ハーメルンの笛吹き

夕べ、TPはチェックインしてから眠りっぱなし、私も夜10時には寝たので朝の5時頃にふたりとも本格的に起き出してしまいます。TPは夜中にも起きて、松本侑子の本を読んだそう。ここまで来られた過程、同じ宿にサンダーバードみたいな夫婦がいること、星がすごかったことなどあれこれ小声でおしゃべりしながら、もういっそのこと朝だから散歩に出ましょう。誰ともすれ違わない遊歩道を海の方に向かって歩いて、野生のリンゴの実が落ちているのを見て、拾って食べようか少し悩んだけれど、ほとんど腐っているのであきらめます。

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海に行けそうだけれど、熊よけみたいな電線が張り巡らされているので、ここで熊に襲われたら旅行が続けられないからと、海まで歩くのは自粛します。

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宿の近くまで戻って、

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四つ角にあるモンゴメリーさん夫婦のお墓にもう一度ご挨拶して、

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モンゴメリーさんの銅像のある公園へ行ってみます。ひとっこひとりいない村。

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宿に戻って、8時から開いているという朝食バフェッ、やっぱりひとっこひとりいません。置いてあるソーセージやパン、玉子などを皿に取って、食べ始めます。

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やがて宿のオーナーだか誰だか女性が突然現れて、ハーイ、エブリシングオーケー?と声をかけてくれます。ナイアガラ・フォールズでも、シャーロットタウンでも、ケチャップとマスタードが必ずテーブルにあったので、マスタードはありますか?と尋ねると、無い、とのこと。びっくり。ケチャップとマスタードはカナダの必須アイテムなのかと思っとった。ついでに、ワインオープナーはありますか?と聞くと、あるとのことで持ってきてくれました。結局誰も食堂に降りて来ず、TPとふたりっきりで朝食を食べ終わって、部屋に戻って、ワインのコルクを開けて、水筒とペットボトルに移し替えます。これでPEI産のワインがやっと飲めます。TPは朝シャワーを浴びています。昨日も一昨日も、旅の隊長の任務を全うすることで精根尽き果てたのか、TPは連続して朝シャワーです。

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今日はまたシャーロットタウンまで戻って、モンクトン行きのバスに乗らねばなりません。チェックアウトを済ませて、せっかくなので、海まで車を走らせます。雨。(毎日雨!)

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シーズン中なら有料だという国立公園、シーズンオフだから誰も係のひとがおらず、どこが入り口かわからずに道に迷っているうちに、ポンッと海に出ました。傘をさして海岸まで歩きます。赤い土の海辺、これこそが赤毛のアンの世界、映画の世界、本の世界、雨に打たれたってどうってことないほど、胸いっぱいに空氣を吸い込みます。観光バスでやってきた日本人の女性たちともすれ違って挨拶します。何となく、ロブスターの店からずっと同じコースのような顔ぶれ、彼女たちは一体どこに泊まったんだろう?

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TPは昨日、チェックインした直後にこの辺りでたった一軒のコンビニにひとりで出かけたそう、私は時間差でワインオープナーはあるかと尋ねたそのコンビニのお爺さんが経営するガソリンスタンドで、ガソリンを入れることに。「あのお爺さんが、この辺は何も無いだろうって声かけてくれて、イエスって言って、少し話した」とのこと。お爺さんが優しいから、もう一度寄ってみたくて。ガソリンタンクの開け方がわからず、同じお爺さんに尋ねてみると「おかしいなあ、プッシュするだけで開くはずだけど」と言うので、本当にガソリンを入れるところをプッシュするとカパッとタンクの入り口が開いたので3人で大笑いします。無事にガソリンを入れ終えて、同じ道を通って、シャーロットタウンまで戻ります。約30分。昨日はTPの運転が恐ろしすぎて目を閉じていた道を、今日はゆっくりと眺めながら戻ります。

11時。約束の12時10分よりも早めにシャーロットタウンのPEIカーレンタルに戻ると、イシュマエルさんの相棒の男性が「ハーイ!おかえり。キャベンディッシュはどうだった?」と声をかけてくれ「君たちはバス停まで行くんだろう?」と言うので、この辺りでランチして、12時10分にまた戻りますと伝えます。f:id:monna8888:20191005000203j:plain

私はスープ、TPはオムレツセット。シャーロットタウンは海辺の街、雨も上がってキラキラとしています。日本なら20分ほどで食べ終わりそうなお店でも、出てくるまでのんびり、食事やお茶しているひとたちものんびり、この国のチップを研究しているTPは、地元のひとが食べ終えた後に「あのおお爺さんと婆さん、テーブルにチップを置いて帰った。10%でいいかな」と2ドル置いてカードでお会計しています。席を立ってお爺さんお婆さんが置いていたチップを見てみると、25セントが2枚。食事していたはずなので、50セントのチップではガイドブックにある10%〜15%のチップには足りないけれど、チップって本当に難しいとあらためて思います。

ランチを終えてPEIカーレンタルに戻ると、イシュマエルがいました。おかげさまで戻りました、とお礼を言って、本当にモンクトン行きのバス会社まで送ってもらうことに。レンタカー屋さんには、車を借りるひとだけではなく、やたらと親しそうに入ってくるひとたち、どかっとソファーに座って楽しそうにしているひとたちがいます。イシュマエルさんの相棒(旦那さんかな?)がTPのことを「彼は本当に日本人?トルコっぽいね」と言うので、濃いめの顔のTP、西郷隆盛銅像っぽい顔のことを思って「西の方では伝統的なかも」などと答えます。

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イシュマエルさんが、さあ時間だからバス会社まで行きましょう、ただし運転は彼ね。そう言うのでえーっ!と驚くとみんなで大笑い、せっかくキャベンディッシュの往復でようやく慣れない海外での左ハンドルの役目を終えたと安心していたTPは、また運転させられる羽目になって不思議そうに鍵を受け取っています。「お店に来ていたひとたちは、お客さん?それともお友達?」「みんな友達よ」プリンスエドワード島でレンタカー屋を営むイシュマエルさんたち、仕事中にお友達がやってきては、座っておしゃべりしたりしている風景、ああいう風に余裕のある仕事をしたい、そんなことを思います。

地下駐車場から、TPがイシュマエルさんの赤い車の運転席に向かって、助手席と後部座席の鍵が開かずにあたふたするのをイシュマエルさんと私は声を上げて笑いながら、駐車場から出るときにゲートで「ヘルプボタンを押して、PEIカーレンタルって言って」と言うのでTPはヘルプボタンを押して「ピー・アイ・イーカーレンタル」と言われるがままに間違っているけれど言っています。無事にゲートも開いて、バス会社まで約2キロの道。「ライト」「レフト」日本から来た左ハンドルに慣れない運転、イシュマエルさんも怖いだろうに、まるであらかじめ覚悟を決めているかのように穏やかな声、そしてTPにもう一度シャーロットタウンを運転させて、思い出にしてほしいと願っているかのように、静かに「レフト」「ライト」と道案内をしてくれます。私もじーっと黙って後部座席に座っています。

やがてバスセンターに到着して。緊張して無口になっていたTPが車を停車。「いい経験でした」「イエス!」イシュマエルさんと私は大笑い、TPは安堵の笑い。「本当にありがとうございます」イシュマエルさんと握手して別れます。

バスケ部みたいな少年たちや、用事がありそうなお婆さん、おじさん、ギターを抱えた少女、彼女のともだちで一緒に旅行するのかサボテンを鉢ごと持ってきている少女。バス会社の待合室には色んなひとたちが集まってきます。初対面のはずなのに、何となくおしゃべりが始まっているのが不思議。「私は37歳でおばあちゃんになったのよ」とか「どこに行くの」とか、見知らぬ人同士でずーーっとおしゃべりしています。午後1時、バスにみんなで乗り込みます。

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モンクトンまでは3〜4時間ほど。イシュマエルさんたち、不思議なひとたちだったな、親切なだけじゃなくてよく笑うひとたちだった。生まれる前から知り合いだったかのように。

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バスの運転手さんがチケットのチェックをします。QRコードを、スマホでピッと読み込んで回ります。「このバスはモンクトンまで直行ですか?」と尋ねると「途中で乗り換えだよ」と教えてくれて、少し慌てます。1時間半ほど走ると、ガソリンスタンドにバスは停まります。ここもキャベンディッシュのガソリンスタンド兼コンビニと同じTim Hortons。15分の乗り換え兼休憩時間、みんな、コーヒーを買って飲んでいます。私は灰皿があったので一服します。見知らぬひとに話しかけられてライターを貸したりします。

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地元のひとに乗り換えのバスを教えてもらって、新しいバスに乗って。色んな人種のひとたちが乗るバスはモンクトンに向けて走り出します。

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ぐうぐう眠っていたら、モンクトン駅にバスは到着しました。どういうわけか、ロブスターから朝のキャベンディッシュの海岸、むしろ初日のシャーロットタウンで泊まった宿から一緒の日本人のツアー客の女性たち、またここでも待合室で一緒になります。モンクトン発、ケベック行きの寝台列車に乗るのでしょう。

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カナダを紹介するらしい、日本のテレビクルーも来ています。シャーロットタウンでもすれ違ったひとたち。

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ふと不安になって、駅の係員のひとに、もしかしてケベックタイムゾーンが違います?と尋ねると、1時間戻すとのこと。聞いて良かった。

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きっと日本のツアー参加者の女性たちは、ちゃんとした寝台の個室なんだろうけれど、財布の紐をギューッと縛った個人旅行の日本人夫婦は、普通の座席です。車両は5割ほどが埋まっています。アナウンス無くスーッと発車する列車。やってきた女性車掌さんに、またチケットを見せてバーコードをピッとされます。TPが車内を冒険してきてくれ、食堂車があると教えてくれます。食堂車は、どう見ても初対面のひとたち同士がビールを飲んで盛り上がっています。私もビールを買ってみます。「2種類あるけどどっちがいい?」と聞かれて「わからない、どっちがおすすめ?」と答えると「わかんない。未成年だから」と店員さんに言われて呆然としていると「絶対にこっち。あっちはウェー」と舌を出して教えてくれたのは、後ろに並んでいたジプシー系の女性。彼女にお礼を言って無事ビールを買うことができます。TPはハンバーガーを買っています。まだ夜の6時。これからが長い。ケベックに到着するのは明日の早朝。もう一度、食堂車に行ってみると、さっきおすすめビールを教えてくれたジプシー系の女性もいて、その場のみんなが「そろそろスモーク!」スモーキングタイムだとにぎやかに、車両の乗降口に向かっています。私も、タバコを吸えるのならと一緒にくっついて行ってみると、彼らが手にしているタバコというのは、吸口も無いような紙で何かを巻いてひねってあるタイプのもの。これってもしかして。列車が停車してどーっと降りる陽氣な男女、みんな初対面らしい人たちのグループに混じって私も降りてみると、誰?みたいな声が聞こえてきて、車掌さんがあと2分よ!と声をかけてくれて、あわてて一服してまた電車に乗り込みます。後ろの方で「彼女はもう私の友達よ」などと聞こえてきます。この一団はどういう集まり?席に戻って、もう寝ているTPを起こして、ハーメルンの笛吹きみたいなのに着いていったら、何か不思議なひとたちやったと報告して、私も眠りに着きます。すぐに電氣も消えて。真っ暗な車内。前席の男のところに、ジプシー系の女性がやってきて、ふたりは抱き合って眠り始めました。あまり見ないようにしよう。寝たり起きたりしながら、TPも寝ているはずだけれど足を伸ばせないのが辛そうだから、別の空席に移って2席分を確保して眠ってみたりしながら、列車はケベックに向けて移動しています。他の乗客もみな、空いている席に移って2席分に寝転がっています。いつの間にか、お向かいの席にも知らない男のひとが寝ていてギョッとします。真夜中、窓の外を覗いてみると、どこまでも続く野原と、オリオン座がくっきりと見えています。寝坊しないように、持参した目覚まし時計を朝6時にかけて、何度も寝たり起きたりします。