどると私は受付に置いてある鍵を、すでに自分たちの鍵をもらっていたにも関わらず、ぼんやりして自分の手提げにしまっていた光景がフラッシュバックのように思い出されます。

部屋に戻って、ひとまずヤンゴンに、そしてこの部屋に戻って来ることができたことに乾杯。TP「うぇー、甘っ」、私「うぇー、まずっ」甘くてまずいビール、もう二度と買わないように手帖に商品名を書き付けます。


窓を開けようとすると、網戸がぶっ壊れて外れていました。宿の人がメニーモスキートと言っていたので窓を開けずに覗いてみると、パヤーがライトアップされたまま夜中でも金色に輝いています。ミャンマー。何となく想像していた穏やかな国とはちょっと違うようです。わくわく!