大工さんの倉庫

monna88882016-05-25

朝の8時半、畳屋さんがやってきました。白いシャツに白いチノパン、白髪のおじいさん。足元は地下足袋雪駄です!格好イイ!すぐに、全く同じ白いシャツに白いチノパン、白髪まじりのおじいさんが現れたかと思うと、同じ顔で驚きます。どうやら兄弟で畳屋さんをやっているんだな。部屋に入ってもらうと「わー、全部片づけて下さってる、おい、こちら、全部片づけて下さってるよ!」と大喜び。本棚もテレビも何もかも、移動させてと言われていたからそうしただけのことですが、案外そのままにしている依頼者も多いのでしょうか。畳は次々と運び出されて、あっと言う間に木の床がむき出しになりました。その汚いこと!ほこりだらけの床には、1円玉やポイントカード、藁くずや土ぼこり、わたぼこりがビッチリ。どうやら私が掃除するようです。

畳屋さん兄弟が帰った後、しばらく呆然としました。そして、セブンイレブンへアイスコーヒーのLサイズを買いに行きます。アイスコーヒーを飲んで心を落ち着けて、ホウキとちりとりで掃除を始めます。

しばらくすると、大工さんがやってきました。おはよーと部屋に入ってきます。畳が剥がされて木の床丸出しの部屋を見た大工さんが「新聞紙敷く?」と言うので、新聞紙が無いと答えると「うちにあるから、後で取りにくるか?」と言うので、行くと答えます。こないだ、偶然に大工さんちの前を通って、手を振ったと言うと、全然覚えてないとのこと。大工さんが襖を外して運び出す作業をする間、私は床のお掃除をしながら、心は喜びに打ち震えていました。大工さんのあの倉庫、見られるかも!!!

外に出て、自転車は?と聞かれたので、盗まれたと答えると、荷運び用のサイドカーが付いた業務用自転車に二人乗りさせてくれると言います。ヒャッホー!鉄の荷台に腰掛けて、大工さんの倉庫まで短いドライブです。大工さんは顔が広いのか、すれ違う何人もの人たちと挨拶を交わしています。「大通りになったら、1回降りてな。サミットだから」大通りに出ると確かに、警察官があちこちに立っています。


大通りを渡ると、また荷台に乗せてくれます。「こっからは下り坂。神田川の方に向けて、下ってんだ」いよいよ大工さんの倉庫のご近所、挨拶の回数もハンパ無く増えてきます。「この自転車で二人乗りするのは、覚えてるだけでも3回目だな」

ついに倉庫に到着しました。倉庫前で、キレイに折り畳まれた新聞を受け取って「じゃ」と言われたので、思い切って「倉庫、見せてもらってもいいですか」と切り出します。「倉庫?あー、いいよ。めちゃくちゃだよ。その椅子に腰掛けな」ガレージを改装した倉庫に、とうとう足を踏み入れることができました。萌え〜(生まれて初めて使う言葉)!萌えが満開、萌えが止まらない!まずは壁に作り付けられた棚をじっと見ます。


「あんた、コーヒー好き?」缶コーヒーをくれたので、椅子に座って飲みます。箱買いしているらしい。空き缶は全部、同じコーヒーの缶。壁には何種類ものペンチや、ハサミ、金槌などが配置されていて、天井には掛け軸やら、美人さんが映った雑誌の切り抜きやら、ロープやら、包丁やらが設置されていて、反対側には木の道具箱が並んでいて。「面白い…」そう言うと大工さんは「そうかい?こんなんが面白いかね。あんた変わってるね。うちのカミさんだって来たことないよ」開けっ放しのガレージ倉庫は、前を通るご近所さんたちがどんどん立ち寄って、少しお喋りしては去って行きます。「この場所に来て7年。前は豆屋さん知ってる?あの裏の倉庫借りてたの。豆屋さんが建て替えするって言うから、ここに来たわけ。震災のときはここで寝たんだよ、川越まで帰れねえから。寒かった〜」えっ、お住まいは川越なんですか!と尋ねると「そう。川越から通ってんの。もう50年だよ、昔からこの商店街であちこちから仕事頼まれてさ、でもこの頃は外国人ばっかりになったからさ、仕事が減ったんだよ」安楽椅子に座って缶コーヒーを飲んでいる大工さん。私が反対側の壁に取り付けられた道具箱をじーっと見ていると「それは、サンダーバード左官屋さんになるときはこれ、水道屋さんになるときはそれ、ペンキ屋さんはそれ、襖屋さんはこれ、網戸のときはこれって全部決まってんの。サンダーバード出動、みたいにして道具箱選んで、自転車の荷台に乗せて、出動すんだ」またご近所さんがきて、倉庫に設置してある流しで、雑巾を洗って、何も言わずに出て行きました。

「それよりその写真見てよ」壁に貼ってある写真は、ご近所さんたちと行ったらしい演歌歌手の歌謡ショー、美智子様ご成婚記念の写真、アパートの共用スペースに簡易テーブルを出して近所の人たちと飲み会をしている写真、職業訓練校に通っていたときの写真、などなど。「もっと言えば、俺は青森から出てきたんだ。中学卒業して、職業訓練校行って、ここに来て。最初はリヤカーで寝てたんだよ。子どもができたから今は川越に引っ越したけど。それまでは6畳のアパートだったからな」色々教えてくれて、缶入りのカンパンと角砂糖などくれるので、ボリボリと齧りながら、缶コーヒーを飲みます。またご近所さんが来て「昨日のことだけどよ・・・」みたいにお喋りが始まったので、おいとますることにしました。

嬉しい…大工さんの倉庫をじっくり見せてもらった。ともだちに見せたいからと言い訳するように写真を撮らせてもらって、「あんたいつもカメラ持ち歩いてるの?」とか言われたりしながらも、遠慮して3枚くらいしか写真を撮ることができなかったけれど、それでも嬉しい。

夕方、朝に剥がされた畳はすっかり生まれ変わって、戻ってきました。雪駄履きで、顔がそっくりな兄弟は、荷物を戻した後で4畳半の方の畳も剥がして持って帰って行きます。明日は自宅作業の日。片方は荷物でいっぱいの部屋、もう片方はまたしても木の床むき出しの部屋。どうしたもんじゃろのー。またしても、畳を剥がされた木の床むき出しのところを、せっせとホウキとちりとりで掃除します。細かいところのチリは取っても取っても、取りきれません。


新しい畳が入った部屋は、今度は荷物置き場になりました。これは、祭りだな。畳の淵の柄を選ばせてくれたので、無地の畳と同じような色を選びました。戻って来た畳は、本当にすてきで、美しくて、い草の匂いも最高です。スペイン語で言うなら、リンダ!です。リンダ・リンダ!