バス移動と運動会

泊まった宿には朝食がついているよう。その前に散歩がてらヤンゴン中央駅の手前にあるチケット予約センターへ行ってみました。驚くことに廃墟と見まごうゴミだらけの敷地に、時間を示す数字すらミャンマーのくるくるした文字!さっぱりわけがわかりません。


4人に尋ねてたらい回しの末、呆然としていたところでおじいさんから声をかけてもらってようやく、自分たちが並ぶべき窓口がわかります。「今日の、ヤンゴンからバガンへの夜行列車のチケットを買いたい」と言うと、今日?ここは明日以降の予約席販売所だから今日の分はヤンゴン中央駅へ行かねばわからないよとのこと。陥没だらけの歩道を歩いて中央駅まで向かいます。

ヤンゴン中央駅の窓口で同じことをまた一から尋ねます。今日の夜行列車。すると寝台はいっぱい(FULL)で2号車しか無いとのこと。ソファーと言うのでベンチ型の席の絵を描いて、そこに横になった人を描いて、こうやって眠れますか?と聞くと、首を振っています。どうしよう。そう言いながら戻る道。TPが、今回の旅行で門ちゃんが一番やりたいことは寝台列車に乗ることやろ?それなら明日の席を予約するかともう一度予約センターまで戻ります。今度は別の人。明日の席を予約しようとすると寝台車はフィックス(修理)が必要、ブロークンだからしばらく予約は取れないと言います。3分ほど納得が行かないまま落ち込んで、氣持ちを切り替えて、それなら夜行バスで古都バガンまで行くしかないとあきらめます。私はこの頃、あきらめると言うことを知りました。

宿に戻って朝ごはん。トーストと目玉焼き、インスタントコーヒーとバナナです。中学生くらいの男の子が学校の制服姿で厳粛な感じで運んできてくれます。チェーズーティンバーデーとお礼を言って食べます。バナナを食べるのはここ十数年で3回目くらい?その存在を忘れていました。甘くておいしい。宿をチェックアウトして歩き出すと、カタコトの日本語で話しかけてくる男がいます。タクシー?と言うのを何度断っても、200メートルもついてきて、歩いて行くからいいと言っているのに、アウンサンマーケットに行くんだろう?帰りに待ってるなどと言います。街の中にはだんだんと活氣が出てきました。ヤンゴンマーケットは朝9時開店と聞いていたのに、9時を過ぎてようやく準備を始めている様子。あきらめて移動しようとすると先ほどの日本語カタコト男に見つかってわーっと近づいてきたので、きびすを返して逃げていると突然、あなたたち、私をバカにしてるね!バカにしてると許さないよ!と怒鳴り出すので、バカにしてない。そうはっきりと目を見て言います。カタコト君はまた同じ台詞をひとりで繰り返して、だんだんと興奮してきたのか、私をバカにするとあなたたちなんかいつでも日本に行って、コレ(グーのポーズ。ボクシングじゃなくて原監督の方)だよ!とひとり興奮が納まりません。私はとても悔しくなったので、私はバカにしていない!あなたが私をバカにしているんじゃないか!と言い返してみると、あなたの方がバカの顔だよ!と捨て台詞を吐いて逃げられました。その背中に向かって「私はバカにしていない!あなたが私をバカにしたんだ!」と3回ほど叫ぶと、行き交う人も露天商のおじさんも、同情的な顔を私に向けてくれ、悲しい顔で微笑んでいます。これまで訪れたいくつかのアジアの国では、ノーサンキューだけで割と早く撤退してくれていたけれど、こちらの客引きの人たちは、どこから来た?とかどこへ行くとか、断っても質問を重ねてきて、歩きたいからタクシーには乗らないとはっきり言ってもずーっと追いかけてくるのです。これから先、どうしよう。この国で旅行者はまだほとんど見かけないけれど、たった数人だけ見かけた西洋人の人たちにはそれほどしつこくしていないみたい。西洋人は怖いのかな?日本人だからしつこくしたら何とかなるとバカにされているのかな?この先が思いやられます。そしてじんわりと、落ち込みます。バカな顔って言われた。


てへっ

とはいえ、観光スポットのシュウェタゴンパヤーに行くには、バス停も見つからないしタクシーに乗るしか無いよう。停車しているタクシーに値段を尋ねると、8000チャットと言います。空港から1時間の距離を7000チャットで来たのだから、車で10分ほどの距離からすると高い。何台か断って進んでいると流しのタクシーが2500チャットと言うのでそれに乗ります。やっぱり停車してさぼっている人たちより、ちゃんと街中を走っているタクシーの方が本当の値段なんじゃないかな。シュウェタゴンパヤー。入場料7000チャットを払って靴を脱ぎます。持参のバッグに入れようとすると、靴の底にウンチがついていてガックシ。いつ踏んだんだろう。犬かな?犬だったらいいな。エレベーターに乗って入り口へ。そこにはミャンマー中から集まった人たちがまるでピクニックのようにレジャーシートを広げて、くつろいだりお弁当を食べたりしている楽園のような場所。あー、こんなところでお弁当を食べたい!せめてもと現地の人たちに混じって地べたに座ってくつろいでいると、何だかお尻がひんやりします。立ち上がってスカートをはたいてみても、しっとりしている。恐る恐る手の匂いをかいでみると。。。ウンチの匂い!人生でこんなに悲しいことがあるでしょうか。パヤーにも野良犬はゴロゴロいるから犬のフンだと思いたい。泣きそうになります。持参の除菌クリーナーでスカートの後ろをTPに拭いてもらいます。周りのミャンマー人参拝者たちは、何かトラブルがあった人をそっと見守るような目でこちらを見つめてくれています。それにしても私がウンチに座ってしまったと言うのにTPが全く動じていないので、TPあんまり驚かんね、くたびれたと?と言うと、いや、お前ならウンチの上に座ることくらいあるやろうなって思いよったけん、大丈夫とのこと。しばらく拭いた後で、よしOK。もう取れたと言うのでそれを信じて、パヤーを歩き回ります。年齢の数だけコップで仏像に水をかける儀式をやってみます。20代くらいまでは楽々進むけれど、その先が腕がもげそうになります。年齢の重み。

パヤーを出て、裏にあったバス停で真面目そうな女子学生に道を聞いてみました。今日、バスでバガンに行くにしてもチケットセンターがわからなかった、それなら空港近くのバスセンターに行ってチケットを取りましょう。女子学生が言うにはバスセンターまでのバスは無いからタクシーがいい、6000チャット、バスセンター内に入るならプラス200チャットを払ってください、とのこと。ここでしょ!とお礼に豪徳寺で買った豆招き猫を渡そうとすると、小封筒に入れたままだったからお金だと思われたのでしょうか、ノーノーと断られて遠慮されたので、リトルキャット!と強引にもらってもらいました。とても喜んでくれる女子学生。あー、あんなに恐縮されるくらいなら、招き猫なんか用意するんじゃなかった!

タクシーに乗り込んでから、豆招き猫を全部、小封筒から出します。それから、親切にされることを想定して用意してきたことが嫌らしいんだ、こんなもの、何だい!と自分の膝を噛むような思いで、親切にされなくたって誰かに渡そうと決めます。

ゆったりと乗りはじめたタクシー。いくつもの街を超え、いつまで経ってもバスセンターに到着しません。昨日の夜、空港からこちらに来たときは夜だったので氣付かなかったけれど、お昼に見る景色はずいぶんと街が続いて、バスチケットを取ったとしてこの道をまた中心街まで戻ってくるのは無理だと決めました。

昼の12時。バスセンターに入ろうとするタクシーには順番に高校生くらいの男の子が駆け寄ってきて、運転手がお客の目的地を伝えて、男の子たちが案内する仕組みらしい。なので乗車賃として6200チャットを運転手さんに渡します。バスセンターとは、数十社のバス会社があちらこちらの路線とバスを持っていて、必要に応じて自分たちでそれぞれ選択するところらしい。最初のバス会社に尋ねると夕方6時出発とのこと。別のところを訪ねるとこちらは6時半出発とのこと。どうしよう。TPと話してヤンゴンから上(北の方)を見たとして、中心部にあるインレー湖を左回りするつもりだったけれど、いっそのこと右回りでチャイティーヨーへ行こうか。別のバス会社でチャイティーヨー行きのバスを尋ねてたらい回しの末、チャイティーヨー行きはラスト1本、2分後の12時15分発とのこと。でもアイムハングリーと言うと、じゃあ12時30分ね、と言うのであれ?とは思いながらもバスセンター内の食堂で急いでごはんを食べます。


チャーハンかヌードルしか無いと言うお店、10分ほどしか時間が無いのであわててその両方を頼みます。旅行者は水道水を絶対に飲んじゃダメとのこと、小学生店員に水は?と聞かれたのでうなずくと当たり前のように1リットル入りのペットボトルが出てきます。そういうものらしい。日本人がおいしそうに食べているのを見て、遠くからニコニコとしてくれている小学生店員たち。水も入れて3400チャット。思いがけずおいしい!と喜んで時間ギリギリにあわててバスに乗ります。わたしたちを遠くに見つけたバス会社の人が必死に手招きをして、一緒に走って呼び込んでくれてバスに乗った瞬間にバスは出発します。嫌な予感はしていたけれど…本当は12時15分発のバスを、どうやら15分遅らせてくれたのでしょうか。運転手さんは遅れを取り戻そうとするかのようにアクセル全開、クラクション鳴らしっぱなしで次々とアクション映画のように前の車を追い越して行きます。バス代はひとり7000チャット。日本製のバスは、エアコンのガスが抜けたような暑さ、汗びっしょりになります。

都心からだんだんと離れて、草原の景色。途中のガソリンスタンドで、トイレに行きたいと行ってひとりだけ降ろしてもらいます。荒い舗装の道路のデコボコ、ガタガタの揺れが心地良くいつの間にか眠っています。目を覚ますといつの間にか物売りの人が来ていたらしく車内の人たちはみんな、ゆでとうもろこしやらおやつやらを食べています。悔しい!私だってとうもろこしを食べたかった。

街っぽいところと、平原のところを何度も交互に通貨しながら、有料道路と普通の道路の差が全くないのに、何度も有料道路の関門を通りながら、日が暮れる頃ようやくバスはチャイティーヨーに行く人たちが宿泊する街、キンブンに到着しました。

客引きの人たちを何とか煙に巻きながら、今夜の宿はどうしようと歩き出す街。こじんまりとしているけれど、浅草みたいな賑やかさもある。チャイティーヨーとは大きな岩が金色に塗られていて、岩場から落ちそうで落ちない仏石が名物の街。たくさんの人に尋ねながら、今晩の宿を決めます。バンガローみたいな建物がたくさん並んでいる宿、オーナーだかオーナー代理だかの男はまだ20代みたい、足を折って松葉杖をついています。25ドルと35ドルの部屋があるけどどっちも見ておいで、ニカッと笑う顔は芝居の中から飛び出したかのよう(安倍なつみのダンナ似)。手下のような17歳くらいのナスビのような顔の青年に案内されて、25ドルの部屋に入ると戸棚がぶっ壊れていて、お風呂はカビだらけで氣色が悪くて絶対に嫌という部屋。35ドルの部屋に入ると割と清潔に思えたのでそちらにします。

今日まさか、チャイティーヨーに来るとは思ってなかったねなどと話しながら、シャワーを浴びたTPが、天井裏にネズミがおると言い出します。耳をすまさなくたって、ドタドタドタと駆け回る小動物の足音。静かにしていると、チュウチュウとすら聞こえます。あわてて日本から持参してきた、蚊に効くワンプッシュを5〜6プッシュすると、おとなしくなりました。そして数分経つと本当に蚊も床に落っこっています。それにしてもバスは暑かった、洗面台で着ていたものを全部洗濯して、衣類かけに引っかけて、壁掛け式の扇風機を当てて、乾かします。日がすっかり暮れた頃、晩ごはんへ。


まだこの街で外国人らしき旅行者をひとりも見ていない。歩けば歩くほど、立ち止まっても振り返っても、薄暗い街灯の先から、ミャンマーの人たちがこちらをジーッと見つめています。賑やかな道では、レストランへの客引きの女の子たちがたくさん。キンブンの街の賑やかなところを2〜3周して、清潔そうな店に入って晩ごはん。勤労小学生たちからジロジロ見られながら、蠅を手で追い払いながら注文した料理を口にします。


あら、またしてもおいしい。どうやらミャンマーはカレーが郷土料理みたい。日本のようにルーをなみなみかけずに、小皿に少しだけ盛って、大量のごはんで食べるらしい。カレーを頼むと生野菜が出てくるらしい。つけ合わせにメンマみたいなものと、シソの葉のサラダみたいなものが出てくるらしい。豆料理を頼んだら納豆をピリ辛に炒め煮にしたようなものが出てきたけれどこれもおいしい。カットしたフルーツや生野菜は食べない方がいいとガイドブックにあるけれど、くたびれているので忘れて食べてしまいます。子ども店員たちから見守られるように食事を終えて、宿に戻ります。今日はお寺に行ってバスで移動しただけの日。バスで移動したお陰でミャンマーという国を少しだけ知ることができた。ミャンマーの人は家族単位で移動することが多い。ミャンマーの人は色々買い食いすることが多い。道路沿いには同じようなものを売っている商店や露店が多い。明日は早起きして、ミャンマーの聖地、チャイティーヨーにトラックで上がります。屋根裏でネズミたちが運動会を始めたので、絶対にこっちに来んでね!と祈りをこめて、蚊に効くワンプッシュをまた5プッシュして、寝ることにしました。