運命の出会い

昨晩、TPは珍しく千鳥足、ふらふらで帰ってきました。帰る前に公衆電話から電話をくれたので、百合子新刊を閉じて駅まで迎えに行ってみると、私を見つけた瞬間、パッと顔が輝いて嬉しそう、あたしって何ていい奥さんなんでしょうと思ったっけ。今日はゆっくり寝ようと思っていたところ、朝起きるとTPが、ケン・ローチの新作を観に行こうと言うので、家事の天使が舞い降りている人(あたし)が昨晩、準備しておいたもらいもののたまご麺をゆでて、天使が作らせた自家製のめんつゆで朝ごはんです。

わたしは、ダニエル・ブレイク」この映画に関しては、誰にも何も言わせない、これはケン・ローチが遠い日本という国の、ケン・ローチの映画を観たいと思っている人、ケン・ローチを知らない人、誰も彼もに、届けたいと作ってくれた映画なんだ、心臓病で大工の仕事ができなくなったダニエルさんは、社会保障の手続きに翻弄され続けます。同じく引っ越してきたばかりのシングルマザーのケイティたちも、手続きをなかなか受け入れられずに都会ならではの貧困のどん底にいます。彼らが知り合って、助け合って、ぶつかったり笑ったり、泣いたりなぐさめたりする物語は、人って助け合って生きると、それが映画のように人生が輝くんだということが、腹の底から納得できる物語。観終わって、ぐうの音も出ずに、ふらふらと街を歩きます。もっともっと、人と関わりたい。

ふらふらと歩く街、あたしは冷蔵庫をホワイトボードにして、家事に関する自分の段取りをメモとして書きたいものだからホワイトボード用のペンを買います。まず皿、調理道具、材料=バットへ、調理=道具を洗う、そう書きつけておきたくて。そして、帰り道に立ち寄った花園神社の骨董市で、ひと目みた瞬間に「出会った!あなたを探しとったと!」そう思わず口に出して言ってしまうほどのサイズ、質感、色合いのものを見つけました。

ずっと、アマゾンからのお届けものが到着するたびに、100均で買った受け取りの判子を入れるケースが欲しいと思っていたのです。紐をつけて吊るしてみたり、小さいグラスに入れて置いておいたりしたけれど、どうも使い勝手が悪かった、骨董市で見つけた、粗品として配られたらしいブリキの壁掛けマッチケースは、2千円って言われたら負けてもらおうと思っていたところ、店のおじさんが800円と言うので、負けてもらわずに買おうとすると、TPが横から「高いよ!」サクラを演じようとしてくれただけじゃなく、本当に高いと思ってそう言っています。

私は自分が買おうとしたものを高いと言われたことに、悲しい氣持ちの底から小さく不機嫌が湧き上がります。でも、買った後でポケットから取り出したケースを眺めていると、これから何十年も、私があの世に行くまで、ずっと一緒にいられるような氣がして、人生の先の方が同時に目に見えるようにもなります。(TPは高いって言ったけど、死ぬまで一緒って考えたら、そんなことないよね。玄関に飾ったところを見たら、TPも可愛いって言うよ、便利やなーって絶対言うよ、それにしても昭和の時代からよく生き残って、キレイに保管してもらえて、良かったね、ありがとうね)マッチケースを極細の釘で玄関の柱に打ちつけて、マッチケースに話しかけているうちに、心に火が灯ったように嬉しくてたまらなくなりました。バッチリ!運命の出会い!